BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――智加ちゃん、強い!

f:id:boatrace-g-report:20171212163344j:plain

 わからんものである。レース前の長嶋万記の表情は最高だった。ボートを展示につけて、最後の点検をしているときの表情はひたすら透明で、また鋭かった。点検を終え、控室へと向かう前に、係留所裏に置いてあった荷物などを手に取り、一言「よしっ!」。その時の表情は柔らかかった。こちらに気づき、拳を突き出して激励するとニッコリ。いつものマキ・スマイルだった。展示を終えて待機室へと向かう際、シリーズ戦の表彰式を終えた山下友貴がピットに戻ってきて、祝福とエールの交歓をしている。そのときも、実に自然な笑顔を山下に向けていた。それら一連の様子を見て、なーんも心配いらんと思ったものである。

 それなのに、レースでは失敗してしまうのだ。それもスタート後手というかたちで。プレッシャーというのは時に、本人にも気づかないかたちで胸中に巣食うものなのか。それが感覚を狂わせるのか。レース前の表情とあのスタート後手は、あまりにギャップが大きかった。

 レース後の表情がもっともカタかったのが、長嶋万記であるのは当然である。カポックを脱ぎながら、表情が硬直していた。隣では、寺田千恵が大声で、笑顔とともにレースを振り返っているのに、それが耳に少しも入らないかのように、テラッチとは正反対の険しい顔つきを崩さなかった。後悔ばかりが残る賞金女王決定戦。ひとつ言えるのは、そうしてとことん悔しがればいいのだと思う。あのレースをしたあとでマキ・スマイルを見せていたら、それはただ自分をごまかしているだけだろう。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212163358j:plain

 長嶋が遅れたことで、一気にチャンスが広がり、しかしそれを活かし切れなかった海野ゆかりも、ピットに戻ってきたときには、深刻な顔つきだった。平山智加を祝福したときには目を細めていたけれども、それはすぐに消えている。敗者のなかでもっともティアラを身近に引き寄せた者が、もっとも悔しいのは当たり前。海野の表情も、然るべきものだと思った。

 ただ、海野のほうが切り替えが早かったのか、それとも悔しさを押し隠すすべに長けているのか、笑顔が戻ったのは長嶋より早かった。それはもしかしたら踏んできた修羅場の数ではないだろうか。海野よりさらに笑顔が早く戻ったのが山川美由紀だったことを思えば、そんなに間違っていない回答のように思える。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212163408j:plain

 海野と山川は、モーター返納の最中に、レースを回顧しあっていた。海野が長嶋を叩いていったことで、山川は一瞬、チャンスを実感したようだ。しかし海野が攻め切れなかったのと同様、山川もまたチャンスを活かせなかった。どうやら、「回り過ぎ」でしっかりとブレーキがかからなかったらしい。身振り手振りで「こうやったら、こうなって、こう流れた」みたいなことを海野と話し合って、そろって大ウケしていた。悔しくないわけはもちろんないけれども、こうして悔しさを癒すという部分もあるのではないかと深読みした次第だ。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212163419j:plain

 結局、悔しさをあらわにしたのは長嶋だけだったのかな、と思う。鎌倉涼は淡々としている様子だったし、寺田は先述のとおり、やはり早い段階で笑顔を取り戻している。外枠だったということもあるだろうか。とりわけ鎌倉に感情の起伏がみられなかったのは、最初は意外だったし、そして妥当な気もしてきた次第だ。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212163430j:plain

 それにしても、テラッチは優しいなあ。ピットに戻ると、「智加ちゃーーーん!」と叫んで、平山に抱きついている。鳴門でも、後輩の金田幸子の優勝に涙を流していた。今日は涙は確認していないが、平山の優勝を心から祝福しているようだった。そりゃあ敗れた悔しさはその胸に渦巻いているはずだが、平山の姿を見て、駆け寄らずにはいられなかったのだろう。苦労をしてきたのを知っている。悔しくて泣いた日があることも知っている。しかし努力を続けてきたことも知っている。それが報われる日を迎え、テラッチはわがことのように感動するのだ。次は自身の勝利に歓喜の涙を流してほしいと願いつつ、そんな優しいテラッチは本当に素敵だと思うわけである。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212163445j:plain

 優勝は平山智加! もう語り尽くされているのでざっとだけ記すと、これが女子GⅠ優勝戦4度目の1号艇。そして過去3回は敗れている。それは大きく取り沙汰された。平山自身、トラウマにとらわれた。もう勝てないのではないかと苦悩したりもした。そうした数々の悔し涙をすべて払拭したのが、今日の勝利。テラッチじゃなくても、わがことのように喜んでいる人はたくさんいるだろう。僕もだ。

 ベタな予想で申し訳ないが、きっと泣くんだろうな、と思っていた。悔し涙は嬉し涙で晴らす! そんなストーリーを思い描いてもいた。だが、平山は笑っていた。ウルルルンときた瞬間もあったようだが、こちらのありがちすぎる想像など笑い飛ばすかのように、平山はひたすら笑顔を見せていたのである。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212163455j:plain

 強い! 本当に強い! 今日もプレッシャーはあったというが、難なくそれを振り切ってみせた平山は、ひたすら強いレーサーとなった。もはや揺るぎない女子ナンバーワンと言っていいだろう。

「失敗があったから近松賞も賞金女王も勝てたと思う。これからは失敗を減らしていきたい」

 たしかにもはや失敗を糧にして、なんてレベルは超越したかもしれない。ということは、もうGⅠ優勝戦1号艇3連敗なんて、取り上げることすら意味のないことなのかもしれない。すべてを払拭してティアラを戴冠した平山智加は、問答無用の強者である。

 平山と再会するのは、なんと明後日である。中1日で賞金王シリーズ戦に参戦するのだ(金田幸子、三浦永理も)。今日の記憶がめちゃめちゃ鮮明なうちに参戦するSGで、平山は何を見せてくれるだろうか。今までと違うものが見られる? それともいきなり女子初のSG制覇? ともかく、今日とはまったく違う舞台で、女王・平山に会うのが楽しみだ。私事ですが、住之江の転戦はなかなかハードっす。しかし、楽しみがひとつできたことで、ちょっと気持ちが軽くなりました。平山智加、本当におめでとう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)