BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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戸田ヤンダビ優勝戦 私的回顧

3カドの恐怖

 

12R優勝戦 進入順

①峰 竜太(佐賀) F06

⑤土屋智則(群馬) F07

②渡邊雄一郎(大阪)F01

③長尾章平(山口) 03

④桐生順平(埼玉) 01

⑥黒井達矢(埼玉) 04

 

 

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 起こってしまった。新鋭王座の時代から、若人の祭典にはフライングが付き物。そうとは知っていたが、5億円以上も売り上げた優勝戦でそれが起こるとは……。

 スタート展示は、ソコソコ穏やかな145/236。本番も同じ隊形なら、こんな大惨事にはならなかっただろう。だが、実戦は違った。土屋がスタ展よりもゴリゴリ攻め、抵抗しようとした桐生を引き波にハメた。嫌気が差した桐生は、前付けを捨てて艇を流した。インの峰と2コース土屋のふたりだけが、舳先をスタート方面に傾けた。

 

 

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 そして……黒井が艇を引き桐生が艇を引き長尾が艇を引き、3コースの雄一郎も艇を翻した。スタンドがどっと沸く。昨日の準優の10R、11Rに続く3カド攻撃だ。この隊形が内の2艇、特にインの峰に与えたプレッシャーは、どれほどだったか。まくり水面の戸田、優出インタビューでの雄一郎の「ぶち込みます!」発言、良くて中堅上位レベルのパワー……3カドの雄一郎とスリット同体では、簡単にまくられる。スタート勝負しかない。そう思ったとしても、不思議ではない。というか、それ以外にどんな有効な勝負手があるだろうか。

 おそらく、背後から近づく2号艇の圧力を背中に感じながら、峰は行った。土屋も行った。そして、宣言どおりに雄一郎もぶち込んだ。雄一郎はコンマ01。入っていると思ったかも知れない。峰と土屋は、覚悟していただろう。峰が1マークを先マイし、雄一郎が渾身のツケマイを放った。1マーク寄りのスタンドは、大歓声で実況の声が聞こえない。峰か、雄一郎か。観衆は思い思いに何事かを叫んでいたが、バック中間を過ぎてその歓声は奇声に変わった、峰も雄一郎も土屋も艇を大外に寄せて、2マークへ向かおうとはしなかった。スピードを落として直進している。

 やっちまった??

 

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 そのはるか後方で、地元の黒井と桐生が激しく艇をぶつけ合っていた。虚しい4着争いに見えたそれは、実は熾烈な優勝争いだった。もちろん、早い段階で桐生も黒井も内2艇(または3艇)の過ちに気づいていだろう。だからこそのデッドヒート。桐生が外から艇を被せて、黒井を圧迫した。黒井は舳先をぐいぐい突っ込んで、桐生を跳ね除けようとした。2マークの直前、桐生がすっと艇を外に開いた。マイシロのない黒井は、ほぼ全速でぶん回してスピード勝負に賭けた。だが、ブイを舐めるようにして差した桐生のハンドルワークは、あまりにも精緻かつ的確だった。激辛の差し一発で、初代ヤングダービーの覇者が決まった。終わってみれば、桐生順平。決まり手は「恵まれ」だが、進入争いでの冷静な路線変更、コンマ01のスタート、Fのアクシデントを見切っていち早く黒井に圧力をかけたバック直線、黒井の攻め手を潰しきってからの冷徹な差し……全力を出し切るべき仕事は、すべてやり遂げていた。そういう意味では、立派な自力優勝だった。

 

 

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 おめでとう、順平。やっぱりアンタは、めちゃくちゃ強いわ!

 そして、わずかな勇み足に散った雄一郎にも労いの言葉をかけたい。気合の3カド攻撃が5億返還の引き金になったのかも知れないが、今日の雄一郎は進入、スリット、1マークともに並々ならぬ決意が漲っていた。

「スタート、行きます。ぶち込みます。優勝します!」

 今日のインタビューの決意表明を、そのまま余すところなく水面に投下した。その言行一致は高く評価したいし、このシリーズで雄一郎のことが大好きになった。

「ふざけんな、フライングでレースをぶち壊したヤツを持ち上げるな」

 そう批判する方も少なからずいるだろう。だが、こと今日の雄一郎(コンマ01)に関しては、私はその批判に反発する。今日の雄一郎にダメ出しする人は、先の白井英治のコンマ00優勝や今日の桐生のコンマ01優勝を手放しで祝福する資格がないと思う。コンマ01~コンマ+01までの領域は、人知を超えた神のみぞ知る領域なのだから。で、峰&土屋の非常識な方々(笑)は……どうぞ、ガツンと叱ってやってくださいな。私はと言えば、引くに引けなかった意地っ張りの彼らにも寛容ですけど、ね。

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(photos/シギー中尾、text/畠山)