ピットの端のほう、岸壁に腰掛け、水面を眺める平高奈菜。誰も声をかけられない……。平高の胸に去来するものを、誰もが想像できるだろう。このことが、いつか平高がタイトルを手にしたときに「あのことがあったから、さらに強くなれた」というコメントにつながることを信じよう。
優勝戦メンバーでは、水野望美が早くから精力的に動き、1Rが終わるやボートを下ろして試運転を走った。3R発売中にはいったんボートを陸に上げて調整に入る。序盤で目立った動きを見せていたベスト6は、正直これだけである。
ボートのもとで作業をしていたのは細川裕子と長嶋万記。細川は落ち着いた表情で淡々としており、長嶋は早くも目に力が感じられる。その後、挨拶だけ交わしたときも、気合の入った顔つきだった。ある意味、ふたりの様子は好対照。もちろん細川もレースが近づいていけば、高まっていくだろう。
藤崎小百合は、3R発売中まではエンジン吊りでしか姿を見なかった。2R発売中のエンジン吊りで、深川麻奈美を待つ間にはあくびも一発(笑)。うむ、落ち着いている。カタくならずに大一番の朝を過ごせているようで、雰囲気は悪くない。
1号艇の中村桃佳は、どうだろう、やはり少しカタいようにも見える。他の選手との絡みでは笑顔も見えているのだが、ひとり歩く様子からは昨日までとは違ったものを感じるのだ。もっとも、今日は緊張するのが当たり前。しなかったらおかしい。だからカタくなっているとしてもそれでいいのだし、それを受け止めて頑張るしかない。あとは一日、プレッシャーに負けないよう心を整えていくだけだ。
緑のマスクをつけているのでハッキリとした表情は読み取れにくいのだが、やはり山川美由紀は実に悠然たる様子である。百戦錬磨、という言葉が自然と頭に浮かぶ。数々の激戦を戦ってきた山川にとって、今日の優勝戦が過去と比べて突出して特別ということはありえないだろう。ペラ調整も粛々と進めているようで、ビッグレース優勝戦の戦い方、過ごし方を知り尽くしているのはやはり強みだ。中村が最も警戒すべきは、この畏敬すべき先輩であるのは間違いない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)