進入闘争
8R 進入順
①石渡鉄兵(千葉) 11
⑥西島義則(福岡) 09
②服部幸男(静岡) 15
③今村 豊(山口) 06F
④魚谷智之(兵庫)+01F
⑤赤坂俊輔(長崎)+02
魚谷智之と赤坂俊輔は、
平常心を逸していたかもしれない。
30分前のスタート展示。
当然のように動いた西島義則に、
このふたりは「冗談じゃない、
そう簡単にコースを譲ってたまるか!」とばかりに
噛み付いた。
舳先がスタート方面に向くまで徹底抗戦し続けた。
あのままの態勢なら、
3人の起こしは70mだったと思う。
結局、ガチンコの大喧嘩を演じた3人は、
すべて回り直してダッシュを選択したのだった。
本番、西島はさらに激しく迅速に攻めた。
魚谷と赤坂のふたりも抵抗したが、
ターンマークのあたりで諦めた。
ふたりの舌打ちが聞こえるようだった。
そして……ダッシュに構えたふたりは、
フライングに散った。
原因は、わからない。
単にS勘を誤った、足が良化しずきていた、
勝ちたい思いが焦りになった。色々考えられる。
だが、私は思うのだ。
スタート展示で点ったふたりの闘争本能の炎が、
本番の12秒針が回るまでついぞ
消えなかったのではないか、と。
フライングの裁定が下されても、
赤坂はそれと気づかずに走り続けた。
2周1マークの手前まで、
必死に2番手・西島の背中を追い続けていた。
明日の優出へ無我夢中という風にも見えたし、
闘争本能の塊となった獣のようにも見えた。
それにしても、西島義則。
スタ展であれだけの“バッシング”を喰らってもどこ吹く風、
本番は80m起こしから泰然とコンマ09……恐ろしい男だ。
もちろん、選手の中には
この存在を疎ましく思う者は多々いるだろう。
ファンの中にも賛否両論があると思う。
それでいいし、だからこそ西島のいるレースは、
誰もがアツくなるのだ。
この進入争いや複数のフライングで観衆が騒然とする中、
安芸の鉄人レーサーは
飄々と2着を取りきってピットへと帰って行った。
明日のファイナルも6号艇。
今晩、日本中の酒の席で、
西島義則の名が極上(または極悪?)の酒肴として
俎上に上ることだろう。
クールな逃走'
9R 進入順
①池田浩二(愛知)09
②中辻崇人(福岡)16
④市川哲也(広島)18
③日高逸子(福岡)12
⑤石野貴之(大阪)16
⑥秋山直之(群馬)17'
池田が勝った。パワー自体は、
お世辞にも上位級とはいえない。
それでも、きっちりとゼロ台のトップスタートを決め、
惚れ惚れするような超高速インモンキーで
他の追随を許さなかった。
トップレーサーはどんな境遇でも、
インコースでは逃げ切らなければならない。
そんな矜持をひしと感じさせる、クールな闘争劇だった。
惜しかったのは、グレートマザー日高逸子だ。
市川哲也を入れての4カド、
コンマ12の好スタートでカド受けの市川を叩ききった。
このまま池田を付け回れば、悪くても2着はあるかも??
そう思った瞬間、思わぬ“伏兵”が51歳の女傑の夢を阻んだ。
同じ福岡支部の中辻崇人が2コースから日高に飛びつき、
はるか彼方まで連れ去ってしまったのだ。
もちろん、他意はないのだろうし、
「襲い掛かる敵にまくり差しを食ってはたまらん」と
身体が勝手に動いたのだろうが、福岡支部にとっては残念な
“無理心中”になってしまった。
2着には、その福岡競りでできた
間隙を冷静に差し抜けた石野貴之。
足は選手間でも評判で、
明日もまたズッポリの展開がありえるかも?
'博多っ子、明暗
10R 進入順
①篠崎元志(福岡)06
②岡崎恭裕(福岡)04
⑥森高一真(香川)12
③湯川浩司(大阪)14
④柳沢 一(愛知)17
⑤新田雄史(三重)17'
大の親友ともいうべき篠崎元志と岡崎恭裕。
こちらの福岡ラインの結束は強固だった。
前付けにきた森高一真をブロックし、
2艇だけが突出したコンマゼロ台発進。
まるで、福岡の畦道を仲良く並んで歩く
幼馴染のような光景だった。
このまま「逃げつ差しつ」で仲良く優出できればよかったのだが……
明暗が分かれた。
1マーク、今年のシリーズの話題を独占した元志が、
あっという間に抜け出した。
これに追随すべく岡崎も
的確な差しハンドルを入れたはずなのだが、
艇が前に進まない。握った湯川浩司が、二番差しの森高が、
まくり差した柳沢一が一斉に襲い掛かる。
ずふずぶ抜かれて5番手になった岡崎は、
2マーク、艇を外に開いてまくり差しを狙った。
「こんなはずじゃなかった」と思ったことだろう。
独走する同県のライバルの姿が目に入ったかもしれない。
ハンドルが入りすぎて、横転した。
1着・篠崎、2着・湯川。
9Rでは同県の大競り、
この10Rでは盟友が力尽き、
優勝戦の福岡支部は元志ひとりに託されることとなった。
が、きっと福岡在住の多くはこう確信していることだろう。
優勝やら、元志ひとりで十分ったい。
それくらい、今節の元志は技機ともに充実している。
(photos/チャーリー池上、text/H)