遠回りの光陰
12R優勝戦
①篠崎仁志(福岡)12
②徳増秀樹(静岡)10
③守田俊介(滋賀)11
④平本真之(愛知)08
⑤毒島 誠(群馬)12
⑥白井英治(山口)15
新しいSGスターの誕生だ。篠崎仁志。デビューから12年半、32歳でのSG初戴冠は、その才能を踏まえれば「やっと」と言うべきか。やまと学校時代からの周辺の期待、偉大なる兄の存在は、奮起の材料であると同時に常に大きなプレッシャーでもあり続けただろう。今日の勝利はひとつの栄光を掴んだのみならず、12年の間に内面に沈殿したあれやこれやをいっぺんに吹き飛ばすイン逃げだったと思う。おめでとう!
レース自体はSG優勝戦の定番とも呼ぶべき、あっけないほど一方的なレース展開でケリが付いた。穏やかな枠なり3対3からスリットは見事なまでの横一線。ここから大波乱を招く要素があるとすれば4カド平本の伸び足だったが、助走をたっぷり取ったカド受け守田を乗り越える迫力はない(アジャストした分出て行かなかった、と本人談)。
誰もすぐには仕掛けられない隊形の中、インの仁志が悠然と1マークを先取りしたらば、その出口では後続を5艇身ほども千切り捨てていた。昨日の準優はやや危なっかしいターンに見えたが、今日のそれは120点満点! 初動から角度からターンマークを掠めるような旋回からあまりサイドを掛けない出口まで、非の打ちどころのないインモンキーだった。
「天性のターンセンスは、おそらく兄の元志君より上だと思います」
12年半前、やまと学校に取材に行った私に、当時のある教官がこう話してくれた。96期の兄と101期の弟。ともに並外れたエリート訓練生だった。兄・元志のやまとリーグ勝率は8・13。8・48という数字をマークした新田雄史に次ぐ第2位(ちなみに、第4位はついさっき仁志の背中を追い続けた平本真之!)。元志はリーグ最終戦のFが響いてやまとチャンプ決定戦は除外。その名誉も新田に譲っていた。
一方、弟の仁志のリーグ勝率は8・08でトップ。1号艇だったやまとチャンプ決定戦もインからコンマ02まで踏み込み、2着の後藤翔之に大差をつけて圧勝している(ちなみに3着は守屋美穂!)。
まさに甲乙つけがたい才能を誇る篠崎ブラザース。まあ、担当する教官が他の期の有名な先輩レーサーより「才能はコッチが上」と褒めるのは毎年毎期のあるある自慢なのだが(笑)、これを聞いた私は「そりゃ凄そうだな」と瞬時に思ったものだった。
ただ、その教官が直後にこう付け加えたのだ。
「でも、ハートの強さは元志君が上。仁志君が兄を超えるには、技術云々よりソッチを鍛錬しなきゃいけないと思ってます」
なんでだか12年以上が過ぎた今も、この一連のセリフははっきりと覚えている。仁志が卒業した1年半後、兄はSGの舞台に初めて立ち、その2年半後にデビュー6年半でSGの頂点に立った。一方の弟はデビューから6年後にSG初参戦、何度か大きなチャンスを逃し、賞典レースでのFなどで足踏みし(それは兄にもあったが)、やっと今日、その頂点に立った。その経緯の差がそのまま「ハートの差」とは思わないが、ここ一番で勝負強い元志のレースっぷりは、まさに「ハートの強さ」そのものを感じさせた。
「自分は(兄より)ずいぶん遠回りしました」
レース後の記者会見で、仁志は静かな口調でこう言った。確かに遠回りではあったが、ここで何度か書いたように、ひとつの優勝がその選手のハートを根底から変えるケースを我々は何度も目撃している。ちょうど、今日の同じ舞台に立った守田俊介や白井英治のように。遠回りしたからこそ、長く太く強くあり続ける選手たち。12年間の仁志のさまざまな思いも、今日の優勝によって「強さ」へと昇華されるはず。数時間前に圧倒的な逃げを放った仁志の変貌ぶりを、我々はあちこちのビッグレースで目撃することになるだろう。(photos/シギー中尾、text/畠山)