２Ｒでフライングが出てしまった。小野生奈と三井所尊春だ。女子唯一のＳＧ参戦だった小野と、まくり屋三井所の戦線離脱は本当に残念。二人とも、対戦相手の４選手に頭を下げて回っていたが、いちばん痛いのは言うまでもなく、本人たちである。小野の周りには川野芽唯や竹井奈美らが集って気遣い、三井所の周りでは峰竜太や篠崎元志ら九州勢が沈鬱な表情となっていた。フライングの痛恨は選手であればだれもが共有できるものだから、関係の濃い仲間たちはともにつらい思いを分け合うことになる。
それにしても、選手の感覚には驚かされる。たまたま前田将太が近くで観戦していたのだが、スリットのずっと手前で「早い！」と叫んでおり、通過する際にも嘆息を漏らしていた。小野がコンマ04と危うく即日帰郷というタイミングだったこともあるだろうが、それにしてもわずかコンマ04のスリットオーバーを瞬時に察知するのである。レーサーならではの感覚であろう。正直、前田が近くにいなかったら、僕なんぞは早いスリットとまるで知らず、対岸のビジョンに返還が記されてやっと、天を仰いだりすることになったはずだ。レーサーも僕も同じ人間だが、アンテナの種類はまるで違うのだろう。
そのレースでは、菊地孝平が不良航法をとられている。１周２マークで田村隆信と接触し、後退させているから、まあ想像の範疇ではあった。菊地もそれをある程度は覚悟していたか、ピットに戻った直後からやや険しい表情となっていた。井口佳典が笑みを浮かべながら言葉をかけても、菊地の表情はなかなか緩まない。２着ではあっても、Ｆ艇があり、減点をとられるかもしれないという状況では、気分は晴れないのも致し方ない。ボーダーを５・00とするならまだ予選突破の目が消えたわけではないので、切り替えて後半に臨みたいところだ。
同レースの勝者は山崎智也。決まり手は、恵まれである。この決まり手では、やはり心から勝利を喜ぶというわけにはいかないだろう。ピットに戻ってきた智也の表情は、もろ苦笑い、なのであった。桐生順平らに声をかけられても、やはり苦笑い。ラッキーはラッキーだが、まさか「ツイてる！」と浮かれるわけにもいかない。もちろん、恵まれるポジションを自力で得ていたからこその恵まれ１着なのであって、別に後ろめたい思いなども生じるはずはないが、歓喜はどうしたって控えめになるわけである。小野から謝罪を受けた智也は、即座に真剣な表情になって、小野を気遣った。小野の心中がわかりすぎるからこそ、そうした態度を見せるわけである。
女子戦の１Ｒでは転覆があった。三浦永理だ。幸い、すぐに「選手無事」のアナウンスがあったため、初日10Ｒのような騒然とした空気にはならなかったが、勝負駆けシリーズでの転覆は当然痛い。たとえ身体に痛みがなかったとしても。
転覆艇の引き上げには、女子選手が総出で取り組むことになった。はじめは長嶋万記ら東海勢が集合しており、そのなかに新田雄史がポツンと黒一点（？）混じっていたのが微笑ましい光景となってもいたのだが、やがて手の空いている女子選手が次々に集まって、ついには日高逸子や山川美由紀まで、引き上げ作業をヘルプするのであった。ちなみに男子は井口佳典も参加。静岡勢の菊地孝平は２Ｒ出走で不参加だったが、そうか、ＳＧに静岡男子がたった一人というのは、最近ではかなり珍しい事態であるな。
これで三浦は予選突破が相当に厳しい状況となってしまったが、勝負駆けシリーズはそれこそ何が起こるかわからない。まずは後半レースでの巻き返しに期待したい。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
