花火
12R優勝戦
①寺田 祥(山口)10
②新田雄史(三重)10
③菊地孝平(静岡)11
④市橋卓士(徳島)17
⑤白井英治(山口)22
⑥吉川元浩(兵庫)18
舟券〆切の3分前、4階の記者席から西スタンドの屋外に出た瞬間、ハッと息を呑んで立ち止まった。
人、人、人。
それは、私の目にひどく異様な光景として映った。ここ半年ほど、ビッグレース優勝戦の“観客”は私を含めて数人(記者やカメラマン)しかいなかった。だだっ広いスタンドに私ひとり、ということもあった。春先、初めてその状況に出くわしたときは、今日よりももっと不思議な感覚に襲われた。近未来のSF映画の主人公が、人類が滅亡したパラレルワールドに紛れ込んだような……だから、眼前を疾駆するファイナリストの6艇は現実味が乏しく、何かしらの映像を観ているようだった。
たったひとりのSGファイナル鑑賞。
それはとても贅沢な感覚であり、誰かしらに申し訳なくもあり、同時にひどく孤独だった。
そう、半年の間に、私はそんなSFチックなパラレルワールドの住人として“慣れてしまった”のだ。
人・人・人。
立ち止まって、180度の周辺を見回す。人数限定とはいえMAX2000人。GIの優勝戦くらいの賑やかさで、老若男女が会話をしたり水面を見たりスマホをいじったりしている。パラレルワールドの住人が突然、かつての日常へとタイムスリップしたら、やはりしばらくは立ち止まって周囲を見回すだろう。「有観客レース」をうっかり忘れていた私は、チグハグな感覚のまま観衆の中に入り込んだ。
ファンファーレが鳴って、自然発生的に拍手が沸き上がる。
「テラダーーーッ!!」
「エイジーーーー!!」
あちこちから聞こえる歓声。
ひどく異様と思えたその空間が、徐々に鮮明な色合いを帯びはじめ、どんどん懐かしい感覚へと変わっていく。
SGの優勝戦に、たくさんの観衆がいる!
12秒針が回って歓声、内3艇が横並びの隊形でスリットを通過してまた歓声。寺田がしっかり逃げて、さらなる大歓声!! この瞬間、ここ数年で私なりにいちばん大枚を叩いた舟券は紙屑になったのだが、今日はさほど悔しいという気持ちにはならない。
菊地、新田、市橋の熾烈な2・3着争いに、スタンド中が熱狂している。一喜一憂しながら何事を叫んでいる。最終ターンマーク、新田が追いすがる市橋をギリギリ振り払って大歓声。準パーフェクトVでゴールを通過した直後の寺田のガッツポーズに、拍手、万歳、「おめでとーー!!」の絶叫。
今日の客は地元限定だから、そのあたりのリアクションにはまったくブレがない。これまでも、無観客のスタンドの前で多くの勝者がガッツポーズを繰り出したが、それはやはり私に違和感や申し訳なさを感じさせたものだ。今日は、違う。
嗚呼、寺ショーが勝って良かった。
思い思いに寺田を祝福する人々に囲まれて、そんなことを思う。そして、こう思った。
まだ完全じゃないけど、俺たちのボートレースがやっと帰ってきた!
下関の上空に花火が打ちあがる。客がいるからこその花火。「わあっ」という歓声とともに、人々が一斉に空を見上げる。赤や青や黄色や緑や橙色が、鮮やかに私の網膜に飛び込んできた。(photos/チャーリー池上、text/畠山)