BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

鳴門・女子王座優勝戦 極私的回顧

天賦の才

 

'12R優勝戦

①平山智加(香川) 22

②谷川里江(愛知) 18

③山川美由紀(香川)21

④金田幸子(岡山) 11

⑤淺田千亜希(徳島)15

⑥寺田千恵(岡山) 19'

 

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 山を超え谷を超え平地を全速力で駆け抜けたら、幸運の金塊が待っていた。

 金田幸子、4カド一撃まくり。

 このスリットの光景を完璧に予測していたファンは、全国にどれくらいいただろう。私の脳内レースは、現実とはまったく違うものだった。昨夜から何百何千と走り続けた脳内レースの中に、金田の4カドまくりはただの1レースも存在しなかった。幻想と現実は違う。それは経験則で痛いほどわかっているのだが、今日もまた呆然と“ありえないはずの現実”を眺め、スタンドに立ち尽くした。

 

 

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1号艇は、女子のみならず未来の艇界を担うであろう平山。2、3号艇は、百戦錬磨の歴代女王。しかも、1・2・3の順番に、モーター抽選の前から下馬評が高かったトップ3エンジンだった。昨日まで、この三者三機は実力とパワーを如何なく発揮した。今日の特訓でも、平山は並々ならぬレース足を、谷川と山川は図抜けた行き足を誇示していた。その輝かしい動きが、私の脳内レースを完全に支配した。

 スリット。真っ青なボートが、隊列のど真ん中から抜け出す。私は、あっと奇声を発する。スタンドも、歓声というより奇声、驚声、嘆声らしきものが沸き上がる。真っ青なカボックをまとった金田が、すぐに内を絞めはじめる。正解だ。混乱した頭の中で、私はその行動に○を授ける。山川と谷川が伸び返す前に、金田はふたりの脳天にクサビを差した。さらにスタートで凹んだ平山を飛び越えるのは、雑作もない行動だった。

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 1マークを回って、第27代の女王の座が約束された。GI初優出で初優勝。ハズレ舟券を握り締めつつ、私は心の中で「おめでとう」とつぶやく。金田はボートボーイ誌で、長きに渡ってエッセイを書き続けてくれた。私は、連載の初回を読んで彼女の文章のファンになった。物書きの端くれとして、ヤキモチを焼くほどの文才なのだ。リズミカルな文体、ささやかな物事を瑞々しく描ききる筆力、シニカルなようでいてとことん真っ直ぐな感性、ハッとさせる発想の飛躍、不思議な余韻を残す結び……文頭から文末まで、あっという間に読み終えた。連載をはじめた頃から金田はA級レーサーだったが、正直、私はこう思ったりもしたものだ。

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 金ちゃん、作家になったほうが大成するんじゃないか?

 4カド一撃まくりで先頭をひた走る金田を、私は呆然と眺めていた。そして、その文才に惚れ込みつつ、レーサーとしての可能性を過小評価していた自分を恥じた。文章の重要なファクターである発想の飛躍は、万人の常識を疑い否定し時には破壊することによって生まれる。金田は文章のみならず、レーサーとしてもやってのけた。ほとんどの人間の脳内レースを否定し、破壊した。スリット隊形が有利だったことは間違いないが、そこから強力な3艇を迷わず叩ききったのは金田の才能である。そんな意外性を秘めた女性であることを、私ははるか以前から知っていた。文章で。

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 それに比べて常識がんじがらめの私の発想ときたら……文章だけでなくレースでも、金ちゃんににこてんぱんに叩きのめされたな。そんなことを、ぼんやり思っていた。

「これから、コンビニのATMに行かなきゃならないんです!」

 優勝インタビュー、金田は笑いながらも真剣な眼差しにこう言った。こんな珍妙なコメントを、歴代インタビューで口にした選手はいない。その後の記者会見では、そわそわしながら「実は、寺田さんにお金借りてるです~」と困ったちゃんの顔で言った。私はその挙動不審な困り顔を見て、また思うのだった。

 金ちゃんって、根っから作家だよなぁ。

 カナダユキコさま、今日は、いや今日も、あなたの“文才”に完全に参りました!!(photos/シギー中尾、text/畠山)