常勝の理由
'9R
①桐生順平(埼玉) 13
②秋元 哲(東京) 14
③黄金井力良(埼玉)13
④中嶋健一郎(三重)10
⑤平田健之佑(三重)16
⑥松尾昂明(福岡) 24'
また、空恐ろしいものを目撃してしまった。いや、正確には目撃していない。
桐生は間違いなく2着だった。4カドの肉食系マッドドッグ中嶋(本人は「草食系」と主張)が豪快強引なまくり差しを突き刺し、1マークで勝負あった。ズッポリ差された桐生は、2マークで2番手を取りきるのがやっと。2周ホーム、4-1の舟券を持っていた私は、3着争いだけに集中した。平田が残しての4-1-5ならハズレ。黄金井が逆転して4-1-2になれば、260倍を仕留めることができる。
「リキラーーーーー!!」
2周1マーク、私はあらん限りの声で叫んだ。それと同時に、記者席がどっと沸いた。妙な違和感とともに前方に目を移すと……中嶋と桐生が完全に入れ替わっていた。ビックリ仰天しつつ、あの態勢からこの態勢に変わるには、どんな“異常現象”が必要かを考える。答えはひとつ。桐生が人間離れした強ツケマイを決めた。それしか考えられなかったし、もちろんそれは正解だった。
リプレイ。2周1マークのはるか手前、桐生は中嶋の2艇身後ろから出し抜けに初動を入れた。鮮やかな放物線を描いて中嶋のすぐ後ろへ、真横へ、前へ……。あっという間に2艇が入れ替わっていた。中嶋が慎重に落としすぎたという非もあったが、それにしても……。
「自分でもビックリするほど完璧に決まりました」
レース後、本人もこう吐露したが、これをもって「ミラクルターン」と呼ぶのは早計だろう。常勝桐生と呼ばれる理由、それは桐生が桐生順平だからだ。桐生の勝利に、奇跡の二文字はそぐわない。
1着・桐生、2着・中嶋。
桐生の足は、回り足を中心に今日がいちばん良かった。半周ラップ18秒25は、同じ1号艇だったドリーム戦の1秒46よりはるかに速い。今日の足なら、どのコースでも十二分に戦えるだろう。
ジマケンこと中嶋の足は、初日からずっと中堅上位レベル。評判機=2連率46%ほどの迫力はまだ感じないが、実戦に行くと粘り強い出足~回り足を見せる。今日の逆転は忘れて、明日はダッシュからS一撃モードに仕上げてほしいぞ。超肉食系マッドドッグらしく!
大惨事
'10R
①前田将太(福岡)08
②片岡雅裕(香川)10
③島田賢人(埼玉)05
④磯部 誠(愛知)F+01
⑤谷川祐一(滋賀)F+03
⑥青木玄太(滋賀)06'
もう、何がどうなってああなってしまったのか、しっちゃかめっちゃか過ぎて解説のしようもない。リプレイを何度か見て、この大惨事の成り行きがやっとわかった。目を覆うばかりの“負の連鎖”。4カドの磯部がフライングを切りつつ絞りまくり、島田と片岡に激しく接触して磯部と島田は転覆(←磯部はフライング欠場なので「転覆」扱いにはならないが)、さらに5コースからやはりフライングだった谷川が凄まじいスピードでまくり差したがブイに接触して横転、これに乗り上げた青木がエンスト状態に陥り、そのまま失格となった。
生き残ったのは、事故が起こる前に先マイした前田と、磯部の体当たりを喰ってもんどり打ちながらもなんとか体勢を立て直した片岡。
2艇だけが走るその後方では、墓標のように舳先を突っ立てた3つの事故艇と、微動だにせずそこに佇む墓守のような青木玄太。異様な惨状がカクテル光線にぼんやり照らされ、私は発すべき言葉を失っていた。
1着・前田、2着・片岡。
こんなレースで、もちろんふたりの今日の足を評価することはできない。ただ言えるのは、運が良かった。特に片岡。あれだけ激しい体当たりを浴びながら落水も転覆もエンストもしなかった。そして、勢い的に2着間違いなしと思われた青木が、走っている途中でエンストになった。片岡からすれば、ありえないほど幸運な2着だった。明日はドリーム戦と同じ4号艇。内の3艇は枠番こそ入れ替わったが、これまたドリーム戦と同じ面々だ。今日の強運を味方に、ドリームの再現があっても不思議ではない。
無敵のインモンキー
'11R
①篠崎仁志(福岡)17
④和田兼輔(兵庫)24
②高野哲史(兵庫)26
③中田竜太(埼玉)20
⑤黒井達矢(埼玉)21
⑥戸塚邦好(東京)28'
10Rの大惨事は、このレースにも少なからぬ影響を与えた。借りてきた猫のようにおとなしいスタート。「これ以上、ファンや施行者に迷惑をかけてはならない」という思いが、スリットに如実に反映された。私はそう思う。
だが、だからと言って横一線になったわけではない。和田と高野が凹み、4カド中田が勇躍抜け出した。絞る、絞る。和田と高野を握り潰し、篠崎まで呑み込んでしまいそうな勢いだった。が、イン戦26連勝中の仁志の超高速インモンキーが、その隙を与えない。あっという間に1マークを旋回していた。中田が、所在なさげにまくり差しのハンドルを入れる。100%仁志には届かない差しではあったが、ここは準優だ。勝つためだけに喧嘩を吹っかけるのは、明日でいい。1マークの出口で、大勢は決した。仁志が逃げ、中田が続く。その後続は、5艇身以上も千切れていた。準優としての役割を終えたレースを見ながら、私はこう思わずにはいられなかった。
「10Rがもっとまともなレースだったら、まったく違うスリット~1マークになっていたんだろうなぁ」
逆に言えば、遅いなりにスタートを決めてキッチリ権利を獲得したふたりは、精神的に他の面々よりタフだった、ということか。
1着・篠崎、2着・中田。
仁志のレースっぷりは「さすがのイン巧者」と唸るしかない。まくる気満々の中田の気配を察知して、早めに初動を起こして強く握った。それで中田の気勢を削いでから、ターンの後半でわずかに落としてサイドの掛かりをアップさせた。そんなインモンキーだった。総体的なパワー評価としては、中堅~良くて中堅上位。私の判断は、前検から変わっていない。今日と同じ足で明日も逃げきれるかどうか、私にはどちらとも断言できない。ただ、スリット同体になれば、イン戦26連勝の超絶テクニックが他者の攻撃を完封してしまうだろう。SG級の3人が1~3号艇に収まれば、やはりコースの利が何よりもモノを言う。
中田の足は、私が想定したSレベルよりやや弱めだった気がする。中の上から良くて上の下。このままでは、よほど展開が向かない限り、外から勝ちきるのは難しい。
ただ、ここで私はある邪推を披露しなければならない。今日の10Rの大惨事&3連単全返還は、明日の優勝戦メンバーの心にも何らかの影響を与える可能性がある。「絶対にFを切ってはならない」という内外のプレッシャーが、レース本番に襲い掛かるかもしれない。私が想定する優勝戦のスリットラインは、コンマ15前後。そんな隊形の中で、誰かひとりがゼロ台まで踏み込めば……配当的な大波乱も十分に考えられる。
明日のスリットは、いつものスリットよりも全員がナーバスになる。
この邪推に、舟券のヒントが隠されている気がしてならない。若さは人間を大胆にも、小心にもさせる。(photos/シギー中尾、text/畠山)