BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

住之江GPシリーズ優勝戦 私的回顧

極限のギャンブル

 

11R 進入順

①新田雄史(三重) 01

④前本泰和(広島) 07

⑤深川真二(佐賀) 09

②田中信一郎(大阪)08

③湯川浩司(大阪) 08

⑥中島孝平(福井) 05

 

f:id:boatrace-g-report:20180117112714j:plain

 

 コンマ01、しかもスリット全速!! 腹を据えたスタート攻勢が、新田雄史を4年半ぶり2度目のSGタイトルへと導いた。

 ファンファーレの寸前、私は最近のお気に入りスポット「スタンド2マーク寄りの端っこ」へと足を運んだ。5号艇にあの男がいたからだ。発進の合図とともに深川が飛び出し、内の艇も横目でその動向を伺っている。オレンジブイを回ってさらに深川が加速する。

 平和島ダービー同様、この前付け屋の内に艇を合わせたのは前本だ。田中&湯川の地元コンビは、付き合いきれまへん、という風情で早々に艇を流している。深川が噴かし、前本も噴かす一騎打ち。ダービーでは深川のツケマイ気味のアタックで置き去りにされた前本だったが、今日は深川よりも早く舳先をスタート方向に傾けた。リベンジ成功。平和島での“惨敗”が、よほど悔しかったのかもしれない。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117112727j:plain

 

 チッと舌打ちするような風情で、外の深川がスピードを緩める。やや遅れてインに新田がくるりと入り込み、スロー勢は新田・前本・深川のほぼ横並びになった。もちろん、3人仲良く前へ前へと流れてゆく。一方の田中・湯川・中島の近畿トリオは舳先をゆっくりと逆方面に翻した。地元ファンが詰めかけたスタンドは大歓声。タナカ、ユカワ、シンイチローの名があちこちから飛び出す。そして、ずんずん前に進むスロー3艇には……

「おらおらぁ、80まで行ってまえーー80まで行ってまえーー!!」と20代らしき若者。

「前行けー前行けー前行け―もっともっと前行けーー前行けーー!」と呪文のように繰り返す20代らしき女性。「行ってまえ」や「前に行け」は応援しているようなセリフだが、ここでは真逆。どんどん深くなってダッシュ勢=地元コンビが有利になれ、と言っている。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117112738j:plain

 

 その“呪文”に背を押されるように、スロー3艇はずんずん深くなる。深くなるたび、観衆も熱狂してゆく。12秒針が回ってダッシュ勢がレバーを握る。ほぼ80m起こしのスロー勢にどんどん近づき、スリットでは内外がほぼぴったり舳先を揃えた。

「信ちゃんだっ!!」

 誰かが大声で叫んだ。同時に、4カド信一郎がスーーッと伸びていく。深いスローとたっぷり助走を取ったダッシュ勢と。そのスピードの差は明らかで、遠目ながらに信一郎が一気にまくりきるように見えた。

 だがしかし、そこで大きくモノを言ったのがインコース新田のコンマ01スタートだった。スロー3艇が横並びなら、信一郎は一気に内を絞め込んだはずだ。突出している新田を見て、信一郎は展開を突く戦法を選んだ。私はそう思う。そして、その攻撃を喰らう前に、新田は鮮やかに逃げきった。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117112749j:plain

 

「人生を賭けて勝負しました」

 優勝インタビューで新田はこう振り返った。スタートの判断だ。ひとつ間違えば勇み足で来年のSGを棒に振り、その余波は何年にも及ぶ。その危険を回避してアジャストする選択もあったが、新田は全速突破というギャンブルに出た。ここ数年のレーサー人生を賭けた、という意味では大げさでもなんでもない言葉だと思う。そして、新田はそのギャンブルに勝った。劣勢なパワーを決死のスタートで補い、信一郎らダッシュ勢の猛攻をシャットアウトしたのだ。

「今回は自力で優勝できたと気がします」

「今日の優勝で、これからもっと強くなれると思います」

 さらなる新田の言葉は、まったくその通りだと思う。海千山千の猛者たちの“トラップ”を潜り抜け、自力で勝ち取った優勝。あっぱれと言うしかない。

 

f:id:boatrace-g-report:20180117112804j:plain

 

 あ、最後に……前付け及ばず6着に敗れてピットに帰還した深川に、ひとりのオッサンがこんな野次を浴びせていた。

「こらフカガワ、もう二度と住之江に来るんじゃねーぞぉ!!」

 深川本人に届いたかどうかわからんが、私はそれを最大級の誉め言葉だと受け止めた。来年こそは、トライアル&GPファイナルの6号艇で、さらなる激辛の野次を浴びてもらいたい(笑)。

(text/畠山、photos/シギー中尾)