膨張する天才
12R優勝戦
①浜田亜理沙(埼玉) 17
②吉川貴仁(三重) 10
③堀之内紀代子(岡山)03
④畑田汰一(埼玉) 09
⑤井上忠政(大阪) 19
⑥出口舞有子(愛知) 17
11R終了時点で「団体戦=紅組優勝」が確定してしまったファイナル。つまりは6戦士が何の制約も受けないガチの個人バトルは、華やかな空中戦となった。
引き金は、節イチパワー間違いなしの亜理沙47のスタート遅れ。戦前からたったひとつだけ不安視していた課題が、現実のものとなってしまった。
実際には「遅れた」と言うほどのタイミングではなかったが、外の3艇の踏み込みが素晴らしい。浜田も起こしのタイミングはしっかりしていたので、放り放りになってしまったのだろう。噴き過ぎるが故のジレンマ。
3コースから半艇身ほど突出した堀之内が仕掛け、それをブロックする形で吉川が連日のまくり攻勢。伸び返しが遅れた浜田は、47号機のパワーを生かしきれないまま引き波に沈んだ。
嗚呼、今日も『ミスター紅白戦』の一撃まくり!?
思った瞬間、外からとてつもないスピードで何者かが艇団のど真ん中を切り裂いた。天才・畑田汰一!! リアルタイムの肉眼では本当に降って湧いたような突出だった(浜田にロックオンしていたせいもある)から、それが畑田であることに気づくのに何秒かを要した。
スリット裏で勝者が決まり、その後続は丸ごと2周の大混戦。これで「勝ったチームが団体戦V」という状況であれば、ピットの選手たちも団体戦を楽しんでいるファンもさぞや盛り上がったことだろう。
そして、この大接戦の中で驚かされたのは、やはり亜理沙47の鬼足だった。まくられてバック最後方に喘いでいたはずなのに、前を抜いて抜いて最後は3着に! その鬼足で抜き去った敵のひとりは、バッサリまくられた吉川だった。恐るべきパワー差。今後もとこなめの舟券を買う方は、とにもかくにも47号機という“優駿”を記憶していただきたい。
それにしても、どんな初動で、どんな角度で、どんなスピードであの若者は瞬時に突き抜けてきたのか……。
レース後、対岸のモニターでリプレイを待っていたらば、とある若者に声をかけられた。
「あの、昨日ここで“天才”とか“土下座”とか騒いでいた者です」(昨日の記事参照)
やや、これは勝手にやり取りを書いてしまって叱られるのか、と思ったが、そうではなかった。
「昨日、書いてくれたのは僕たちのことですよね。ありがとうございます。土下座するって言ってたヤツは今日は来れなかったんですけど、『次の機会に必ず天才・畑田クン土下座しますって、シュー長に伝えてくれ』って言ってました」
「ああ、はい」
などと会話をしているうちに、優勝戦のリプレイが始まった。畑田は私が予想していた堀之内マークの差しではなく、Wで握った吉川×堀之内の狭い間隙に舳先を突き刺していた。凄まじいスピードで!
「うわ、あそこか、すっげえ」
思わず叫ぶと、若者もうんうん頷いた。
「あそこだったんですね、あんな凄いスピードで、あんなところを……この前の戸田の優勝戦もそうでしたけど、ちょっとモノが違いますね」
「とりあえず、120期代では抜けてるかも。来年くらいにはSGに出れそうなターンだよねぇ」
「はい、そして5年後までには獲っちゃうと思います」
「ホントに天才、かも」
「はい、これからも天才・畑田を追っかけます!」
周囲の仲間たちも嬉しそうに頷いている。
去年の5月に水神祭を遂げてから、はや4V目。畑田汰一の名は優勝とともに全国のファンに浸透し、一般戦とは言え全国ファンの耳目を集めるこの大会でスターダムに上り詰めた。特に、若いファンのハートを鷲掴みにした。ほんの一事で決めつけるのは早計に過ぎるが、そんな空気をとこなめのスタンドの片隅で感じた次第だ。うん、昨日と同じ〆のセリフになってしまうが、今日も、いや今日だからこそ書かねばなるまい。
天才・畑田汰一22歳、後生畏るべし。(photos/チャーリー池上、text/畠山)
※団体戦の最終結果
紅組47-22白組