BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――激戦!

10R ストップ・ザ・石野

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「たぶんですけど、優勝戦のなかでは僕がいちばん足は弱いと思いますよ」

 岡崎恭裕は言う。この10Rでは、1着を獲ったものの、バックで赤岩善生に伸びられたという。下條雄太郎との足合わせでは、決して強めではなかったそうだ。丸岡正典も石野貴之も、後輩の篠崎仁志も良さそうだ。分析力のある岡崎だから、言う通りなのかもしれない。しかし僕は、優出会見でただ一人、この言葉を言ったというのを見逃せない。11R、12Rの結果がまだ出ていないけど、と前置きしたうえで、こう言ったのだ。

「石野さんを僕が止められたらいいな、と思います」

 その言葉、その裏にある思いを、僕は支持したい。明日は3号艇。おそらく3コース。「帰ったらJLCで丸岡さんのターンを勉強します」と岡崎は笑った。足はいちばん弱い、と認識していたとしても、岡崎のなかには勝利の二文字しかない。

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 2着の赤岩善生は、やはり悔しそうであった。ピットに戻ると岡崎に歩み寄り、スリット写真などを見ながら感想戦をしていたが、瞳には無念の思いが浮かんでいた。自分から売れていたのも確認しており、だから「申し訳ない」という思いもつのったようだ。

 赤岩はこれが13年グラチャン以来のSG優出である。そんなに開いたか、と意外な気もするわけだが、この場所に戻ってこれたことに感慨はあるはずだ。「俺は反骨精神しかないような男」とかつて赤岩は言っていたことがある。久しぶりのSG優勝戦で、今日の悔恨を反骨精神に換えて、明日は全力の戦いを見せてくれるだろう。

 

11R リベンジへ

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 篠崎仁志はとにかく悔しそうに顔を歪めた。端正なマスクが崩れるほどに、眉間にシワを寄せる。初のSG準優1号艇。本人は「いつも通りの緊張だった」と言ってはいたが、自覚できない緊張感はなかっただろうか。なにしろ、兄の篠崎元志が「自分のときより緊張した」とレース後に苦笑していたのだ。スタートはコンマ22。これがとにかく悔しかったようで、会見で問われたときにはまた顔をしかめるのだった。

 足はさらに良くなっていたようだ。今日、ペラを大幅にやり直した。準優1号艇という日に、篠崎は思い切った作業をしたのだ。その勇気は素晴らしいし、それで実際に足がさらに上向いたことは確信を抱かせることになっただろう。だというのに不本意なスタートになり、敗れた。優出という最低限のノルマはクリアしたけれども、レース後には悔しさしか感じなくて当然だ。明日の優勝戦は、今日のリベンジという意味ももちそうだ。

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 リベンジといえば、丸岡正典にとって、明日の優勝戦は奇しくもリベンジマッチとなった。昨年の鳴門オーシャンカップ優勝戦。1号艇の丸岡は、敗れ去った。後輩である石野貴之に敗れたのだ。明日、1号艇はその石野である。まさに昨年の意趣返しをするチャンスである。まあ、それはあくまでも我々が煽るだけのことで、丸岡も「勝てばなんでも言えるし、結果論。だから、よくわかりません」と笑うのみ。リベンジうんぬんではなく、優勝するために明日は戦うのである。

「まあ、丸岡、数少ないチャンスなんで、モノにして帰りたい。そろそろいいでしょ、勝っても(笑)」

 会見で丸岡は言った。なんで「丸岡」とつけたのかはわからないが(笑)、相手がどうこうではなく、考えるのはそれだけだ。なお、(笑)は文字に起こすと、にゃはは、である。丸ちゃん笑いだ。やっぱり、この人が笑うと、和むな~。明日も聞きたい。

 

12R W連覇

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「まあ、僕には関係のないことなんで、勝手に書いてください」

 石野貴之は会見でそう言って笑った。石野は昨年の鳴門オーシャン覇者。つまり、鳴門SG2連覇がかかる。さらに先月のオールスター覇者。SG2連続優勝もかかる。当然、我々は「W連覇だ!」と騒ぐわけである。石野にとっては、明日の優勝戦は「目の前のレース」。いつもと変わらずに全力で勝ちに行くだけだ。もちろん、騒ぐことはかまわない。その偉業を意識することはない、それだけのことである。

 オールスター優勝戦では珍しく緊張したと言っていた石野だが、今日はそういう雰囲気は少しもなかった。キリリとした顔つきで、速足のような歩様、胸を張って歩く様は、まったくいつも通りに見えていた。レース後も同様だ。勝った喜びがあらわれるのか、目つきがキリリンと凛々しくなる。明日もそんな石野がきっと見られるのだろう。なお、丸岡について問われて「ああ見えて、闘志むき出しなんで怖いです(笑)」と笑っていた。にゃはは、は陸の上だけなのである、丸岡は。もちろん石野が狙うは、自分が勝ってのワンツー。明日も揺るぎなく、レースに臨むことだろう。優勝戦というよりは、目の前の大事なレースに。

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 2着争いに明暗があった。まず、1マークで原田幸哉がうまく立ち回り、2マークは先マイに持ち込める態勢になっていた。しかし、外から来た下條雄太郎を意識したのかオーバーターン気味となり、茅原悠紀にわりとあっさり交わされた。その後、4着にまで後退している。

 レース後、原田は岡崎恭裕と峰竜太に話しかけていた。岡崎と峰は、レースを見ての原田の走りについての感想を述べていた。こうなったからああなった、あそこはこうすればよかったかもしれないですね、などという話を岡崎と峰が原田にし、原田はそれを笑みも浮かべながら素直に聞いていたのだった。同地区の後輩との分け隔てない会話。移籍は、こういう面でもプラスがありそうだ。

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 1周2マークで2番手に浮上した茅原悠紀は、2周後、つまり最後のターンマークで逆転された。ピットに戻った茅原はただただうなだれて、無言で悔恨を噛み締めていた。

 逆転された場面、ターンマーク手前ではかなり後ろを気にしており、それが失敗を招いてしまったか。岡崎と峰は、茅原とはニュージェネ同士という間柄。原田の前に、岡崎と峰は茅原に話しかけている。茅原も素直に話を聞いていたが、笑顔はまるで浮かばない。逆にそれが悔しさをさらに思い出させたのか、表情はますますカタくなっていったのだった。手にしかけていた優出を逃したこと、まさかの逆転を喫したこと、この悔恨は単一ではなく要因が複雑に絡み合っている。宿舎に戻ってもきっと、悔しさは消えないだろう。

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 そして、最後の最後に大逆転優出を決めた下條雄太郎。まず、1周1マークのターンは、1着だけを狙いにいったターンだったという。10、11Rの結果を受けて、下條は1着なら優勝戦1号艇だった! まさに勝負のターンだったのだ。3周1マークのターンは、「3番手確保しに行ったら、茅原との差が一気に詰まった」のだという。こうなれば茅原を追うしかないと腹を決め、3周2マークで抜きにいった。決まった! 下條のこの勝負魂は、たとえ6号艇でも、明日の優勝戦では侮ることはできない。おそらく6コースになるだろうが、アウトから何を見せてくれるのか、楽しみだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)