9R 一世一代の
地元優出チャレンジの先鋒は谷村一哉。しかし、4カド湯川浩司がスリット後に伸びていき、この攻めを真っ先に受けるかたちになってしまい万事休す。優出は果たせなかった。うなだれて戻ってくる、といった感じではなかったけれども、無念がなかったはずがない。この鬱憤はまず明日の1Rで晴らしたいところだ。
勝ったのは菊地孝平。湯川の青いカポックも見えていたようだが、冷静に先に回って押し切った。エンジン吊りの際も、控室に戻る際も、仲間と声を掛け合って、テンションが高くなっているところを見せていた。先に書いてしまうと、今日はイン12連勝なので、結果的に優勝戦は3号艇。内の2人の仕上がりがかなりのものなので、攻略するのはそう簡単ではない(足も、グラチャン=優勝戦3着のときのほうが良かった、と)。それでも、IQレーサーの異名をとる男が、手をこまねいているはずがないだろうと思う。どんな戦略で優勝戦に臨むか、注目したい。
2着は市橋卓士。5年前のメモリアル以来、2度目のSG優出となった。そのメモリアルは3周2マークで転覆。ゴールできずに終わってしまっている。そのリベンジというか、悪い思い出を払拭したいというか、そんな思いはもちろんあるようだ。
それよりも、記者会見で口にした言葉には、ちょっと驚いてしまった。「40歳にもなったし、一発勝負というターンをしたい」もなかなか強い言葉だったのだが、「ボート人生を懸ける、と言ったら大袈裟ですけど、一世一代の勝負をしたいですね」はかなり強烈な決意表明だ。2着であがってきても淡々とした様子だった市橋が、ここまでの巨大な思いを抱いているという、そのギャップにも驚いた。市橋のなかでどんな思いが渦巻いているかまではわからなかったが、明日の気合の入り方は地元SGVに燃える男たちと同等のものと言える。彼の「一世一代」がどんな形に結実するか、しかと見届けさせてもらおう。
10R 持って歩きたい
地元優出チャレンジの中堅は白井英治。谷村同様、下関は純ホームと言えるプールだけに、何としてもの思いはあっただろう。会見でも「初めて下関SGで優勝戦に乗れたのが嬉しい」と口にしている。そう、白井は2着で優出。隣にエース機・石渡鉄兵がいたが、冷静に差してファイナル行きを決めた。
ただ、レース後にヘルメットを脱ぐと、出てきたのはしかめ面。やはり1着で行けなかったのが悔しい? いや、白井のレース後というのはこの表情が多いのであって、時には1着でも変わらなかったりする。その瞬間は、ただレースを反芻しているということだろうか。同時に、「優勝戦では(足色は)目立つことはないでしょうね」という仕上がりに思いを馳せていたか。下関SGの優勝戦だけに、このままでは面白くないという思いをさらに強めていた可能性はある。
一方、勝った新田雄史は「持って歩きたいくらいモーター」と相棒を評した。これは最高峰級の評価と言えるだろう。特に強いのは出足、行き足。まさに新田らしい仕上がりであって、常にこのモーターで走れたら、という思いが浮かぶのは自然なことでもある。まあ、他の場でも同じ噴き方をするかどうかは別ですが(笑)。それでも、新田にとってかなり満足のいく足になっているのは間違いない。
ちなみに、この仕上がりになったのは初日の後半、逃げ切り勝ちを収めたときだという。その感触に、「これは優勝戦に乗れると思ってました」とまで言うのだから、とてつもない相棒と出会っていたのである。優勝戦で、地元勢の脅威となるのは、やはりまずこの男だろう。
11R 地元V王手
地元優出チャレンジの大将は寺田祥。まあ、あの超抜パワーで予選トップの1号艇だから、もし飛んだとしたら事件と言えた。もちろん、きっちり逃げ切り。2コースの吉川元浩は「上を行こうと思ったけど、寺田がふところを開けていたので差しにいった」と会見で言っていて、付け入るスキがなかったわけではなさそうだが、しかしそれを補って余りあるパワーと気合で逃げ切ってみせた。これで地元SG制覇に王手! 仕上がりからすれば、優勝の可能性はかなり高いだろう。
控室に戻ろうとする寺田を、菊地孝平が祝福。別れ際に菊地がかけた言葉が「明日は簡単に逃がさないぞ」と聞こえたのだが、果たして(規制線の外側ではハッキリと聞き取りづらいのです)。そうした牽制(?)なども受け止めつつ、3年ぶりのSG制覇へと爆走する。
2着は吉川元浩。吉川もかなりの仕上がりだが、なにしろオール①-②で決着した準優勝戦、吉川は6号艇である。5号艇に地元がいて、4号艇に一世一代の勝負と燃える男がいて、吉川本人も第一感は「動いても誰も入れてくれないでしょうから……」となるわけである。今夜、また明日の午前中なども作戦に思いを至らすことになるであろうが、どんな答えを出してくるか。それによって、展開も変わってくるだろう。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)