BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝負駆けの状況

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 算数苦手なんです。計算間違いは日常茶飯事。だから、11R直後、鎌田義が「馬袋さん、5着じゃヤバいんちゃうか?」と尋ねてきたときにも、早見表で6・00という数字を確認して自信満々に「大丈夫です」と答える。それでもカマギーが「6・00に何人か並んでるやろ」と疑念を示して、やっと状況を思い出す。で、改めて計算し直して、すでにリフトに出迎えに向かった鎌田を追いかけ、「やっぱ大丈夫です」と追い打ち。カマギーの笑顔に満足して、何気なく馬袋義則の着順を見直し、ハッとして計算し直して、ウソを教えていたことに気づくのであった。ああ、カマギー、馬袋選手、本当にごめんなさい。ほんと、算数苦手なんです……。

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 ここでよく「選手は詳細な得点状況を把握しているわけではない」と書いている。それはやっぱりその通りで、そして僕もまた把握していないというか、カマギーのほうが把握していたというか、ようするに今回のように6・00の上位着順差がボーダーともなれば、なんとも難解な状況となるわけである。選手はその都度、報道陣に自分の立場を確認したりもするものだが、しかし他者との相関関係を完璧に理解はしていない。控室に戻ろうとするカマギーを捕まえて、ウソ教えたお詫びをしていると、11R4着の井口佳典が、「僕、乗れます?」と聞いてきている。井口は4着で6・33なのだから、当選確実。カマギーも「そりゃ乗れるやろ」と突っ込みを入れている。しかし井口は「一真がギリギリだって言ってたから」。森高一真は6・40。たしかにここがボーダーになりそうな瞬間もあったのである。

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 同じように、「今村さんが次点だって聞いてた」という吉田拡郎は、予選突破の目がないと思い込んでいたようだ。今村も拡郎も6・00だが、順位的には今村が拡郎のひとつ上。その時点では拡郎は20位だったわけだから、2つも順位を上げる可能性はかなり低いものと考えていたようだ。結果的に、拡郎が18位のボーダー上! 準優進出が転がり込んできて、拡郎は目を丸くしていた。この状況、けっこう強いでしょ。一度はあきらめた準優なのだから、失うものは何もない。6号艇だからプレッシャーもない。思い切ったレースもできる。人気はないけれども、無視できない存在になったと思うがどうか。

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 その今村豊は、10R終了後に18位に浮上していた(拡郎が順位を聞いたのはさらにその前ということになる)。ただし、11Rの結果次第で19位に落ちる可能性は残されていた。こうなると、問題はJLC展望番組のインタビュー。決定するのを待つ、というのが選択肢のひとつなのは当然だが、今村は10R後の1便で宿舎に帰ることになっていたのだ。管理の方から予定変更を打診されると、今村は突如として足元をふらつかせ、卒倒しそうになる。具合悪いから、宿舎に帰らなければ……仮病です(笑)。みんなわかってます(笑)。仕方ない、じゃあインタビューやっちゃおう! 収録スタッフは、使えなくなるかもしれないインタビューを今村に要求することになるから、当然恐縮することになる。でも、そんなのミスターにはノー問題! ということで、「使えなくなったらゴメンね」なんてミスターのほうから言いつつ、快活にインタビューに臨むのであった。その姿勢が幸運を招く。ミスター、17位で当選です!

 

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 自分の状況がハッキリわかっている選手ももちろんいる。10R2着の白井英治は、エンジン吊りを終えるなり、青山登さんに歩み寄り、「インタビューあるんですよね? あるならやっちゃいましょう!」とカポックをその場で脱いで、カメラの前に立っている。準優当確を確信していたわけだ。白井も今村とともに1便帰宿組。着替えてからインタビューを受けていたら間に合わなくなる可能性があるから、そちらに問題がないなら速攻で収録しちゃいましょ、という気遣いである。白井自身、早く帰りたかっただろうし。

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 11Rで3着に敗れた吉田弘文も、それが予選突破の目を失うことであることを理解していたようだ。今節はピット離れの悪さに悩まされており、2号艇で迎えた勝負駆けも他艇に出し抜かれてしまっている。取り返しに動いてはいるが、勝負駆けで誰も入れてはくれず6コース。レース後の力ない表情には、さまざまな思いが込められていただろう。

 エンジン吊り後にも、吉田は中辻崇人、岡崎恭裕、篠崎元志らと話し込み、なかなか着替えに向かおうとはしなかった。中辻も岡崎も篠崎も、身振り手振りで多くのことを吉田に話し、吉田は時に溜め息もつきながら言葉を返していた。現住所:岡山といえども、もちろんここは地元。勝負駆け失敗は、他のSG以上に痛恨だったに違いない。

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 で、状況をもっともわかっていたのは、松井繁だったかもしれない。5Rで濱野谷憲吾が敗れ、7Rでは峰竜太も敗れて、予選トップの目がぐっと近づいた。6号艇とはいえ、前付け必至。しかも足は仕上がっている。レースでは3コースに動き、強烈なまくりで内を飲み込む。その時点で、あと2回逃げ切れば4度目のオーシャン制覇を果たすことを、松井はきっとわかっていた。

 ピットに戻ってきた松井はひたすら明るい表情を見せ、充実感たっぷりに出迎えた仲間と会話を交わしていた。エンジンは仕上がったし、メンタルも完全に仕上がった。こんな王者が付け入るスキがないほどに強いことを、僕らは知っている。明日もあさっても、ピットではきっと「王者モード」とでも言うべきものを、僕は目の当たりにするだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)