エースの魔術師
12R優勝戦
①石野貴之(大阪) 09
②田中信一郎(大阪)09
③茅原悠紀(岡山) 09
④篠崎元志(福岡) 18
⑤桐生順平(埼玉) 13
⑥松井 繁(大阪) 13
鉄人・石野28号が勝った。
スリットは↑御覧のとおり、スロー3艇がゼロ台で横並び。行き足のパワーもその3艇がほぼ横並びだからして、もう後ろ(ダッシュ勢)からはなんにも来ないスリット隊形だ。つまり、優勝は内3人の誰かに絞られたと言っていいだろう。
石野がひたと1マークを目指す間、信一郎は“公約”どおりやや外に開いて茅原を徹底ブロックした。スタートも足色も一緒で完璧にブロックされては、さすがの異次元ターンの持ち主も何もできない。1マークの手前で、さらに優勝は石野か信一郎かしかない、と思った。
そして、その決着は数秒でなされる。茅原のブロックに心血を注ぎすぎたか、はたまた差しか握るか迷ったか、信一郎のターンの初動は実にチグハグなものになった。ふらりと内にもたれている間に、石野が豪快にバック水面を突き抜けていた。終わってみれば独壇場。私が勝手に危惧していた「28号機が出すぎるがゆえのスタート遅れ」や「うねりを警戒しすぎてのターンミス」などを笑い飛ばすように、パーフェクトな逃走劇を演じた。
レース後、ウイニングランを待つ若者ふたりが、こんなことを語り合っていた。
「強いなぁ、石野」
「うん、エース級のモーターを手にしたら絶対にモノにしとるやろ。それが強いと思うわ」
「結局、それも整備力ってことかもな。エース機を節イチにするって、意外と難しいやろ」
面白い会話だと思った。確かにここ2年ほど、石野はエース級の下馬評を持つモーターをゲットし、何度も記念を制している。2年前の三国オーシャンカップではエース機のパワーを信じつつ微調整で底上げし、去年の鳴門オーシャンカップでは6着5着という最悪のスタートからペラを大幅に叩いてエース級の底力を引き出し、大村チャレンジカップでも4着6着の出だしに焦ることなくエース機とともにファイナル1号艇をゲットしている。もう、何度も書いた気がするのだが、エース機のプレッシャーに潰れない精神力、エース機で成績が伴わなくとも焦らない忍耐力、エース機をそのまま節イチへと導く整備力。ここ2年のSGで3度感じた石野の強さを、今日もまた改めて痛感した。若者たちも、同じものを感じ取ったに違いない。
ちなみに、今回の28号機は真の「エース機」ではない。前検のモーター抽選で書いた通り、下馬評で他を圧したのは1番違いの29号機だった。「28」の数字を見た瞬間、石野の顔に落胆の色が走ったのを、今もはっきり覚えている。悔しそうに顔を歪ませ、席に戻って28号機がかなりの素性だと知って笑顔になったものだ。
あれから6日後の最終レース、石野28号機は茅原29号機を従えて、真っ先にゴールに飛び込んだわけだ。まさしく、石野貴之という男が、28号機を今節の絶対エースへと導いたのだ。水面で石野より速い選手は何人もいるだろうが、陸の上も含めた「7日間の強さ」がV戦線でもっとも重要なファクターであり、イコールそれがそのまま石野の強さなのだと思う。おそらくそれは、王者・松井繁から受け継いだDNAでもあるのだろう。(TEXT/畠山、PHOTOS/チャーリー池上)