BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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W優勝戦 私的回顧

女王道

11R優勝戦 並び順
①遠藤エミ(滋賀) 11
②平山智加(香川)  14
③西村美智子(香川)12
④鎌倉 涼(大阪)  21
⑥大山千広(福岡)  21
⑤細川裕子(愛知)  27

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 ピットアウト直後に⑤大山と⑥細川がツルリと入れ替わった瞬間、眼前の青年が素っ頓狂な声で叫んだ。
「えええっ!? そりゃないよ、そりゃないって、終わた~~~~~!!」
 うむ、青年よ、①-⑤の舟券をしこたま買っていた私も、まったく同じ心境だったぞ(号泣)。

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 青年と私にとって激痛のコース交替も、1号艇の遠藤にとっては辺境地のささやかな出来事に過ぎなかった。指定席のインから堂々のトップスタート、ターンマークを舐めるような絶品ターン、出口から鬼のように突き放すレース足……5日間の予選トップ君臨も含めて、「遠藤エミのエミによるエミのためのシリーズ」だった。今節も。

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 レディースチャレカが誕生して8年間で7優出4優勝。「この優勝は通過点(または踏み台)に過ぎない」というボキャブラ貧困な私の常套句すら使う気にならない。遠藤ファンに叱られるかも知れないが、「座り慣れたいつもの席に座っただけ」みたいな、本当に図抜けて桁違いの指定席だったなぁ。

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 さて、強い強い勝者が確定しても、チャレカならではの戦いは終わらない。このバトルの水面下、いや水面上では天国と地獄にふるい分けられる残酷な勝負駆けも展開していた。
 鎌倉涼と大山千広で、先着したほうが賞金12位以内=QC確定!
 この明暗を分かつターニングポイントは、あるいはピットアウト直後だったか。細川のバナレ遅れで5コースを奪い取った大山は、スリット同体の内隣・鎌倉にツケマイを浴びせるような早くて速いまくり差しでリードを奪い、1周2マークでも内から追いすがる鎌倉に引き波を浴びせる高速ターンでケリを付けた。予選4日目、崖っぷちでの3コースツケマイも含め、持ち前の勝負強さをフル稼働して地元・福岡の大一番に滑り込み、とお伝えしていいだろう。

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 一方、常に節間成績でリードを保ち続けた鎌倉は、最後の最後に力尽きた。なんの慰めにもならないが、劣勢なパワーでここまで漕ぎつけた実力者に労いの拍手を送りたい。

★クイーンズクライマックス戦士

1遠藤エミ(滋賀)
2平高奈菜(香川)
3守屋美穂(岡山)
4田口節子(岡山)
5渡邉優美(福岡)
6小野生奈(福岡)
7平山智加(香川)
8細川裕子(愛知)
9西村美智子(香川)
10寺田千恵(岡山)
11海野ゆかり(広島)
12大山千広(福岡)

 地元の福岡3人、岡山3人、香川2人……圧倒的な西高東低の12人となったが、人気の盲点になるであろう細川には今日のリベンジも込み込みで大穴を開けてもらうとしよう(笑)。

帰ってきた忍者

12R優勝戦
①辻 栄蔵(広島)10
②瓜生正義(福岡)18
③新田雄史(三重)15
④桐生順平(埼玉)13
⑤中島孝平(福井)13
⑥山口 剛(広島)10

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 忍者・栄蔵が、命からがら16年ぶり3度目のSG戴冠と住之江GPのプラチナチケットを入手した。
 まさに、命からがら。穏やかな枠なり3対3から、コンマ10の絶品スタート。11Rの遠藤よろしくイン逃げ圧勝の展開に見えたものだが、肝心の1マークは握りすぎてダダ流れ。「差してください」的な旋回になってしまった。2005年のGPで艇界の頂点に立った男であっても、それ以来の栄冠はやはり多大なプレッシャーだったか。

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 新田アタマの舟券をしこたま買っていた私の目は、これを「絶好のチャンス!」と捉えた。昨日同様、スリットで少し凹んだ2コースをツケマイ気味に叩けば、そのまま一気に突き抜ける。そう確信したのだが、新田のターンも攻めっ気120%の昨日とはまるで別物だった。2コース瓜生の差しハンドルを確認してから、オーバーラン気味に握り始めたターンは宙を切るような半端なものになってしまった。外に流れた辻と航跡が被って、万事休す。

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 勢い、ぽっかり空いた最内を差した瓜生が先頭に躍り出る。流れた辻がさすがの出足で追いすがるが、届かない。スリット裏で瓜生にもうひと伸びのパワーがあれば、2マークで簡単にケリをつけることができただろう。シリーズ直前の賞金ランク19位から、一気にGPトライアル1stの1号艇まで飛躍する優勝へ。
 だが、その独走を許さない男がいた。いつでもどこでも追撃の手を緩めない桐生だ。4カドから冷静無比な二番差しで、最内からひたひたと瓜生ににじり寄る。それまで辻のブロックに専念していた瓜生は、ターゲットを切り替えて怖い怖い桐生討伐に動いた。このまま辻ブロックに徹し、「桐生を先に行かせて差す」という戦法もあっただろうが、自力で勝ちに行くのが正義という男の真骨頂。

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 ただ、この強攻策は自分も無傷ではいられない。桐生の舳先を封じて2マークを先制した瓜生の艇はやや流れ、そこに動じることなく直進していた辻が、狙い済ました逆転の差しをぶち込んだ。展開の利があったとは言え、さすがのウルトラ捌き巧者。あっという間に両者の体が入れ替わり、ここで辻栄蔵の遠回りの勝利が約束された。

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 忍者が帰ってきた。
 この逆転シーンも込み込みで、私はごく自然にこんな言葉を心の中でつぶやいた。道中で後手を踏んでも人知れず接戦に持ち込み、一瞬の隙を突いて逆転する。そんな妖しい手練れがSGの頂点に、そしてグランプリに帰ってきた。緒戦は、初日トライアルの1号艇。この個性派が暮れの住之江の水面にどんな罠や毒をまき散らすのか、どれほど玄人を唸らせるのか。46歳の忍者の暗躍を楽しみにするとしよう。

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 6人の選手が次々とゴールを通過して、来月の最終ステージに向かう18戦士が決まった。

★グランプリ戦士
1峰 竜太(佐賀)
2平本真之(愛知)
3濱野谷憲吾(東京)
4原田幸哉(愛知)
5桐生順平(埼玉)
6白井英治(山口)
 ―――――
7前本泰和(広島)
8辻 栄蔵(広島)
9毒島 誠(群馬)
10石野貴之(大阪)
11丸野一樹(滋賀)
12瓜生正義(福岡)
13馬場貴也(滋賀)
14菊地孝平(静岡)
15池田浩二(愛知)
16篠崎仁志(福岡)
17新田雄史(三重)
18西山貴浩(福岡)

 今日の1~3着で劇的な変動を魅せたのは辻と瓜生、シード6人に飛び込んだ桐生。ともにグランプリ覇者であることは、単なる偶然では片づけられないだろう。(photos/シギー中尾、text/畠山)