BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ニュータイプ・ヒロイン誕生!

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 Vゴールを決めてピットに戻ってきた金田幸子は、真っ先にボートリフトに艇を乗っけた。「あいつ、手順を聞いてなかったんじゃないの?」と誰かが笑う。そう、勝者にはウイニングランが待っているわけだから、リフトに乗っかったらダメなのだ。それを指摘され、「あ、そうなの?」てな顔をしてリフトから逆戻りする金ちゃん。

 共同会見で、「これでSGの権利を手にしましたが」と振られて、みるみるうちに顔が蒼ざめていき、開いた口がふさがらなくなった金田。途端に落ち着きがなくなり、きょろきょろと周囲を見回し、「い、い、家に帰ってから考えます……」と言葉にするのがやっとだった。出場権をゲットしたのは来年の総理大臣杯。いや、賞金ランクは46位に浮上したから、チャレンジカップも!? これで賞金女王決定戦への出場はほぼ確実にしているが、それすら「家に帰ってから考えます」とソワソワする金ちゃん。

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 ニュータイプの女王の誕生だ!

 そんな不思議系のふるまいをレース後に見せた金田だが、もちろん優勝がたまたま転がり込んできたというわけではない。なにしろ、最後の最後までペラ調整をしていたのは金田なのだ。試運転も頻繁に行なっていたし、だから必然的に姿を見かける機会が多くなる。それは悪あがきとかそういう類いのものでは決してなく、あくまで金田のマイペースに見えて、レースに対して真摯に向き合う彼女の姿勢を実感させられたものだった。そして、レースはスタートを決めての豪快なまくり。問答無用の自力決着である。金田はやるべきことをこなして、全力で臨んだ結果、女王の座に諸手を届かせたのである。

 だからこそ、その“素の姿”とのギャップがまた、いいんですよね。「寺田さんにお金を借りていて、今日はATMにすぐ行かなくてはいけなくて……やっぱり借りた金はしっかり返すというか……」なんてコメントが飛び出す優勝者会見、見たことないぞ。テラッチに確認したら、「あいつ、ぜんぜん現金を持ってきてなくて、打ち上げの会費を払ったら1000円しか残らないから、私が立て替えたのよ~。女子王座のときはしっかり持ってこなきゃ、って言ってるのに~」。

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 ようするに無欲の勝利ってことなのかもしれないが、それが周囲を笑わせ、和ませ、誰からも愛されるキャラを作り上げるのだから、もはや人徳でしょう。そんな金田だから、水神祭もまた盛り上がった! 岡山勢全員と片岡恵里が参加したのだが、まず金田が投げ込まれ、続いて他のみんなが飛び込み、なぜか輪のように並んだところで、誰かが「3、ハイ!」と掛け声をかけた。何かと思ったら、シンクロナイズド・スイミング! 打ち合わせしとったんかい! オリンピックを目指すのはたぶんムリだと思いますが、私から金メダル(金ちゃんメダル)を差し上げましょう!

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 錚々たる面々の名前が並ぶ歴代女王。そのなかに、金ちゃんのようなタイプの女王が名前を刻むとは、なんとも感慨深い。昨日書いたように、“ファミリー”の優勝だからなおさら。今後も真摯なスタンスと豪快なレースとコミカルな陸の上の姿で、我々を楽しませてください、最高のエンターテイナー・金ちゃんよ! おめでとう!

 

 

 

 

 

 

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 それにしても、寺田千恵はやっぱり偉人なのである。金田も「寺田さんのおかげ。寺田さんは神です」と言っていて、実際、ピットに戻ってきた金田は寺田のもとに駆け寄って、その胸に思い切り飛び込んでいる。また、レース前には平山智加と話し込んでもおり、平山を勇気づけてもいたようだ。もちろん、テラッチ自身はその平山を撃破するつもりであったわけで、しかし平山にも悔いのない戦いをしてほしいという先輩としての優しさを同時に抱いていたというわけである。

 前半の記事ではリラックスした表情をお伝えしているが、レース直前には完全に勝負師モードに入っていた。朝とは一転して近寄りがたい空気が漂っていたのだ。これがまた、寺田千恵の魅力だ。もちろんレース後は、金田の優勝を祝福しつつも、やはりどこか悔しそうな表情もうかがわせた。金田は「寺田さんはすべてが正しい人です」と会見でコメントしているが、僕もそう思う。

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 偉人といえば、谷川里江、山川美由紀は、レース後は疲労感を滲ませながらも、どこかサバサバしているようにも見えた。敗因がわりとわかりやすい(ようするに金田にスタートで出し抜かれたこと)ということもあったのだろうか、あるいはそのキャリアが悔しさから耐える方法を熟知させているのか、ともあれ、激した表情を見つけるのはなかなか難しいことだった。

 

 

 

 

 

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 一方で、淺田千亜希は露骨に表情がカタかった。ピットに戻ってきた直後は、仲間に囲まれて苦笑も浮かんでいたが、その輪から離れると一気に悔しさが顔に浮き出てくる。選手会の職務で来場していた濱村芳宏にねぎらいの言葉をかけられても、その表情は変わらなかった。いや、むしろ大先輩を前にして本音が一気に表に出た、ということだったのだろうか。

 淺田も、金田と同様、ギリギリまで調整、試運転を続けている。エンジンの部品交換もあった。「昔よく遊びにつれてってもらっていて、今日はできることがあればお手伝いしたいなって」(池田浩美)という池田姉妹に寄り添われながら、淺田は地元の砦を守るべく、必死に戦った。

 やるべきことをすべてやっての敗戦は、後悔を残すことはないかもしれないが、逆に純粋な“悔しさ”は大きくなるものである。まして準V、もっとも近いところまでは辿り着いているのだ。淺田がカタくなるのは当然である。ただ、それを見守った者たちはみな、淺田の健闘を称えているだろう。勝手に見ていた外野としても同じである。上瀧和則選手会長が「よう頑張った!」と万感を込めてねぎらっていたが、その言葉こそが淺田の勲章なのだと僕は思う。

 

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 最後に記さねばならないのは、やはり平山智加である。3度目の正直はならなかった。またしても、1号艇で女王の座を取り損ねた。その痛みは、我々が想像するまでもなく、大きいだろう。

 レース後の平山には、同期の松本晶恵が寄り添っていた。昨年の若松女子王座優勝戦の後と同じ光景である。だが、大きな違いがあった。ともに号泣し、逆に平山が松本を慰めるようなシーンもあったあの日。今日は二人の瞳に涙はなく、ただただ悔恨を共有し合って、レースを振り返り合っていたのだった。

 モーター返納を終えた平山は、うつむくことなく、しかし瞳には悔恨を宿しつつ、キッと前を向いていた。報道陣に囲まれると、ひたすらスタートを悔やみ、そしてその言葉には確固たる意志が込められていた。

 結果は過去の2回と同じになってしまった。だが、意味は過去の2回と明らかに違う。過去の2回も糧になった。今回もおそらく糧になる……いや、もっともっと大きな意味をもつ経験となる。平山智加はまたひとつ、歴史に名を残すためのアイテムを今日、手にしたのだと僕は確信している。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)