BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――最後まで

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 10Rが終わって1便組が帰宿し、すっかり閑散とした11R発売中、そして12R発売中のピット。静寂を切り裂くように、金属音が鳴り響く。鳴り響き続ける。屋外のプロペラ調整所には、粘りに粘って調整を進める遠藤エミ。ここまで、どれだけ遠藤がプロペラと向き合う姿を見たことか。途中、同期の上野真之介が隣に座り込んで会話を交わし始めたが、遠藤は時に微笑みながら、プロペラ調整の手を休めることはなかった。もろもろの作業を終えた小野生奈、竹井奈美もその近くに陣取りプロペラを叩く。この3人が、レース後も長くここで過ごすことも非常に多い。結局、12Rの締切ギリギリまで、ここで金属音を響かせていた。その様子は勤勉というより、執念といったほうが当たっているような気がする。

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 長嶋万記の調整も長かった。長嶋は整備室奥の調整室が定位置で、10Rを終えてペラ室に直行すると、間に静岡の先輩たちの艇番艇旗準備を挟んで、やはり12R締切間際まで調整を続けた。ペラ調整を切り上げるタイミングで、11Rを走った菊地孝平がモーター格納作業を始めている。ふたりは自然と会話を始め、菊地のアドバイスに長嶋が聞き入る、という状況になったようだった。菊地がモーターを格納し、肩を並べて整備室を出ると、控室へと歩きながらも会話は続いた。菊地は身振りも示しながら、長嶋に言葉を投げかけていた。控室は競技棟2階だが、階段の5mほど手前でふたりは立ち止まって、さらに会話が続いた。その眺めの会話で紡ぎ出された言葉の数々は、長嶋にとってはレーサーとしての自分、あるいはメンタルの調整作業になったことだろう。

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 毒島誠も12R締切ギリギリまでペラを叩いた一人。10R1号艇をモノにできなかったのは、やはり許しがたい出来事だっただろう。やはりこの調整にも執念を感じるわけだが、今日からピット入りしたJLC解説者の青山登さんは「ブスはまだまだなんだよ」となかなか手厳しいことを言う。「まだグランプリ獲ってないんだから!」と、えらく高いハードルを課しているのだ。

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 その直後、青山さんは関浩哉を捕まえて、“お説教”を始めている。遠目で見ると、おっかないオジサンが若い子をイジメている様子にしか見えないわけだが(笑)、関は直立不動で大先輩の言葉に聞き入っていた。最近ファンになった方のために念のために説明しておくと、青山さんは現役時代は群馬支部。なにしろまあ、群馬の後輩にはなんとも厳しくて、15年グランプリで山崎智也が逃げ切り、毒島が2着でゴールした瞬間、「ダメだ、智也はぜんぜん仕上がってねえ」と宣ったほどなのだ。仕上がってようがなかろうが、優勝したんだから関係ないじゃん(笑)。これは実のところ後輩がグランプリでワンツーを決めたことへの照れ隠しであって、群馬支部の後輩が大好きなのだ。というわけで、関くんにはうざったいかもしれませんが(笑)、ようするに愛されているのである。それはきっとレーサー・関浩哉はパワーアップさせることだろう。

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 11Rで峰竜太がまくり差し快勝。田中信一郎と濱野谷憲吾にイジられまくっていた(笑)。田中としては会心のまくりが差された悔しさもあっただろうし、濱野谷はマークしたのにあっさり先に行かれてしまったという感じか。二人にイジられて、「アハハハハハ!」とのけぞって笑う峰。充実感が全身からあふれている。まあ、イジられるのはそれが峰竜太の愛すべき人柄ということだろう。

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 12R、出走待機室のモニターを窓越しに見ていたら、篠崎仁志がすーっと隣に立った。1マーク、篠崎が声をあげる。「うそーっ!? よしっ、受け止めた!」。瓜生正義がインから逃げ、今垣光太郎がツケマイを放った瞬間だ。なかなか強烈だった今垣のツケマイに肝を冷やしながら、瓜生先輩が先頭に立って安堵したというわけだ。ところが瓜生は2マークでまさかのターンミス。「うあっ! 2杯に差されたか!?」、篠崎が悲鳴をあげる。最終的に山田康二には競り勝って2着だったが、今垣に逆転を許してしまった。篠崎はそっと溜息をついて、エンジン吊りに向かった。

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 ピットに戻ってきた瓜生はさすがに悔しそうだった。今垣に声をかけられても反応が薄かったように見えたのは気のせいか。まさに瓜生もハンドルの誤り、といった2着。この借りは明日の勝負駆けで返すしかない!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)