千両役者、ふたり。
'12R優勝戦
①松井 繁(大阪)14
②池田浩二(愛知)18
③吉田俊彦(兵庫)16
④太田和美(奈良)22
⑤徳増秀樹(静岡)29
⑥鎌田 義(兵庫)26'
トップスタートから豪快に逃げきって、王者が12度目のSGタイトルを獲得した。前検で35号機の太田に1艇身ほどやられたとき、私は「今節の松井は予選突破も苦しいのではないか」と思った。それから1週間後、松井は当たり前のように白いカポックを羽織り、4カドの太田に影すら踏ませなかった。単に優勝戦を勝ったというだけではない、この1週間を通じた松井の精神力に、ただただ脱帽するしかない。
進入は、穏やかな枠なり3対3。昨晩からうんうん唸って複雑な進入を夢想し続けた私を、嘲笑うような進入だった。ここにもまた、王者の目に見えぬ力が働いていたのだろう。いくら強引に動いても、インは絶対に奪えない。多少の陽動作戦で、動じる相手ではない。そう思わせてしまうのが、松井繁なのだ。もしも今日の1号艇がF2の池田はじめ他の選手だったら、まったく違う進入になっていたかもしれない。
そして、スタート。松井のトップSに対して、ダッシュ勢は完全に後手を踏んだ。こうなれば、当面の敵は隣の池田だ。今節の池田もまた、松井に負けず劣らず凄かった。F2持ちのレーサーとして、自分のできうる100%のレースをやり続けてきた。我慢に我慢を重ねながら、攻めに攻めた。優勝戦2号艇。そして、コンマ18全速スタート。これもまた、F2持ちのトップレーサーとしてギリギリMAXの踏み込みだろう。
1マークの手前、2艇の舳先がぴったり並んだ。最後の最後は、王者VS賞金王のガチンコ勝負。それぞれ軽くはないハンデを抱えていたのに、やはりこの2人だった。池田のアタマ舟券を買っていた私の手に力がこもる。
差すなら、今か!?
思った瞬間、私の目の前で池田は握った。唐突にツケマイを放った。やばい、カッコ良すぎる。シビれた。シビれつつ、「決まる!!??」と思った。それくらい、迫力のある強ツケマイなのだ。この賞金王の奇襲に、王者はぐっと力を溜めて耐えた。耐えて、振りほどいて、抜け出した。この1マークの数秒間が、今節の象徴であり集大成だったと思う。松井繁と池田浩二。役者の違いを、見せつけた。私の舟券はこの1マークで紙屑になったが、まるで悔いはない。たとえ一瞬であっても、F2でこれだけの斬り合いを見せてくれたのだ。池田の一太刀が決まれば、私はそれなりの大金を手にしていただろう。わずかに松井の喉元を掠めて空を切ったが、いい夢を見させてもらった。池田も、松井も、実になんとも強かった。
「流れが向こうから来たんやない、流れは自分で作るもの。僕は前検から今日まで、流れを作り続けてきた。他の多くの選手は、それがようできないんですよ」
松井は優勝するたび何らかの名言を残すのだが、今節はこれで決まり。非力なパワーで1号艇を獲りきった松井。そして、F2の身で2号艇から松井に斬りかかった池田。今節、自力で流れを作った主役は、間違いなくこのふたりのレーサーだった。(photos/シギー中尾、text/畠山)