台風63号に異変が??
超大型で超強力な台風63号が、穏やかな温帯低気圧になってしまった??
「憲吾がペラを叩いてましたよ」
黒須田から聞かされたのは、4Rあたりだったか。もちろん、ペラ調整をするしないは選手の自由だ。整備で、自分の乗りやすいスタイルに近づける。当たり前の作業でもある。ただ、これは私の勝手な希望なのだが「超超超伸び型の63号機の特性だけは殺してほしくない」と、初日からずっと願い続けてきた。憲吾には憲吾の感性があり、事情がある。それはわかっていても、あのセクシャルバイオレンスな伸びーーーーる憲吾を最終日まで見続けていたかった。
6Rのスタート展示、憲吾のドカ遅れはご愛嬌として、スリットから昨日までの峻烈な伸び返しがない。本番、スタート同体から、やはり半分程度しか伸びなかった。十八番の5コースまくり差しも届かず、5着大敗。
結果は水物だからして、この5着の敗因=ペラ調整の失敗とは思わない。「5コースからまくり差しに行って前がドン詰まり」なんてことはザラにある。後方で喘ぐ憲吾63号機を見つめながら、私はただただ明日のことを考えていた。
明日はどうする、憲吾?????
すべての予選が終わって、憲吾に与えられた明日の枠番は3号艇だった。伸び型でも出足型でもバランス型でもそれなりに戦える、微妙な枠ではある。憲吾は何を考え、どう相棒と向き合うのか。明日の動向と気配に目を光らせたい。
そしてそして、予選トップは……??
王者、制圧。
本当に、やらかしてしまった。5&6号艇でのピンピン連勝!!!! 昨日「この男なら……」などと勢いで書いた私だが、本音を言えば「せいぜい2・3着あたりだろ」なんて思っていた。うーーーん、最強王者は、やはり規格外の男だった。しかも、今日の勝ちっぷりといったら。
5R5号艇では、あれよあれよとインを奪って、コンマ02!!から影を踏ませぬ逃げきり。「行く気で行った」と言いきるところが、王者ののっぴきならないモチベーションを証明している。彼にとっては当然すぎることだが、本気で予選トップを奪いに行ったのだ。この1着で、暫定ながらも1位の座に就いた。
そして後半10R、「ここを勝てば、11Rを待たずにトップ確定」という立場だった松井は、5号艇から再び動いて3コースへ。「前付けスローはよく凹む」としたものだが、松井のスタートは……コンマ02!!!!!! これだ。これが他の選手と絶対王者の違いなのだ。前検から常に予選トップを自分のものと想定している(目標ではない)男の走りなのだ。タッチSでスリットを通過した松井は、フライングするほど攻めた4カドの山田哲也をガチっと受け止め、それからインの岡崎恭裕まで一瞬にしてまくりきっていた。
「あ、スタートは、たまたまですわ(笑)」
険しい顔で「行く気で行った」と吐露した5Rのインタビューとは打って変わって、王者は穏やかに頬を緩めた。とりあえず、最低限のノルマ=予選トップ!!を達成した安堵感が、その目尻にも現れていた。もちろん、その瞳はすぐに獲物を狙う鷹のように強く怪しく輝くはずだ。
予選2位は峰竜太で、3位は篠崎元志。今日の篠崎も6コースからコンマ01!!でまくり差しを决めるなど、器のデカさを全国のファンに見せつけた。この1Rのド派手なパフォーマンスを、今日の最高最大のパフォーマンスとしてここに書くつもりだった。さらに、峰と篠崎が1・2位だったりしたら、私は安直に「本格的な世代交代の到来か」などと煽ったに違いない。だが、10Rの王者がそれを許さなかった。仁王立ちで、新たな潮流を跳ね返した。
嗚呼、それはそれとして、明日の松井VS憲吾の直接対決が、楽しみだなぁ。(photos/シギー中尾、text/畠山)