BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

秒殺インモンキー

12R
①平高奈菜(香川) 09
②仲谷颯仁(福岡)    11
③櫻本あゆみ(東京)13
④吉田裕平(愛知)   23
⑤長嶋万記(静岡)   23
⑥外崎 悟(埼玉)   21

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 新・女子王国の斬り込み隊長が鮮やかに逃げきった。いやぁ、速かった強かった! 仲谷の差しが届くと見た私の予想を蹴散らした高速モンキーに拍手を送るしかない。
 スリット隊形は↑上記のとおりスロー3騎が圧倒。ゼロ台が期待された裕平はスリット全速を意識しすぎ、外2艇は裕平に呼吸を合わせてしまったか。こうなると1マークは内3艇だけの専売特許。櫻本がツケマイ気味に握り込み、仲谷が得意の差しに構え、平高は唯我独尊のインモンキー。櫻本の攻めは届く気配がなく、昨日の夜から私の脳内を駆け巡った「平高が逃げるか、仲谷が差すか」という一騎打ちの攻防が実現した。
 そして、その勝負はわずか2秒でケリがついた。仲谷の舳先が平高の内に掛かるかと見た瞬間、見事なレース足で平高が2艇身ほど突き抜けていた。もちろんコースの利も大きいが、あの出口からの押し足は今晩の環境にエンジンがフィットした証。現場で特訓などを見ていないので断言はできないけれど、展示タイムや直前情報も含めて昨日より上積みがあった可能性が高い。

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 一方、差しが届かなかった仲谷の足は昨日に比べてどれほどだったか。単にコースの有利不利だけの差だったのか。自室で分からないことをあれこれ詮索しても意味がないので、今日の結論は「ただただ平高が強かった」としておこう。5回目の大会にして、はじめてのレディースの個人優勝、おめでとう!

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 さてさて、「勝ったチームが優勝」というシンプルな条件となった団体戦の行方は、平高が独走し櫻本がガッチリと3番手を取りきった時点で紅組に当確ランプが点った。最終結果は
紅組4524白組
 現実には「最後に取ったもん勝ち」の一発勝負ではあったが、この得点差が今節の両チームの力量にぴったり比例していると見ていいだろう。過去4回と今回の斡旋メンバーで、もっとも大きな違いは「下級層のレベル」だったと思う。デビュー未勝利だった眞島章太は節間2勝など大活躍で白組のポイントに貢献したが、勝率2、3点台の多くのルーキーたちは随所に足を引っ張る形となった。これを踏まえて次の大会ではどんな斡旋が組まれるか、それなりに楽しみにしておくとしよう。
 で、「団体戦」と「個人戦」の共存に対する考え方は、3日目にだらだらと書いたとおり。選手とファンが心の底から団体戦の意識を深めるには、この大会だけは個人戦のシステムを撤廃すべきだと提言しておきたい。

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 最後に、今節の私なりのMVPを勝手に挙げるなら、土屋南しか考えられない。初日から最終日まで「勝ちたい、攻めたい」という強い思いが、まんま100%水面に投影された6日間だった。推奨レースは多々あるがふたつほど。
 まずは初日の9R、イン戦で2コース遠藤の強ツケマイをブロックした南は、櫻本の差しを喰らってバック並走。不利な外だけに2マークは行かせて差す戦法かと思いきや、ターンマークのはるか手前でいきなり握って櫻本を叩き潰してしまった。その初動のありえない早さは、決まり手が「抜き」ではなく「逃げ」だったことでも分かる。ツケマイで敵を沈めて2マーク先取りで「逃げ」。あんな展開で「逃げ」決着になるのは、本当に珍しいと思うぞ。

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 次は2日目の3Rだ。6コースの南はオーソドックスな最内差しが届かずバック4番手。その場合の正攻法は「最内を直進して小回り応戦、展開待ち」としたものだが、南は違った。バック中間から舳先を右に傾けてぐんぐん外へ。はるか大外まで辿り着いた瞬間、握ってぶん回していた。他艇とはまったく違う、とてつもなく大きな放物線。その放物線の最大到達地点は、他の5艇より少なくとも3艇身は後方だった。つまり、この時点では大差の最後方。が、迷いのない握りマイで、しかもほとんどサイドを掛けない全速旋回だったから舟が返る返る! あっという間に船団のど真ん中に辿り着いて3着をもぎ取ってしまった。
 もちろん、戦術的にはかなり邪道かつロスの多い手順だった。これがSGならまったく通用しない奇襲だとも思う。それでも、南が道中で「自分からこう攻めたい!」と決断した瞬間に実行に移し、前日同様の迷いのない早くて速いターンを決行した一連の流れは私の胸に強いインパクトを残した。あのちょっと不思議な放物線の残像は、土屋南の強い気持ちの結露として私の脳裏に留まることだろう。
 この娘、まだまだ強くなる!
 引きこもっている自室の片隅で、そう思わずにはいられない6日間だった。(text/畠山)