BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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新鋭王座ファイナル 私的回顧

臨界点、コンマ17

 

'12R優勝戦

①篠崎仁志(福岡・101期) 17

②前田将太(福岡・102期) 23

③桐生順平(埼玉・100期) 26

④片岡雅裕(香川・101期) 11

⑤中田竜太(埼玉・104期) 10

⑥中嶋健一郎(三重・105期)27'

 

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 何はともあれ、仁志のスタートを褒め讃えたい。コンマ17で? 確かに、最高レベルのスタートではなかった。が、同じスロー水域にいた前田と桐生が遅れる中、仁志だけがひとり飛び出した。この3艇の中の誰か、あるいは全員が遅れることは、私の想定内だった。

 昨日の準優10Rでの3連単全返還。それだけでも施行者が受けたダメージは、計り知れない。さらに、この優勝戦でも人気艇にフライングなどのアクシデントがあれば……本人たちはしっかり行くつもりでも、無意識下で制御するのではないか。また、篠崎、前田、桐生の前には、すでに輝かしい記念ロードが用意されている。真に強い先輩レーサーとの闘いに比べれば、この新鋭王座はひとつの通過点。そんな思いも、また無意識下で働くのではないか。だから、スタートで誰が遅れても、不思議はない。そう思っていた。

 

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 とりわけ、いちばん遅れてもおかしくなかったのが仁志だ。票数の9割がたを占める1号艇。昨日の大返還。MB記念・優勝戦での兄のフライング……ただでさえ緊張する大舞台で、それらのプレッシャーをすべて克服できるのか。実のところ、私は「できないのではないか」と思っていた。だから、外枠の3艇を買った。

 実戦。真相はわからないが、とにかく前田と桐生は起こしの段階から遅れた。仁志を褒めるべきは、この瞬間だ。優勝インタビューで、仁志はこう振り返っている。

「外の2艇が起こしから遅れたのがわかったので、自分だけ行った」

 多大な重圧と緊張の中で、「他の2艇が遅れた」と明確に判断した。「自分が早いのかも」とは考えなかった。ひとつも震えず、強いライバルたちの“ミス”をミスと見切り、自分を信じて突き進んだ。その結果としての、コンマ17、おそらく全速。昨日の準優と、同じだけのスタートを切った。

 

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 そして、これが生きた。上記の数字でわかる通り、4カド片岡はスリットで完全に出切ってしまった。ドリーム戦同様、すぐに絞める。この光景は、私の脳内レースとぴったり重なった。

「片チン、しっぼれーーーーーーーー!!!!!!」

 あらん限りの声で、私は叫んだ。スタンドからの角度では、完全に仁志まで届きそうな勢いだった。が、そこから片岡の進軍が止まる。仁志が、ガッチリ受け止めてから先マイした。まくる気満々だったであろう片岡は、やや慌てたように差しハンドルに切り替えた。時すでに遅し。イン戦26連勝中の仁志は、その迷い差しを咎めるように、颯爽と抜け出した。

 

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 やはり、私は思う。私の脳内レースの唯一の誤算は、仁志のスタート=自信に裏打ちされた度胸だった。もしも起こしの段階で、外の2艇を見た仁志がほんの1ミリでもブルッていれば、片岡が鮮やかにまくりきっていただろう。たかが17、されど17。この当たり前のようなコンマ17に、私は仁志の確かな成長と強さを感じ取った。おめでとう、仁志。まったく壁のない隊形での冷静かつ豪快なイン逃げ、最後の新鋭チャンプと呼ぶに相応しい勝利だった。また一歩、兄貴に近づいたね!

 

 

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 さてさて、レースそのものは、昨日の10R同様荒れに荒れた。片岡落水、中田転覆、前田タイムオーバー……桐生も転覆艇に乗り上げて、あわや転覆か落水かエンストかというほどバランスを逸した。もしもそのどれかが起きれば、今日の優勝戦も昨日同様3連単が不成立で全額返還となっていた。施行者にとって、今日のMVPはギリギリ生き残った桐生だったかも知れない(笑)。

 

 

 

 

 

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 準優で4艇、優勝戦で3艇が完走できなかった今節。当該選手たちは災難だったが、これもまた、最後の最後の新鋭王座らしいやんちゃで華々しいフィナーレだったと私は思う。新鋭諸君、お疲れさま!!(photos/シギー中尾、text/畠山)