BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――完勝!

f:id:boatrace-g-report:20200830220212j:plain

「完璧なターンされたっ!」
 ピットに戻った菊地孝平の第一声である。天を仰ぎながら、もちろん報道陣に聞かせる意味もあっただろう、菊地は悔しそうに寺田祥の完勝ぶりを表現した。すなわち完敗。カメラを向けたこちらに、こんな表情を見せた菊地。悔しい、しかし寺田にあれだけのレースをされたら負けても仕方ない。完敗だが、真っ向から戦ったのだ。それが菊地に高揚感をもたらしているようであった。

f:id:boatrace-g-report:20200830220259j:plain

 寺田はゆっくりと時間をかけてウィニングランをしているが、その間、菊地と新田雄史はメダル授与式を待つことになっていた。戻ってきた寺田を、菊地は「完璧だった。あんなターンできるなんて」と、少しばかりの悔しさを滲ませながら称えている。そして、「早く(授与式)やるよ」と急がせる(笑)。新田も「巻いてもらっていいっすか! もっと握って握って!」と急かしていた(笑)。これも敗者たる彼らなりの祝福であろう。もっとも新田のレース後の表情は、かなり険しかった。がっくりと俯く場面もあった。足的には勝てるものだっただけに、ピット離れで寺田を出し抜きかけたことも含めて、あと一歩だったという巨大な悔恨を味わっていたように見えた。

f:id:boatrace-g-report:20200830220349j:plain

f:id:boatrace-g-report:20200830220431j:plain

 そう、寺田祥は完勝だった! だから、結果的に大きな着となったダッシュ勢は、菊地や新田と比べて淡々としているように見えた。外コースからは手も足も出なかった、ということだろう。もちろん懸命に戦ったが、寺田の背中は遠かった。それが、市橋卓士や吉川元浩の表情を落ち着かせたのかもしれない。

f:id:boatrace-g-report:20200830220508j:plain

 ただ、白井英治はどうだったか。盟友が優勝したことは祝福すべきことだし、かなり時間が経ったあとには笑顔も見えている。ただ、ピット内で行なわれた表彰式に、谷村一哉と原田篤志の姿はあったのに、白井は見つからなかった。まあかなり深読みの類いに近くなってしまうが、そこは顔を出せない感情がやはりあったのかも。下関は白井にとって、純地元。もちろん、2年前の徳山グラチャンでSG制覇を果たしたことも、嬉しい嬉しい地元Vだったが、下関で勝ちたいという思いはかなり強かったはずだ。

f:id:boatrace-g-report:20200830220541j:plain

 そう、2年前のグラチャンと結果は“テレコ”になったのだ。寺田の純ホームは徳山。そこでSG制覇を果たしたのが白井英治。白井の純ホームは下関。そこでSG制覇を果たしたのが寺田祥。1期違いの、もはや親友とも言えるはずの二人が、相手の純地元でSG制覇を果たした。

f:id:boatrace-g-report:20200830220612j:plain

 ただ、徳山だろうが下関だろうが、地元であることには変わりはない。なにしろ徳山グラチャンを制した後、白井は号泣しているのだ。待ちに待ちに待ちに待ちに待ったSG初制覇ではぐっとこらえていた涙を、地元SG制覇では止められなかったのである。というわけで、今日はテラショーが泣くかもしれないな、とちょっとした期待(笑)をしていたのだが、そういうキャラではないというか、クールに喜びを噛み締めていた。まあ、写真のようなポーズを作るあたり、実際は相当にテンションが上がっていたものと思われる。それを派手に出さないのがテラショースタイルということだ。

f:id:boatrace-g-report:20200830220638j:plain

 会見で印象的だったのは、「今年は徳山周年(1月)と今回しかやれていない。たいした成績を残せていない。この優勝で、さらに頑張らなければという気持ちになっている」という言葉を力強く吐いたことだ。たしかに今回は完勝で、しかも準パーフェクトのぶっちぎりV。それを強い気持ちで成し遂げたのは確かだが、いざ振り返ってみると、これで賞金ランク4位に浮上したことにふさわしい成績を残せていないという反省が浮かんでくるわけだ。もちろん、グランプリに6位以内で出場ということが視野に入ってきたことも含めて、ここからが勝負どころと寺田はさらに気持ちを引き締めたのである。

f:id:boatrace-g-report:20200830220719j:plain

 さあ、そんな寺田がこの秋から冬にかけて、いったい何を見せてくれるだろうか。ちなみに3年前のメモリアルを制した後にはGⅠを優勝して、グランプリはトライアル2ndからの登場となっている。さらに気合を心に仕込んだ今年は、さらに躍動する秋から冬になるかもしれない。前回のメモリアルVも今回も準パーフェクトV(2号艇で2着だったのもまったく同じ)と爆発的な勝ち方を見せる寺田だ。ネクストインパクトがどんなものになるか、楽しみにしていよう。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)