BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――みんなカッコいいぞ!

 

 

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 リスクを背負って戦う者は、カッコいいのである。

 10R、松尾昂明が3カドに引いた。あの伸び足を考えればありうるかもなあ、と戦前にふと思ったりもしたものだが、実際に敢然と引く姿を見ると燃える。松尾も決意の3カドだっただろう。

 その分、不発に終われば悔しい。レース後の松尾は顔を壮絶に歪めていた。カドを奪ってしまった西山貴浩に頭を下げてもいた。インの遠藤エミにも頭を下げた。もしかしたら、非難めいた言葉をかけられるかもしれない。豪快にまくり切れていたのならともかく、敗れればさまざまな責めが(一番は己を責める気持ちだろう)降りかかるのである。

 それでも、やはり松尾はカッコ良かった! 松尾は称えられなければならない。スタートを行き切れなかったのが最大の悔いだろうが、自身はほぼ1艇身であり、周りが早かっただけである。これで懲りてほしくはないし、懲りるようなことはあってはならない。レース後の激しい悔やみ方も含めて、松尾はカッコ良かったのだ。むしろ誇ってもいい、と思う。

 

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 11Rでも3カドが出た。土屋智則だ。スタ展は枠なり3対3だったが、本番では山口達也が激しく動いた。スタ展も内をうかがいながら、抵抗されての6コース。山口は、さらに強い決意で前付けに出た。まずはこれを称えるべきだろう。山口もリスクを背負って動いたのだから。

 土屋も本来は抵抗したいところだったが、「想定外だった」ということで突っ張ろうにも間に合わなかった。その瞬間、松尾のレースぶりが浮かんだ。「目立ちたがり屋なんで引きました(笑)」と土屋は言うが、この男、普段から進入でも勝負を賭けてくる男である。しかも、こちらはスタートを決めて、内を呑み込んでいるのだから、2着に敗れたとはいえ、価値は高い。そして、カッコいい。

 

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 リスクといえば、今節の篠崎元志は、その存在自体、リスクを背負わねばならない立場である。まして11Rは1号艇。絶対に勝たねばならぬという責任感がある。たとえ山口が意表の前付けを敢行しようとも、土屋が3カドに引こうとも、負けられぬ立場なのだ。篠崎が好むと好まざるとにかかわらず、1号艇で出走しただけでリスクを課せられているわけである。

 敗戦を、篠崎はどのように受け止めただろう。そりゃ悔しいに決まっている。納得できようはずがない。腹の底に悔恨は燃え、それはなかなか鎮まらないだろう。今頃、溜め息をついているかもしれない。

 だが、控室へと戻る篠崎は、顔を上げ、まっすぐ前を向いて、むしろ胸を張るくらいの姿勢で歩いた。すべての責めは受ける。どんな非難であっても逃げない。そんな風情だったのだ。本当は落胆していたはずなのに、篠崎はそんな態度を見せなかった。それは、王者の姿勢である。我々が王者と呼ぶあの人が見せるような、責任をすべて背負うのだと覚悟した者のふるまいである。改めて知った。この男、イケメンなのはマスクだけではない。ハートも、なのだ。

 

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 同じような立場にあるのが、峰竜太であるのは言うまでもない。こちらは予選トップ通過。直前に盟友・元志がインで敗れ、その前には遠藤エミも1号艇を活かせず、白いカポックが負け続けるという流れも、プレッシャーにはなっただろうか。

 ただひとり、イン逃げ快勝を決めて、ピットに戻った峰は満面の笑みだった。2着の黒井達矢に「ありがとう! 明日は頑張ろう!」と声をかけ、余裕があるようにも見えていた。ところが。

 地上波インタビューを終えて控室への戻り際、峰は右手を差し出してハイタッチをしてきた。それが、なんだかやけに力弱いのだ。

「あぁ……精も根も尽き果てました……」

 まったく楽な戦いではなかったのだ。そんなイン戦を戦い抜いた峰竜太もやっぱりカッコいい!「明日は泣き言は言っていられません。実績上位と言われるなら、上から目線でいきます。松井さんや瓜生さんの気持ちを味わいますよ」。明日もリスクある戦いである。勝っても負けても、峰は何かを背負って戦うのである。

 

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 さて、勝者たちだが、今日は会見の進入に関するコメントを記していきたい。順番通りに書いていこう。会見は、まず2着選手が行ない、続いて1着選手。もちろん10R、11R、12Rのそれぞれのレース後に行なわれ、ざっと順番を示せば桐生→長尾→土屋→渡邊→黒井→峰である。

 桐生順平「前付けは入れないですね」

 まだ自分と長尾しか優出メンバーが決まっていない段階で、枠番ももちろん未確定。ただ、予選4位の桐生は4号艇になる可能性がもっとも高い。その時点で、すでにコース主張を表明したわけである。

 当然であろう。地元の絶対的エースが、黙って外枠に押し出されるわけにはいかないのだ。その意味で、桐生も明日はリスクをおおいに背負う戦いになる。枠なりなら4カド。それがベストに決まっている。それがかなわずとも、総大将の責任だけは見せる。そういう決意なのだ。

 

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 長尾章平「前付けは入れます」

 えらくあっさり言い切ったので、ちょっと驚いた。もちろん自分と桐生以外の外枠選手は誰になるのかまるでわからない状態。ただ、桐生とは反対に、抵抗はしないというのだ。キモは「深い進入は嫌」。スタートはダッシュのほうがわかるとのことで、ならばあえて深い進入に付き合う必要はない。また、5号艇で準優に乗った長尾は、優勝戦3号艇の可能性が高かった。一人入れれば4カド。2人入れたって5カド。カドになりやすい枠番だということも、あったかもしれない。

 土屋智則「せっかくなので、スローにいきます。内を狙っていきます」

 出た、前付け宣言だ。もう一丁、リスクを背負う! 昨年のチャレンジカップ準優、6号艇の土屋は並み居る先輩たちを相手に前付けを敢行した。SG初出場の土屋が、実績上位の強豪たちに攻め込んだのだ。土屋にはこれがある。そして、優勝戦は5号艇か6号艇とわかった段階で、衒いもなく前付けを表明した。実際は、「駆け引きもあるので」と語っていたが、スローに入ろうとするのは間違いない。入れたくない桐生はどうするか。桐生が抵抗したとき、長尾はどうするか。見ものとなった。だがさらに……。

 

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渡邊雄一郎「土屋くんが来るというので、3カドも視野に入れてます」

 渡邊は土屋の会見を後ろで聞いていた。前付け宣言をもろに耳に入れていたのだ。それを聞いて、渡邊の腹も据わった。準優ではふたつの3カドがあった。優勝戦でその役を演じられるとするなら自分だ。センターからのスタートをつかんでいる、というのも大きいだろう。ただ、桐生が主張を表明しているので、すんなり3カドもなさそうだが……。

 渡邊は、「ここを勝って上の舞台に行きたい」と言った。大阪支部は層があまりにも厚すぎて、記念斡旋はなかなか渡邊には回ってこない。なにしろ「オール大阪の優勝戦と比べて? 楽勝じゃないっすか(笑)」という大阪支部なのだ。上の舞台に行くには、こうした戦いに勝って、名前をアピールするしかないのだ。そのモチベーションがあるから、渡邊の言葉のキモは「勝てるコースから」である。枠を主張するプライドより、勝利のプライド。渡邊の言葉は、実に心強いものだ。

 

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 黒井達矢「一晩考えます」

 6号艇となった地元の雄。それだけに「動かなければならないんじゃないか」との思いがある。もちろん、そもそもが前付け派ではないのだから「6コースでもチャンスはある」との思いもある。戸田でなければ6コースから勝負と即決するところだろうが、今回ばかりはそうはいかないのだ。

 ただ、土屋の前付け宣言をその時点で黒井は知らなかったと思われる。一緒に動くという手もあるし、内が主張して深くなれば6コースでも……いずれにしても考えどころだろう。黒井はどちらを選ぶのか。それを考えるのもまた楽しい。

 で、最後は峰。言うまでもなく、イン主張である。ただ、土屋の前付け宣言を知って、顔色が変わった。それまでは今の足色でも勝負できる、と考えていた。決して分がいいわけではないが、充分戦える足だと考えていたのだ。しかし、前付けが来るなら話が変わる。

 峰竜太「100からでももつ足にしていかんといけないでしょうね」

 イン戦の厳しさは増した。だが、逆に峰は腹をくくっただろう。「泣き言は言えない」は、実はそのあとの発言だ。

 明日の優勝戦、選手の思惑や思い入れ、気合、リスクを背負わんとする覚悟、それらが交錯し合う最高の戦い! 進入から(スタート展示から?)一瞬たりとも見逃せない、スーパーバトルになるのは間違いない!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)