BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

GPトライアル最終戦ダイジェスト

ぶち込み師匠、ひとまくり!

 

f:id:boatrace-g-report:20180117110914j:plain

 

11R 進入順

①峰 竜太(佐賀)15

②菊地孝平(静岡)08

⑥白井英治(山口)10

③毒島 誠(群馬)07

④井口佳典(三重)01

⑤原田幸哉(長崎)09

 

f:id:boatrace-g-report:20180117110925j:plain

 

 ぶち込みもぶち込んだり、コンマ01!! よほど昨日のアジャストが悔しかったのか、それとも弟子の新田=ファイナル1号艇に触発されたか、今日の井口はスタートの鬼と化した。もちろん、電撃スタートだけで満足はしない。スリットから半艇身覗くやいなや、舳先を左に傾けて毒島を力でねじ伏せ、さらにスロー3艇を軽々とハコまくりで交わし去った。井口佳典&超抜10号機の持ち味が、この10秒間にすべて凝縮されていた。あとはもう、一人旅。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111234j:plain

 

 こうなると2着争いは混沌とするものだが、バック出口で早々に2番手を取りきったのはインの峰だった。井口10号機があまりにも伸びすぎて「逆にマイシロがあった」という僥倖もあるが、完全にまくられながらもいつもと同じようなターンマークすれすれの全速インモンキーで旋回したように見えた。うーん、この男、負けても凄い。

 3着争いは2マークまでもつれたが、菊地が冷静に差し抜けてそれをもぎ取った。結果的に、とてつもなく大きな3着だった。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111246j:plain

 

 そして……6号艇で1着勝負だった白井12号機は3コースまで潜り込んだが、今日も見せ場すら作れずにV戦線から脱落した。住之江の双璧として君臨してきた10号機から、力づくで引導を渡された。この4日間、何がどうだったのか私には分からないし、おそらく白井本人もこの現実を受け止めきれないだろう。最後まで12号機の持ち味を水面に投影できないまま、白井の今年が終わった。

 レース後、勝った井口は両手をぐるぐる回してファンの大声援に応え、さらにもっともっとと両手で促した。2度のまくりも含めて今年のトライアルの主役となった井口10号機。白井12号機との極端すぎる明暗を、如実に感じさせる光景だった。

 

トライアル最終戦 私的回顧

喧騒と静寂と

 

12R 進入順

①桐生順平(埼玉)16

④森高一真(香川)17

⑤茅原悠紀(岡山)09

⑥松井 繁(大阪)26

②石野貴之(大阪)14

③寺田 祥(山口)11

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111258j:plain

 

 記者席からスタンドの2マーク寄りの端っこに駆けつけた瞬間、ファンファーレが鳴った。6号艇の松井はもちろん、メイチ勝負駆けの森高と茅原も一斉にエンジンを噴かす。大歓声。

「マツイ、イン獲れーー!!」

 誰かが叫んだ。私もそんな光景に期待して駆けつけたのだが、森高と茅原が強硬にブロックしながら内へと艇を運び、最後のトライアルは1456/23という隊形になった。いや、1456//23と記すべきか。早々に舳先を向けた内4艇はずんずん深くなってゆく。一方、コースよりも助走距離を選んだ外2艇は、その艇団に背を向けてどんどん離れてゆく。その彼我の差を眼前にして、スタンドはさらに騒然となった。

「ヤバイヤバイヤバイよ、これ、ヤバイよぉ」

「行ける行ける、石野、行ったれやぁ!!」

 悲鳴と歓声の不協和音が、鼓膜を揺らす。もちろん、ボルテージが上がるのは外2艇の支持者たちだ。とりわけ、地元の石野。スタンドのあちこちから「イシノ」という叫び声が聞こえ、12秒針とともにそれは最高潮に達した。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111311j:plain

 

「行けっ、行ったれ、イシノォォォ!!」

 叫び声を背に、石野は行った。カドから覗いたらすぐに絞める、が石野本来のスタイルだ。まずは凹んだ地元の大先輩を一息で呑み込んだ。そして、ほぼ同体だった3コース茅原をボディアタックで弾き、その勢いのまま一気にイン桐生まで叩き潰した。この瞬間、ファイナルの切符を手にしたと言ってもいいだろう。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111325j:plain

 

 後続の争いがまた熾烈を極めた。ターンマークごとに、どれだけ順位が入れ替わったか。水面下では、そのたびにファイナルの枠番がぐるぐる入れ替わっていた。とりわけその変動が大きかったのは桐生だろう。石野のまくり一撃をモロに食らった桐生は、2周ホームで5、6番手に置き去りにされていた。このままの着順だったら、ファイナル1号艇はおろか4、5号艇だったはずだ。たとえ3着まで押し上げたとしても、明日の1号艇は井口だ。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111335j:plain

 

 が、2周1マークで“事件”は起こる。ほぼ安全圏の2番手と思われた茅原が、寺田の渾身の切り返し(2着なら菊地を抜いてファイナル進出!!)に対して外から力とスピードでねじ伏せようとした。並みのレースなら、鮮やかな抱きマイとなって決着がついたかも知れない。このレースは違う。「本気でグランプリを狙ってきた」寺田が、2着条件という状況で首を引っ込めるはずもない。切り返したスピードのまま茅原に艇を寄せ、ガツンと弾き飛ばした。

 そして、その大競りの間隙を縫って最内をスピーディーに差し抜けたのは、桐生だった。大きな大きな逆転劇。この一刺しが、ほぼ固まりかけていた新田雄史&井口の「W優勝戦1号艇・師弟占拠」を打ち崩し、自らがファイナル1号艇に返り咲いたのだ。

「テラダァァ、なにさらしとるんじゃぁ!」

「カヤハラァ、アソコじゃねーーだろーー!」

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111349j:plain

 

 レース後、興奮した何人かのファンが口々に叫んでいた。が、スタンドに残った多くのファンは、劇的な5カドまくりを決めた地元のヒーローを讃え続けた。

「イシノ、おめでとーー!!」

「イシノ、サイコーーッッ!!」

 優勝したような大騒ぎ。ピットへと向かう石野はその歓声にチラリ目をやり、拳を握りしめてガッツポーズ。またスタンドがドッと沸く。その後、松井がゆっくりとやってきたが、この敗者への罵詈雑言は一言たりとも聞こえなかった。たたただ、松井を見ていた。気合の前付けでスロー勢を深くし、スタートで凹んで後輩の石野に攻め潰された。今年の松井のグランプリは、結果として石野の援護射撃とともに終わった。地元の観衆は、それぞれ複雑な思いを抱いて、王者の背を見送っている。残酷なほどに静かな光景を眺めながら、私はそう思った。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117111359j:plain

 

 ファイナル勝負駆けという意味も含めて、今日のこのレースが今節一番の激闘だった。11Rも人間のギリギリの思いが水面の随所に投影されていた。シリーズ戦は準優も含めてイン10連勝で、こちらは5コースまくり2連発。この結果は、偶然ではない。ピットアウトからスリットから1マークから道中から、選手たちの“懸ける思い”の違いが痛いほどに感じられた。

 レース後、石野と松井がピットに帰還しても、多くのファンは夕暮れのスタンドに居残り、思い思いに今日のレースについて熱弁をふるっていた。どの顔も興奮気味で、妙に嬉しそうにも見えた。そう、そんな顔にさせるレースだったのだ。

 うーん、これだからグランプリはやめられねぇ。

 記者席に向かいながら、心の中でつぶやいた。(text/畠山、photos/シギー中尾)