THE勝負駆け①ボーダー争い
決死のチルト3
まずは節間6・00、18位ボーダー争いから。何はともあれ、阿波の勝負師・田村隆信について書かねばなるまい。6R6号艇の田村は1着=6・00のメイチピン勝負。今節はドリーム1号艇という重責も担っており、何の策も講じずに6コースからスタートするはずもない。
田村よ、今日は何をやらかす??
もちろん、私が真っ先に予想したのは前付けだった。スタート展示は動かずに油断させ、本番だけ激しく動いて同期の井口佳典からインを強奪する。そんなシーンが脳裏に浮かんだ。それから、井口が抵抗しての2コース。徳増もブロックしての3コース。様々なパターンが浮沈したが、どのコースでもスタートさえ決めれば勝機はある、と踏んでいた。
うきうきそわそわしつつ迎えたスタート展示。ピットアウトから田村は動く気配を微塵も見せない。動くどころか、他の艇団から離れてのんびりボートと戯れている。
そう、それで井口を油断させるんだな、田村。
そう思った瞬間、実況アナの声が私の脳天を震わせた。シビレさせた。
「チルト角度は、6号艇が3度……」!!!!????
今日の田村が選んだリーサルウェポンは、なんとなんとチルト3度だった。阿波の勝負師が、阿波勝哉に変貌した。後で調べたことだが、これは2008年平和島・笹川賞の初日(5コース2着)以来6年ぶりの“奇襲”である。この勝負どころで、6年ぶりのチルト3度。なんという度胸、なんというギャンブラー!
私は脳天を震わせつつ、田村から太田への6-5舟券を迷わず買った。超久々のチルト3度でスタートが見えるのか、展示ではさほど伸びなかったが大丈夫か……色々な邪念を振り払ってマークカードに6の数字を塗り付けた。レーサーがここ一番の決死の勝負手を放ったというのに、たかが舟券を買う側が怯んでどうする? そう己を鼓舞して塗りたくった。
そして本番……田村は行った。コンマ03、おそらく全速!!!! 5コースの太田もコンマ02まで踏み込んだため、一撃まくりはならなかったが天晴れなスタートだ。そして、太田の締めまくりに連動して、全速のまくり差しを突き刺した。太田の内に舳先が入ってしまえば、6-5のできあがりだ。その後方には、人気薄の桐生順平がいる。6-5-3(300倍)を8枚買っていた私は、どんな大声を張り上げただろうか。滞納している家賃を払える!なんて思ったりもしたのだが(笑)、チルト3度にした分だけサイドの掛かりが甘く、太田に軽く舳先を締められて哀しそうにずり下がっていった。この瞬間、田村と私の勝負駆け(賭け)は終わった。
だが、負け惜しみではなく、「裏を買っておけば……」なんてことは、まったく思わないのである。敗れはしたが、田村も私も悔いのない勝負駆けができた、と心底から思うのである。これからも、私は田村の勝負駆けを買い続ける。今日は何をやらかすのかと、どきどきそわそわしながら。
はぁ、やっぱり田村のことに大半の時間を費やしてしまった。勝負駆けの成功者としては、田中信一郎と太田和美の同期同支部コンビが出色のレースを見せた。1R6号艇の信一郎はバック3番手から、2マーク渾身の差しハンドルで逆転の1着。6R5号艇の太田は先に書いたとおりのコンマ02一撃まくり。勝ちたい気持ちが鮮明に水面に投影された、これぞ勝負駆けというレースだった。
THE勝負駆け②予選トップ争い
サプライズ一撃決着
丸亀では予選トップが断然Vに近づく、と昨日書いた(勝手な私のイメージなのだが)。だから、今日の私は6・00よりも、推定トップボーダー8・00を巡る戦いに重きを置いていた。前半、ランキング上位者が次から次へと戦うたびに、その候補者が絞られてゆく。と同時に、予想どおりの混戦ムードにもなってきた。昨日までトップだった吉田俊彦も5号艇のビハインドを克服できず4着、2日目まで予選トップだった今垣光太郎は転覆失格……上位がどんどん拮抗しながら、天王山ともいうべき9Rがやってきた。その直前の予選ランキングはこうだ。
①吉田俊彦 8・00…11R
②杉山正樹 8・00…9R
③吉田拡郎 7・50…9R
④吉川元浩 7・20…9R
トップ争いは、ほぼこの4人に絞られていた。そして、9Rのメンバーはこうだ。
①吉田拡郎
②杉山正樹
③馬場貴也
④吉川元浩
⑤辻 栄蔵
⑥白井英治
俊彦を除く、3強の直接対決! たとえば1-2決着なら拡郎と杉山が8・00で並び、着順点の差でふたりの立場が逆転する。また、4-1なんてことになれば、吉川が暫定2位(7・67)に浮上する。「勝つのは拡郎か吉川」と予想していた私は、どう転んでも11Rまでもつれると決め込んでいた。たとえ、杉山が勝っても……。
そしてこの天王山、私にとって想定外の1マークが待ち受けていた。杉山が2コースからぶっ差し、断然人気の拡郎に引導を渡したのだ。
「うわ、これで杉山と11R俊彦の一騎打ちか」
そう確信して勝率の早見表に目を移した。この2コースぶっ差しで、杉山の予選勝率は8・40。で、11Rの俊彦が1着だとすると……ここで、私ははじめて唖然呆然としたのである。俊彦が11Rで1着を獲っても、8・33にしかならないのだ!!(出走回数の差) つまりつまり、この9Rが終わった瞬間に、予選トップが決定したのだ。杉山正樹! これまでSGに5回参戦して、予選突破はゼロ。まさにダークホース中のダークホースが、激差し一発でシリーズリーダーに君臨したのである。杉山には申し訳ないが、本当に11Rまでもつれると確信していたため、その決着は実にあっけないものに思えた。
さてさて、これは毎節書くことだが、杉山には「あと2回逃げきれば優勝」という優先権利が与えられた。言うは易し、杉山にとって明日からの2日間は人生でもっとも長い2日間になるのかも知れないなぁ。舟券を買う身としても、買うか切るか、難解にして楽しみなシリーズリーダーではある。(photos/シギー中尾、text/畠山)