BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ニュータイプの悲願達成

 

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 全体的に淡々としていた優勝戦の雰囲気であった。これは、寺田祥が大本命であったことの象徴的な出来事なのだろうか。勝った寺田は、地上波放送のインタビューにやって来てもまったくといっていいほど、普段と変わらぬ表情でカメラの前に立った。この何年か地上波放送のピット解説をさせていただき、間近でウィナーの姿を何人も見てきた。これほど、歓喜をあらわにしない覇者がいただろうか。いや、寺田の胸の内には大きな大きな歓喜が渦巻き、それを単にあらわにしていないだけなのか。いずれにしても、寺田については僕はよくわからないことばかりと言っていい。

 優勝戦メンバーが本格的に始動したのは、結局後半の時間帯、すなわち夕刻以降だった。白井英治、平本真之、森高一真、田村隆信が7R発売中に、前田将太と寺田が8R発売中にボートを水面に下ろした。もっとも遅かったのは寺田だ。それも余裕をもって、水面に向かった感じだった。プレッシャーに喘ぐ様子は微塵もない。機力は節イチ、メンタルも乱れていないのなら、もはや死角はこの時点でほとんどなかったと言っていいだろう。

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 他の選手たちの表情は、時間を追うごとにどんどんと鋭くなっていった。6号艇の前田にしても、明らかに緊張感が高まり、気合がほとばしる表情になっていく。大外だからプレッシャーなどない、というのは一面で真理でも、しかし優勝したいという思いは優出した以上はやはり強い。そうした真理を、前田の顔つきに見たような気がした。

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 レース直前になると、さらに闘志が伝わってくる。やはり目を惹かれるのは白井の険しいとさえ表現したくなる表情で、相手が盟友というべき存在であろうと、その盟友にSG初優勝が懸かっていようと、全力で潰しにいくだろうという気配を感じずにはいられない。

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 逆に、田村は一瞬だけ表情が緩んだ。後輩の山田祐也が、「行ってらっしゃい」と送り出したときだ。「見とけよ。ホンマのまくり差しを、よく見とけよ」。山田にそう言いながら、田村の顔には笑顔が浮かんだ。それもまた、田村の心を整えるやり取りにはなっただろう。

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 そうして、超抜パワーの寺田に、5選手全員が真っ向勝負を挑んだが、それらは実を結ぶことはなかった。やはり寺田祥は強すぎた! レース後の5選手は、実にサバサバしていたものだ。平本は「何もできなかった」と苦笑いを浮かべ、白井は「祥が強かったか」とばかりにニコニコと笑い、田村も前田も悔しさをそれほどあらわにしない。森高だけが、フゥーッとひとつ溜息をついたのが、悔恨がこぼれた瞬間だったか。いや、それにしても、単に疲労の表現だったかもしれない。

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 地上波インタビューを受ける寺田に、祝福の声は次々と飛んだ。それは対戦相手からも。寺田はこれがSG初優勝である。これが10回目のSG優出。オーシャンカップで峰竜太のSG初優勝がおおいに業界を盛り上げたわけだが、寺田も峰並みに、あるいはそれ以上に、悲願をなかなか達成できずにいたのである。峰のように派手な無念のドラマがあったわけではない。SG初優出からは約10年が経ち、峰のように短期間で数々の無念を味わったわけでもないし、また白井のほうが初優出から初優勝までの時間がかかっているから、3年前の若松メモリアルのように「やっと……」という思いはちょっと薄いというのも事実である。しかし、寺田も悔しい思いを重ねて重ねて、ここに辿り着いた。仲間たちが嬉しそうに称えるのは当然である。

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 それにもかかわらず、レース後の様子が峰とは正反対というのも、それがテラショーらしさということだろう。ふたたび若松メモリアルで、満願成就が果たされた。それも、白井や峰とは対照的なタイプのニューヒーローが誕生した。寺田は今後も、淡々と勝利を積み重ね、SG1Vに満足することなく、粛々と戦っていくだろう。まあ、個人的にはいつか、テラショーがくっしゃくしゃの笑顔を見せたり、逆に号泣したりするところが見たいなあ。そんな日が来るのを待ちながら、寺田祥の戦いを見続けよう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)