伝家の宝刀
8R
①長嶋万記(静岡) 07
②谷川里江(愛知) 10
③遠藤エミ(滋賀) 09
④細川裕子(愛知) 09
⑤倉田郁美(静岡) 06
⑥大瀧明日香(愛知)07
3コースのエミには、常にこれがある。見えないところからの全速ツケマイ。今節の遠藤エミは回り足タイプだから、ほぼ「谷川を叩いてのまくり差し」と読んでいた。だが、エミは自力で長嶋まで攻め潰しに行った。そして、その強襲がものの見事に決まった。もちろん、長嶋は1ミリも油断していなかったはずだ。エミが外から見えた瞬間、艇を合わせに行こうとした。が、それがなかなか届ききれないのが3コースの強ツケマイなのだ。スーーっと水面を滑るようにして、エミの艇が長嶋の横を通り抜けて行った。それで、このレースの1・2着が決まったと言っていいだろう。
1着・遠藤、2着・長嶋。
「3コースのツケマイはパワー知らず」が私の持論で、この派手な奇襲成功を持ってしてエミ=超抜だとは思わない。むしろ、超抜にはほど遠い中堅レベルではないかとさえ考えている。むしろ、この強襲を浴びながら楽々2着を取りきった万記の方が強いと思う。ただ、明日のエミはまたしても3号艇。我々は、再び肝に銘じなげればならないな。3コースのエミには、常にこれがある、と。
女勝負師の本領
9R
①香川素子(滋賀) F+01
②山川美由紀(香川)06
③竹井奈美(福岡) 10
④宇野弥生(愛知) 07
⑤魚谷香織(福岡) 10
⑥向井美鈴(山口) 09
大本命の香川素子がFに散った。もちろん切った本人の自己責任だが、その布石を作ったのは……やっぱり、あの姐御だと思う。スタート展示、山川美由紀は強引にインを奪いに行った。そうはさせじと香川が舳先を入れて、2艇はもつれるようにホーム水面に舳先を向けた。本番の起こしの読みにくいスタ展を強いられた。
いざ本番、小回り防止ブイを回った山川は、再びスーーッと香川の横を通過した。当然、香川もそれに歩調を合わせる。付き合わせておいて、山川はブイを目指さず真っ直ぐに助走距離をとった。香川だけがブイを回り、舳先をスタート方面に向ける。ひとり、深くなる。山川との起こし位置の差は、かなり開いた。2コースの山川は、ほとんどまくり。香川がそれを知らないわけがない。それに抵抗する手段は……スタート勝負。そんな追い詰められたような心理状態が、香川の中にあったのではないか。
コンマ01。数十センチほど境界を超えて、香川はレース水面から去っていった。「恵まれ」で先頭を走っていたのは、山川美由紀。この勝利で、明日もまた2号艇である。「2コースは苦手」と公言しているこの女勝負師が、明日はどんな作戦で中谷朋子を揺さぶるのか。朝のスタート練習から、その布石が積まれてゆくことだろう。
ヒュン!の強み
10R
①中谷朋子(兵庫)11
②松本晶恵(群馬)13
③津田裕絵(山口)15
④岩崎芳美(徳島)15
⑤中里優子(埼玉)10
⑥今井美亜(福井)18
住之江+準優=今日の10R。それくらい穏当な行った行った行ったの1-2-3ダァ決着だった。書くべき要素は少ないのだが、中谷朋子の足は昨日までの私の見立てよりかなり強めだった。このレースは外からゴリゴリ攻めた選手がいないので、逃げる中谷と差す松本のパワー差が見比べやすい1マークだった。そう、私は松本の差しがずっぽり入るのではないかと見ていたのだ。
だが、それは正反対だった。松本の差しは引き波で喘ぎ、逆に中谷は回ってすぐにヒュンと音を立てて加速した。ヒュン、と1艇身。あのヒュンはいい。イン選手にとって、喉から手が出るほど欲しいヒュンだ。明日も同じ1号艇なのだから、鬼に金棒の足と言えるだろう。中谷、すでに盤石なのか!?
私は、まだ首を縦には振らない。たとえパワーが盤石でも、F持ちのメンタリティ(優勝賞金100万円なのだ)、2号艇のあの女勝負師、3号艇の女韋駄天、4号艇の節イチ候補……一筋縄ではいかない難敵が適材適所に配置されている。現状は、どこからでも狙える接戦カードとして、これからの酒肴にしたいと思っている。いちばん気になるのは、やっぱり黒いカポックの存在かなぁ。(photos/シギー中尾、text/畠山)