役者が揃った優勝戦となった。全員がSGウイナー。58期が3人というトピックもある。その58期がもっとも若手ともなっている。今年のマスターズは48歳の新人が14人も参戦してきたが、結局は先輩SGウイナーが力を見せつけたわけだ。さらに3人が昨年から連続優出。強者が強者たる姿を発揮したマスターズ、なのである。
当たり前のことだが、そんな彼らも胸の内はさまざまだ。平石和男は、優出を最低ノルマと考えて、びわこに乗り込んだそうだ。理由はオーシャンカップのポイント。オーシャンの選考基準は「GⅠ優勝戦の成績」となっているので、選考期間の1年間にGⅠ優出がなければ権利は発生しない。平石にとってはマスターズがラストチャンス。優出を逃した時点で、オーシャン出場の可能性はゼロとなる。
「オーシャンもそうだし、チャレンジカップとか、そのあとのSGも絡んでくるし」
思えば、SGのピットで平石と会う回数は減ってきている。当たり前のように顔を合わせていた印象があるのだが、昨年の夏以降はSGに出場していないのだ。それを平石も感じているだろうし、だから出場できるチャンスがあれば、そこにこだわる。高い意識を持っているし、また高いプライドも感じられる。
もちろん、これでオーシャンの権利を発生させたからには、次に狙うのは優勝。実際、連に絡めなければボーダーには届きそうにない状況だ。平石のSG優勝は6コースからだぞ。外枠だからといって、侮れない。
小畑実成の視線の先にもSGがある。マスターズを優勝すれば、来年のボートレースクラシックの出場権を得る。来年のクラシックは、児島開催。小畑にとっては、地元SGなのだ。小畑が最後に児島SGを走ったのは、1999年のメモリアル。16年も走っていないのだ。その間にも児島SGはあったが、出場できなかった。明日、小畑は出場チャンスが目の前にぶら下がったレースを走るのである。いわば地元SG勝負駆け。6号艇だからといって、ただリラックスして走ればいいというわけではないのである。
それにしても小畑の人柄、いいなあ。明日のコース獲りを会見で聞かれて、こう言った。
「私もあんまり(内に)入るタイプではないのでねえ」
会見の一人称を「私」とする選手を、他に見たことがない。だいたい「僕」だ。なんだか一票投じて応援したくなってくる。
先を見据える者あれば、目の前の1走に集中力を注ぐ者あり。三角哲男も、実はオーシャンカップの勝負駆けだ。この優出で権利発生。平石同様、明日は上位着順が欲しいところだ。
「いや、先のことは考えずに、明日の1走に集中します」
オーシャンのことは頭にないわけがないが、それを消して走るのが三角。いや、消そうと意識しているといったほうが正確だろうか。勝てば結果はついてくる。だから勝つために走る。それが三角の決意、である。
同じ考えなのが、西島義則だ。いや、西島の場合は、それはもはや信念だ。会見でオーシャンのことを問われて、西島は語調を強めている。
「それは、結果、でしょ? 昨日は昨日、今日は今日。明日も明日で、全力でやるのみです」
ドリーム戦の会見で語った言葉をもういちど紹介しておこう。
「いつも、このレースが最後だと思って走っています。今節もその気持ちで走るつもりです。これで引退したとしても悔いのない、そんなレースをしたいですね」
予選だろうが優勝戦だろうが敗者戦だろうが、一般戦だろうがGⅠだろうがSGだろうが、西島の思いは変わらないのだ。西島から買うもよし買わぬもよし。ただ、西島は覚悟を腹の底に抱いて、レースに臨む。それを見つめることは、間違いなくマスターズ優勝戦を、あるいはボートレースを、ぐっと感動的に心に刻み付けることになるはずだ。
田頭実の頭にあるのは、勝つことのみ、だ。現代ボートレースは、枠主張がひとつの流れともなっている。レーサーの心理として、そこにプライドもあるのだそうだ。もちろん、ただ枠を主張するというわけではなく、内寄りが日々強くなっていく潮流のなかでは、コースを守ることが勝つチャンスに近づくという側面もある。だが、駆け引きをしながら勝ちやすいコースを見つけるのもボートレースである。今日の三角が「スタ展でスローはダメだなと思ったので、ダッシュか150m起こしか考えた。大場選手の動きを見て、これならダッシュでいけると思った」とカドを取ってまくり切ったように。田頭も、「たぶん枠なりでしょうけど、(前付けがあるなら)3コースもあるだろうし、勝てるコースを獲る」と考えているようだ。枠を守るのがプライドではない、勝つことがプライドなのだ。田頭が勝つためにどのような戦略を見せてくれるのか。これもまた、明日の優勝戦を感動的に彩る要素となるだろう。
では、今村豊は何を思う? 会見では開口一番「まくられたのは想定ないです」と冗談っぽく口にした。今村曰く「正直、足は準優のなかでいちばん悪いですね」とのこと。三角との足合わせでは完敗だったそうで、半ば覚悟していた事態でもあったようだ。それでも優出まで持ってきたのだから、やはりこの人は凄すぎる。
「正直、優勝戦に乗れただけでもホッとしています。重責を果たせた、という感じですかね」
重責を果たせた――そう、今村は、今村豊とは何かを自覚している。平石とは違ったかたちで、優出を最低ノルマと考えていたのだ。なぜノルマかといえば、それは今村豊だから。それを認識して、必然的に優勝戦ではもっとも悪い足という状況でノルマを果たすのだから、この人はやはりケタが違うのだ。
さて、明日の今村は優勝戦で何を見せてくれるのか。あるいは、何を思って優勝戦に臨むのか。それが優勝戦を決定的に面白くしてくれるのは、間違いないことだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)