11Rが終わって、小野生奈のトライアル敗退が確定。日高逸子にはまだ可能性は残されていたが、現実的には限りなく厳しい状況。シリーズ福岡勢は優勝戦に残れず、結果、地元の威信は12R2号艇の川野芽唯に託されることとなっている。川野が最後の砦になったのである。
クイーンズクライマックス初出場。今期A1級に昇級したものの、まだこれといって大きな実績のない川野である。その双肩に福岡の期待がすべてかかった。これはなかなかに重い。そのプレッシャーに耐えられるのかどうか。博多は本当に地元意識が強い。関係者も地元選手をファミリーのように捉え、またそう扱う。選手仲間はもちろん、関係者の熱視線を一身に集めながら、2着条件という厳しい勝負駆けを戦うのだ。僕は正直、これはかなり危うい戦いであると思っていた。
お見事! 本当にお見事な1着である。レースを終えて戻ってきた川野を、福岡勢は拍手で迎える。魚谷香織はとにかくニコニコしっぱなしで、我がことのような喜びようだ。そんな空気に飛び込めば、川野も自然と笑みが浮かんでくる。隣同士でボート洗浄をしていた川野と魚谷のニコニコ顔は、完全にシンクロしていた。
明日の地元勢の期待感もすごいぞ! 優勝戦に残ったのは、シリーズも含めて川野のみ。すべての期待、思いが川野に集中する。これをプレッシャーと感じるのか、それとも巨大な後押しと感じるのか。それが川野の航跡のカギを握るだろう。地元でここまでの願いを託されて大勝負を戦えるなんて、幸せだぞ! それを満喫できるのなら、結果もぐっと近づいてくるはずである。
川野に差された三浦永理は、それでも結果、優勝戦1号艇となった。だから、今日の2着はそれで良しとする? しない。三浦はそんなふうには考えないのだ。
「悔しいなぁ~~~」
カポック脱ぎ場に向かう際にぼそりと呟いた、その一言が本音中の本音なのである。会見での三浦曰く、チャレンジカップでも逃げれば予選トップだったところを逃げられなかった。今日も逃げれば優勝戦1号艇確定だったところを逃げられなかった(結果的には1号艇だが)。だから、明日こそ逃げたい。悔しさを積み重ねてしまった分も、圧倒的に逃げたい。三浦はそんな気持ちで、明日の優勝戦のピットに立つ。
「宿舎に帰って、イン逃げの研究してきます(笑)」
何が悪くて逃げられなかったかを掴みとって明日を迎えれば、2つめのティアラは手の届くところにある。
11Rの1号艇、大瀧明日香も「悔しいっ!」と呟いた。優出会見を終えての去り際だ。ちょっと驚いた。そういうことを口にする人とはあまり思ってなかったからだ。レディチャンやチャレンジカップの、あるいは今節の会見での大瀧には、時にがくんと気がぬけてしまったりする。おかしなタイミングでニャハハハと笑ったり、とにかくのんびりとした口調だったり。あまり勝負師タイプには見えないのである。
会見が進むにつれ、これまでの大瀧の会見とは違うな、とは思っていた。口調は比較的ハキハキしているし、「レディースチャンピオンで悔しい思いをしたので(優勝戦1号艇で敗退)、そのリベンジのつもりで来た」と勇ましいことも言うし、その時点で目をみはるところはたしかにあった。そこにダメ押しのように「悔しいっ!」。うーん、見誤っていたかも、大瀧明日香という人を。1号艇で逃げられず、2番手を鎌倉涼にかっさらわれたレースに、大瀧の本性がうずいたか。まあ、明日勝ったりすれば、またほのぼの明日香を見せてくれるんだろうけど。
そうした感情の起伏みたいなものを、レース後にあまり感じなかったのは鎌倉涼。無事故完走で優出当確というレース前の状況、逆転2着で優勝戦1枠を狙える位置につけたレース後の状況、いずれにしても歓喜をあらわしたり、1着を獲れなかったことの悔恨をぶつけたり、ということにならないのは、まあ当然であろう。
で、涼ちゃんに言いたい。「(大瀧を逆転したシーンは)無理やり感があったので、納得していません」。いやいやいや、あれこそが痺れる走りなのだ、ファンとしては! 昨日の重複になるので詳しくは書かないが、ファンが見たいのは単なる綺麗なレースなどではない。勝ちたい、ひとつでも上の着順が欲しいという気持ちが伝わるレースこそが、感動を生むのだ。今日の涼ちゃんのレースは感動的だった! まあ、調整が合わなくて、足的にもうひとつの状態で、その余裕のなさがあのレースになってしまった、ということであれば、納得いかないのはレースぶり自体ではなく足だった、ということで納得なのだけれども。
会見の締めは「今年はF2で事故パンも経験したので、いろんな意味で成長できた1年でした。最後に笑いたいですね(カワイイ)」。なんだよ、(カワイイ)って。(ニッコリ)と書こうとしたら、つい感想を書いてしまった。明日は納得できる足色、納得できるレースでさらにプリティな笑顔を見せてくれるだろうか。
もう一人、なぜか感情をうまく読み取れなかったのが、平高奈菜である。1着条件の勝負駆けである。それを見事、1着で切り抜けたのである。その時点では確定ではなく、12Rの結果を待たなければならなかったけれども(結果的には遠藤エミと同点、同着順で、タイム差により6位!)、しかし勝つしかなかった戦いで勝ち抜いたのは、会心だったはずだ。もちろん、昨日のこともある。その鬱憤を晴らす勝利ではなかったのか。にもかかわらず、レース後の平高はいわば無表情で、少なくとも喜びは発散されていなかった。隣の平山智加は嬉しそうに笑っているのに。
平高曰く「優勝戦に乗れたのはビックリ。乗れないと思っていた」。だから勝っても意味ないと思っていた? だとするなら、そもそも優勝しか考えていなかったということではないか。つまり、明日は6号艇から勝つことしか考えないレースをするということである。
「この3日間は今年のなかで一番感情の浮き沈みが激しくて、疲れました。でも、明日獲れたら、いい1年だったと言えると思います」
明日のレース後は結果はどうあれ、きっと思いを全身で表現する平高が見られるはずだ。もしかしたら、昨日とはまったく違う意味のある、熱き涙が見られるかもしれない。
それにしても、本当に5着になっちゃいますか、寺田千恵! 3日目の結果までは、グランプリの山崎智也を完全にトレースしてしまった。ということは結果も!……と言いたいが、ひとまず最終日の枠番をトレースすることはできなかった。明日は赤いカポックで登場することになる。レース後の寺田は、ちょいちょい顔をしかめて、納得のいかない表情。もちろん智也をトレースするつもりなんていっさいなく、今日はただただひとつでも上の着順が欲しかった。優勝戦の枠番をトレースできたら、それは大歓迎だっただろうけど。
それでも、会見の締めは智也を意識したものになった。
「智也くんは、勝って今年は僕の年だったと言いたい、と言ってましたけど、私も、私の年だったとなれるように、できる限りのことをしたいですね」
枠番こそ違うが、結果も、そしてレース後のコメントも智也の再現を果たすことができるのか。やはり優勝戦の最注目は、テラッチということになるのだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)