BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――グランプリ終了!

 

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「ようやった!」

 激戦を制してピットに生還した桐生順平に、須藤博倫が激しく抱き着く。同県の先輩は優勝した本人以上に上気している。続いて後輩の中田竜太とも熱く抱擁を交わす。32回目にしてはじめて、黄金のヘルメットが埼玉支部へ渡ったことに、彼らは心を震わせているようであった。

 一方、新賞金王、4000番台初の2億円選手となった桐生の表情は、「デビューしたときから目標にしていたグランプリを獲れた」嬉しさと、「昨日とは違って一本かぶりの1番人気に応えることができた」安堵感、その両方が入り混じっているようにみえた。

 

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 見た目にはイン逃げ完勝だ。しかしレースに出走するまでの判断は、相当に難しかったと思われる。午前と午後で気温が3度以上あがり、気圧が約10ヘクトパスカル下がり、さらにレース10分前には雨まで降りだしたのだから。

 実際、午後のスタート特訓が終わった後、ファイナリストの6選手すべてがペラを叩き、試運転なしのブッツケ本番でレースを迎えるという、珍しい状況がみられた。激しくハンマーを振るってペラを叩いていたのは峰竜太。横に土屋智則が付きっ切りになって最後の最後までペラを叩き変えていたのは毒島誠。早い段階から菊地や石野や井口もペラを触っていた。そんななか、イヤホンで音楽を聴きながら、もっともソフトに調整していたのが桐生だった。

「エンジンとボートを信頼して行きました」 レース後に桐生はこう語った。昨日はイン戦で2着に敗れた。しかし過去に経験したことがないほどいい足だという住之江8号機。気象状況が変化する中でも、そのパワーを信じて、微調整でうまく乗り切ったのが勝因となった。

 

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 惜しくも敗れた5人は、みな疲れた雰囲気でピットに帰ってきた。井口佳典は、軽くうなだれて、脱いだカッパを軽く引きずりながら選手棟へと歩く。桐生の優勝を笑顔で祝福した峰竜太も、振り返ると素の表情に戻っている。石野貴之は口を真一文字に結んで悔しさをにじませている。

 レースは1走――たった2分の出来事だが、彼らはこの1走を勝つために一年間走ってきている。レースが終わった瞬間、今年の疲れが一気に噴出しているのだろう。ただし単純な疲労感というよりは、「心地いい疲れ」なのではないかと夢想する。

 

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「また来年な!」

 菊地孝平と松井繁が挨拶を交わして分かれていく。ほかにも方々で、「よいお年を」という声が聞こえてくる。あれだけ人がいたピットから、徐々に人が消えていく。

 ボートレースは年末まで続くが、A1級のトップレーサーにとってグランプリは大晦日にあたる。その最後のレースに出走できたことを誇りに、彼らは2018年も戦う。優勝した桐生も、 

「毎日がすごい緊張感でした。でもこの緊張感は6人しか味わえないので、それが味わえて結果も残せたので、これからに生かせると思います」

 と感想を述べていた。すでに“これから”に目が向いているのだ。

 

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 平成29年のグランプリは幕を閉じたが、すでに平成30年グランプリへの戦いは始まっている。次回は泣いても笑っても『平成最後のグランプリ』。2億円レーサーが誕生した4000番台選手がふたたび活躍するのか、平成の歴史を作ってきた3000番台のベテランが最後のグランプリを死守するのか。

 来年のことを言うと鬼が笑うというが、グランプリ直後の聖なる夜くらい、そんな話で盛り上がってもいいではないか。

 

(TEXT/姫園 PHOTO/池上一摩)