無念の追走
11R
①渡邉優美(福岡)09
②寺田千恵(岡山)15
③小野生奈(福岡)15
④細川裕子(愛知)23
⑤大山千広(福岡)19
⑥平高奈菜(香川)22
トライアル初参戦の優美がビシッとスタートを決めて、一目散に逃げきった。1マークのターン自体は威張れたものではない。緊張と興奮のなせる業か、それとも勝手知ったる生奈先輩の怖い怖いまくりを警戒しすぎたか、握りすぎて大きく外に膨らんだ。
その怖い生奈先輩のまくりは、サイドがまったく掛からず“脱線”。バランスも崩して落水や転覆を回避するのがやっとだった。代わって4コース差しの細川が流れた優美に肉薄したが、スリット裏からグイッとひと伸び舳先を振りきり、嬉しいトライアル初勝利をものにした。今日の優美27号機はストレート足が上積みされていて、それが勝利につながったと見ていいだろう。
惜しかったのは3番手の寺田で、今日も細川を追撃するレース足は鬼レベル。2着でほぼ当確となるテラッチは追って追って、とことん細川を追いつめて、1艇身ほど届かずに3着でゴールを通過した。昨日といい今日といい、52歳の猛追に目を奪われっぱなしだったな。もちろん、明日の順位決定戦でも要注意だし、来年の同じステージにもこの53歳の夜叉は存在していることだろう。
さて、このレースは勝ち負けとは別の争点も見え隠れしていた。ファイナル1号艇争奪戦。主役は平高で「1着ならその時点で確定、2着以下なら12Rの結果待ち」という境遇だったのだが、大山との接戦を制して4着を取りきるのがやっとだった。12Rで、平高の成績を上回る可能性があるのはただひとり。
「5号艇の田口が3着以内なら田口、4着以下なら平高」
という微妙なトップ条件とともに、平高は次のレースを見つめることになった。
勝者と敗者の狭間
12R
①遠藤エミ(滋賀) 16
②平山智加(香川) 21
③海野ゆかり(広島)18
④守屋美穂(岡山) 21
⑤田口節子(岡山) 22
⑥西村美智子(香川)33
ファイナル1号艇争いも重要だが、全国のファンにとっての最大の焦点は「1号艇のエミが3度目の正直で勝ちきれるか」だったはずだ。
今日の遠藤はトップスタートでインコースを突破した。外の5艇はちょっと遅れてほぼ横一線。ゼロ台の早いスタートではなかったものの、ハナを切ってしまえば簡単に負けるレーサーではない。
「おぉ、これなら逃げきれるか!」
記者席の私は、遠藤以外のアタマ舟券をしこたま買っているのに、こんなセリフを口走っていた。穴党としては今日も負けてほしいけれど、最強女子がイン3連発で負ける姿は観たくない。そんな妙な気持とともに。インから圧勝したら、「ああ、やっぱりね」と舟券を破り捨てる覚悟はできていた。
だがしかし、今日もまたエミは敗れた。2コースから差した平山の舳先が突き刺さり、さらには4カド守屋の二番差しもエミの内フトコロをえぐった。守屋アタマの舟券をしこたま買っていた私は今日も脳汁を漏らしたが、それはどこか非日常的な、不思議な光景でもあった。今節の遠藤エミは、なにかしらの歯車が狂っているのだろう。それが単なる機力なのか、精神面なのか、今もまだよくわからない。おそらくエミ自身も謎なのではなかろうか。
裏を返せば、今日の平山25号機の足は凄まじい出来栄えだった。昨日までの私も「4着・5着という成績よりはるかに強力な足」と見立ててはいたが、今日のそれは私の鑑定を圧倒していた。三島敬一郎が戦前から「出足、回り足系が上位級で、引き波にも負けない印象で◎」と高く評価していた25号機が、完全覚醒したということなのだろう。
その自慢の出足、回り足は2マークで先マイした守屋も、外に開いて差した遠藤も寄せつけず力強く前進した。それは、トータル21点でファイナル圏内へと突入する前進でもあった。滑り込みの6号艇だが、もちろん明日も軽視禁物の鬼足と肝に銘じておきたい。
さてさて、もうひとつの焦点であるファイナル1号艇争奪戦は、3着条件の田口が5着に敗れて勝負あった。今日の田口73号機は道中の追い上げがまったく利かなかったから、調整面でズレがあった可能性が高い。追っても追っても引き離されて、明日の平高の1号艇が約束された。
平高56号機の足は6コースから差しきるレベルだから悪いはずもなし。逃げきって当たり前の優良パワーだ。ただ、外に居並ぶのは、この3戦のどこかしらで悔しい思いを滲ませた強敵ばかり。特に、1号艇を獲りきれなかった田口、3戦連続で屈辱的な敗北を喫した遠藤は、強い決意と覚悟をもって明日の決戦に臨むことだろう。それがスタート勝負なのか、大胆な調整なのか……荒れ水面の予報ともども、穴党にとって微かな希望の光が見える最終決戦だと思っている。(photos/シギー中尾、text/畠山)