6艇がゴールし、選手たちがエンジン吊りへと向かう。寺田千恵と並んで笑顔を見せながらリフトへと歩いていた堀之内紀代子に、金田幸子が拍手を送った。寺田も肩をぐっと引き寄せる。
11R、レディースチャレンジカップの結果により、暫定12位だった堀之内は正式に12位となった! クイーンズクライマックス初出場だ。おめでとう!
優勝戦でただひとり勝負駆けだった鎌倉涼は、果敢な前付けで4コースまで潜り込んだが、スタートで後手を踏んで5着に敗れた。無念、地元クイーンズクライマックスへの参戦はかなわなかった。ピットへは田口節子と会話を交わしながら戻ってきて、そのまま控室へ。かなり深い起こしとなっての大敗を喫した両者は、やはり冴えない表情を見せているのだった。鎌倉にとっては単なる大敗ではないだけに、意気消沈も仕方ないところである。それでも、着替えを終えてモーター返納に向かう際は、二人で笑みを交わし合う場面もあった。鎌倉は、まぎれもないナイスチャレンジ! 何としても、の意気込みを見せたことには拍手を送るしかないだろう。これをひとつの糧として、前を向いてまた新たな戦いに踏み出してほしい。
レースは、展示では4コースを死守した守屋美穂が5コースカドを選択。スタートを決めて一気に内を叩いていった。しかし、インから好スタートを決めていた高田ひかるの抵抗を浴びつつ、これを振り切っている間に、展示から6コースに回っていた中村桃佳がまくり差し一閃! 見事に突き抜けていった。6コースからのV!
レース後は、どちらかといえば守屋のほうがテンションが高く、2着に敗れはしたものの、戦略がハマったことへの爽快感が生まれていたか。中村のほうはといえば、思いもよらぬ絶好の展開が巡ってきたことで、どこか「アンビリーバブル!」というような表情になっていた。守屋から祝福を受けて二人で笑い合ったが、中村からすれば「守屋さんのおかげです」と言ったところ。たしかに展開的にはそういうことになるが、勝ち筋を的確に突いた中村の技量とスピードがあったから勝てたのである。もっともっと笑ってオッケーですぞ!
進入が動いて、劇的な結末となったレディースチャレンジカップ。大穴決着で、たしかにピットはざわついたのだが、この後にさらなる波乱決着が待っているとは……。
SGの進入は枠なり。展開を動かしたのは4カドの平本真之だ。ゼロ台のスタートを決めて、内を絞めにかかる。グランプリ勝負駆けなのだから、その走りは当然とも言えた。だが、3コースの片岡雅裕をすぐに締め切ることはできず、超えても2コースの石野貴之を超えられない。さらに締めようとして片岡の舳先と自身のモーターが交錯。石野に接触したあと、ボートは明後日の方向にすっ飛んで行った。平本の勝負駆けは、その瞬間に終わった。
ピットに戻った平本は、GP行きが消えたことへの悔恨よりは、他の選手に迷惑をかけてしまったと、懺悔の思いのほうが強いようだった。すぐに前方を歩いていた石野に詫び、片岡にも詫び、素早く着替えを済ませてピットにあらわれた山口剛にも頭を下げた。決定的な被害を与えたわけではない、外枠2艇にも。多少なりともレースの結果に影響を与えたのは否めないが、あのスリット隊形で気が急いて内に向かったことについては、個人的には気持ちはわかる。
そして、この流れは外枠の2人に展開の利を与えたのもたしかなことである。まず、差し込んだのは5コースの篠崎仁志だ。篠崎は2着以上なら、自力でグランプリ当確を手にする。バックで逃げた山口に続いたとき、ほとんどその切符は手に入っていた。だが、舳先を山口に掛けた篠崎は、勝ちに行った! ピットでは、2着でいいぞなんて声もちらほら聞こえてきていたが、篠崎はそれで良しとはしなかったのだ。2マークまで山口と競り、しかし振り切られた瞬間、内をズブズブと差されて4番手に後退。これは結果、篠崎のランクアップを19位で留めるものになってしまった。そう、次点でGP行きが消えた。
レース前、兄の篠崎元志が「仁志は3着ではダメなんですか?」と問うてきた。自力で確定するのはたしかに2着以上。しかし3着でも、外枠勢との兼ね合いでは4着でも18位以内の可能性は残っている。それを話して元志は意を強くしたようにうなずき、しかし2着以上を願う旨を口にしている。それが、いったんは優勝の目があった。元志も熱くなったことだろう。しかし、4着まで後退した。外枠との兼ね合い=深谷知博が先頭を走っている以上、4着ではダメなのだ。レース後、元志にふたたび問われた。仁志は? 19位と告げた瞬間、元志の顔に明らかな落胆が浮かんだ。いちおう「18位は?」「丸野一樹」という会話も交わしたが、それは単なる会話の流れで、仁志が次点に終わったことだけが元志の心を覆ったようだった。
仁志は、ピットにあがった直後も、着替えを終えた後も、モーター返納作業を行なっている間も、悔恨にまみれた表情を隠さなかった。返納を終えたあと、さらに顔を歪めて、最大限に悔しさを発散していた。優勝が見えた。しかし逃した。終わってみれば、GPも逃した。こんなにもツラい敗戦はそうそうない。これだけ悔しい思いをしたのだから、どこかで必ず、この借りは返さなければならない。返してほしい。心からそう願う。
山口と仁志の競り合い、その感激を突いたのは深谷知博だ! 6コースV! なんと、今年のWチャレンジカップは、驚愕のW6コースVだ! 同じ枠番で11Rを戦った愛妻は、勝負を懸けたものの、無念を味わった。その直後に、その借りを返してみせるとは! 深谷もグランプリ勝負駆けだったわけだが、それを優勝という最高のかたちでクリアしてみせた。愛妻のリベンジという意味でも、こんなにも痛快な勝利はそうそうないだろう。
そこばかりを注目されるのは決して本意ではないだろうけど、どうしたってその絡みに目が向いてしまう。夫のSG優勝を現場で目の当たりにした妻、その絡みである。鎌倉はもちろん、凱旋した深谷を出迎えた。深谷がウィニングランから戻って、表彰式に向かう準備を始めると、鎌倉が荷物を片付け始めている。深谷にしても、鎌倉にしても、こんな時間を過ごせるのはやはり格別だったはず。そりゃあ、一緒にウイニングランを走り、一緒に表彰式のステージに立つのが最高だったに決まっているけど、愛妻の憂さを晴らすような劇的Vは二人にとって特別なものになったに違いない。
深谷はこれでトライアル2ndからの登場を手中にしている。一昨年のグランプリもやはり2ndから出場して、しかしファイナルには駒を進められなかった。今年こそは、の思いは強いはずだ。舞台は、SG初優勝を果たした大村!(20年ダービー)思い出の水面で、黄金のヘルメット獲りに挑む。グランプリはわずか2週間後の開催だ。この勢いは見逃せないだろう。
SGもGⅡも、あまりにもドラマチックな結末となった令和4年のスーパー勝負駆け。その熱を保ったまま、ボートレースは大一番へと向かっていく。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)