BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――【シリーズ】後輩への強烈なエール

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 よーしっ! 太い声があがり、その主を探すと、プロペラ調整室にいた井口佳典だった。室内のモニターを見上げ、熱視線を送る。坂口周のまくり差しが先マイした池田浩二のふところに届いた瞬間のことだ。しかし、2マークで井口は声をあげられなくなってしまう。差して残した深川真二が、2マークを先マイ。決着はついた。そのとき、今度は「佐賀佐賀じゃ!」と嬉しそうな声が聞こえてくる。最終日ということで足を運んでいた選手会長の上瀧和則だ。言わずと知れた佐賀支部の重鎮。かわいい後輩がまずシリーズで優勝を確実にし、グランプリでは最有力なポジションにいる。会長の立場としては、すべての選手を労い、エールを送りたいところだろうが、やはり同支部の後輩に肩入れしてしまって当然。それから上瀧は目を細め、無言で対岸のモニターを見つめていた。

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 グランプリシリーズを制したのは深川真二だ! 12R1号艇の後輩に最高のかたちでバトンを渡すV。いや、その後輩は先輩の優勝を見て「これは負けられない」と逆にプレッシャーになったそうだが(笑)、展示ピットで戦況を見つめていた後輩に、深川は先頭ゴールの背中をしかと見せつけた。

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 上瀧会長が喜んだように、上野もまた嬉しそうだったし、九州地区の仲間たちも笑顔で深川を迎えている。ただし、深川自身は微笑みをたたえるのみで、比較的淡々とピットに帰還している。カメラマンたちの前に立たされ優勝者撮影のときも、ガッツポーズをカメラマンに促されるほど。あ、これでいいの? そんな感じで右手をあげた深川は、どこか照れ臭そうでもあり、つまりSG制覇の高揚感はどこにも見当たらないのだった。

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 かつて深川はBOATBoyのインタビューにこう答えている。「SGだからとか一般戦だからとか関係ない。目の前のレースでとにかく勝ちたい。その思いはどんなレースでも差がない」。つまり、今日勝ったレースはたまたまグランプリシリーズの優勝戦だったのであって、それが一般戦の第1Rでも振る舞いはそうは変わらなかっただろう、ということだ。表彰式では「99回目の優勝」と聞かされ、へえ~、という顔をしていたように、そういうことへのこだわりも興味もない。ただただ、走るレースで勝ちたい、そのために全力を尽くす。深川真二はそういう男だ。
 それにしても、SG2Vがともに平和島とは、なんたる好相性。というか、内が決して強いとは言えない水面なのに、内寄り志向の深川が強さを見せつけまくっているのだ。まあ、深川としてはそれも「相性いいっすね」くらいなものなのだろうが、次に平和島に参戦するのがおおいに楽しみである。

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 ピットに戻った深川に、坂口周がよろめくように抱き着いた。まくり差しが届いたとき、後輩の井口と同様に勝利を予感したはずだ。しかし深川に捌かれ準Vまで。その抱き着き方は、深川さんまいりました、というものに見えた。だからだろうか、深川はすぐに「ごめんねー」と言っている。そこで坂口は、おめでとうございます、と絞り出したわけだが、手の届きかけたSGタイトルをかっさらった男の強さをも思い知っただろう。ともかく、坂口もナイスファイトだった!

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 最も悔しがったのは池田浩二だ。1号艇だから当たり前ではある。ピットに上がってから、何度首を捻ったことか。深川と挨拶を交わし合いながらも、さらに首を捻っていた。上瀧会長に労われて、池田は「フライングが利いてる!」と大声で吐き捨てた。スタートタイミングはコンマ18。コンマ12の深川にのぞかれたことで、やや強引な先マイとなって差し場を提供した。F持ちだったことが、池田の勝負勘を狂わせたということか。もっとも、池田にとって本当に狙うべきは12Rのほうだ。その後悔を大きな刺激として、2021年は最強戦士の真髄を見せつけてもらいたい。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)