大差とハナ差
12R優勝戦
①松尾 拓(三重) 17
②竹井奈美(福岡) 16
③吉川貴仁(三重) 20
④塩崎桐加(三重) 19
⑤大瀧明日香(愛知)15
⑥澤田尚也(滋賀) 15
「吉川がまくって3-5ぢゃあ」
発売〆切直後、スタンドの喫煙エリアでたばこをふかしていた4人のオッサンたちの会話。
「おぉ、ワシも3-5-6にこってり入れたわ」
「ワシゃ3-5-1」
「そんなん絞れんから3-5からぜんっぶ流したわ」
「なんや、考えることはみんな一緒やなぁ」
一同「ギャハハハ」
「ほんで、1-2-3か1-3-2で決まるんや」
一同「ギャハハハハハハ」
同じ舟券を握りしめている私も、バレないように笑った。
「ヨシカワーーー!!」
ファンファーレ~ピットアウトに入ると、今度は前列でかぶり付きの若者が叫ぶ。
「引け引け引けーーー」
この声は、あちこちから。このレースのキーマンは、やはり3カドがありえる吉川なのだ。
が、9R後の特訓でもスタート展示でも本番でも、同県の先輩・塩崎がそれを許さなかった。ギリギリの時間まで圧力をかけ続け、3カドの余力を奪ってから自身は舳先を翻した。極めて穏やかな123/456の枠なり3対3。こうなれば、吉川62号機のパンチ力は半減する。さらにスタートもわずかだが凹む隊形となった。
1マークの手前では吉川が伸び返してほぼ横一線。大本命の松尾が悠然とターンマークを先取りし、2コース竹井の差しを寄せつけずに出口で独走態勢に持ち込んだ。個人戦ファイナルとしてのレース回顧はここで終わってもいいくらいだろう。
節間を通じて、松尾の強さが際立ったシリーズだった。デビューから通算8度目の優勝。やまと学校の時代から114期の超エリートとして卒業記念レースの頂点に立ち、プロレーサーとしても着実に強くなり、今や記念常連になりつつある秀才の優勝。当欄で年に二度ほど使う常套句「この優勝はこの男(女子)にとって単なる通過点」が、まんま当てはまる優勝だった。個人戦の主役としては。
だがしかし、このレースはまだまだ終わらない。「ここで多くの着順ポイントを稼いだ方が優勝」という団体戦の最終決戦は、凄まじいデッドヒートとなった。白組団長の松尾がぶっちぎって10点確保。以下、2番手の竹井が8点、3番手の吉川が6点、4番手の塩崎が4点、5番手の大瀧が2点、シンガリの澤田が1点……枠番通りに並んだ隊形は、そのままだったら白組が17点vs14点で快勝。同時に初日からの団体ポイントでも紅組を追い抜いて「W優勝」となる。
ところがどっこい、紅組の団長・塩崎が2周目から鬼気迫るターンで吉川を追い詰めはじめた。3艇身差から2艇身、1艇身……吉川と塩崎の着順が入れ替われば、紅組が16点-15点差でこのレースの勝者=団体戦優勝。おそらく団長としてソレを把握していたであろう塩崎は、最終ターンマークでも乾坤一擲の差しハンドルをブッ差した。
届けば紅組、届かなければ白組。
その凄まじい差しはキッチリ吉川を捕えきったかに見えたが、出口からグングン伸びる62号機がハナ差だけ交わしてゴールを通過した。個人戦としては123456と恐ろしく順当なレースだったが、今節の団体戦は6日間72レースの最後のゴール判定まで白黒(紅白)のつかない“名勝負”だったわけだ。
紅組32-36白組
初日から常にリードを奪い続けた紅組は、最後の最後に逆転負けを喫した。ハナ差で。黒須田の話では、最後の激闘はピットでも大いに盛り上がったらしい。こうして、選手の間で「団体戦」という不思議なカテゴリが徐々に浸透してゆくのだろう。
一方、スタンドの観衆たちの中で、「ハナ差の激闘」を団体戦とともに語る人にはついぞ出会えなかった。最後の3着争いに熱狂したファンは多々存在したが、間違いなく自身の舟券の末路に一喜一憂しているのみだった。そりゃそうだ。団体戦の結果より、自分の舟券が百倍も万倍も大事に決まっている。
この企画シリーズのジレンマのようなものを今日もスタンドで感じた私だが、それでも個人的には楽しい6日間だった。男女が3対3に分かれる団体ブロック戦は、回を重ねるたびに私の脳裏にさまざまな妄想と舟券攻略法を抱かせる。何か必勝法らしきものが編み出せるのではないか、と本気で思ったりもした。
視点を変えれば、無名だけど有望なルーキーたちを全国発売でフューチャーするのも将来的な“利益”になるだろう。全国のファンがどれだけ「団体戦」に注目するかは相変わらず未知数だが、今後も続けて行く価値があるとは思っている。第4回大会の個人的感想をふたつほど挙げておこう。
★何より団体ブロック戦での「紅組シード」(①②③枠)と「白組シード」の番組数がガチンコ一緒だったのは嬉しい限り。これまでは紅組の枠番が圧倒的に有利だったから、この「ノーシード」の意味はでかい。次の目標は「男女のレベル(級、勝率など)較差もガチで均等にする」だが、これはかなり難しい課題だと思っている。
★事故がありえないほど多発した。大きな要因は強風だと思うのだが、あるいは団体戦の影響(選手のモチベーションの差など)があった可能性もある。次回大会に向けて、そのあたりの調査、分析をするべきかも?
あ、最後の最後に、来たる4月当地のマスターズチャンピオンに向けて、今節の私なりのパワー鑑定を忘れないようにまとめておきたい。A級以上の評価はコチラ。
★★★吉川貴仁62号機…S【出A・行SS】
★★★金田幸子25号機…S【回SS・行A】
★★大瀧明日香34号機…A+【回SS・直B+】
★★池田明美73号機…A+【出S・直A】
★★福田翔吾30号機…A+【出S・直A】
★★池田紫乃50号機…A+【出A・直S】
★井本昌也54号機…A【出A・直A】
★澤田尚也47号機…A【出A・直A】
★松尾 拓68号機…A【出A・行A】
★竹井奈美67号機…A【出A・直A】
★塩崎桐加18号機…A【出A・直A】
とにかくストレート強烈な62号機は、マスターズまでその鬼足を維持してほしい。シリーズにひとつは必要なんですよ、こーゆーモンスターっぽい輩が! でもって池田紫乃50号機は最近当たりまくっている紫乃流の調整がズバリ炸裂したのかも。今後も噴くかどうか、4月までしっかり見極めたい。(photos/シギー中尾、text/畠山)