BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――激烈!

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 女子から。レディースチャレンジカップ優勝戦を迎えた時点で、鎌倉涼と大山千広に逆転クイクラ行きの可能性があった。ワンツー決着なら揃って逆転、そうでなければ先着したほうが逆転して、11位で待っていた海野ゆかりが残る。ということは、1マークで遠藤エミが力強く先マイしたとき、鎌倉と大山の真っ向勝負になったことになる。
 先着したのは、大山。地元の大一番になんとか滑り込みを決めた格好だ。4着という結果もあってか、歓喜をあらわにするわけではなかったが、表情には少しばかり明るさがうかがえる。状況はもちろん知っていたはずなので、安堵の思いはあったかもしれない。

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 一方、鎌倉のほうは、悔恨をあらわにするわけではなかったが、顔つきはカタいように見えた。6着大敗という結果もそうだが、チャレンジが実らなかったことへの複雑な思いが胸中を覆っていたはずだ。来年こそ、という思いが浮かんでくるには、もう少し時間がかかりそうだった。

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 それにしても遠藤の強さといったら! その勝ちっぷりはまさに圧倒。もともと賞金ランクトップで勝負駆けとは無縁であり、またこのタイトル4度目の優勝ということもあるだろうか、レース後にただ穏やかに微笑んでいる姿には、風格すら感じられたのである。レディースチャンピオンに次ぐ女子ビッグタイトル優勝。これで獲得賞金も約5270万円となった。これまで、女子の年間獲得賞金額歴代1位は2001年寺田千恵の6721万5000円。クイーンズクライマックスを優勝したら記録更新だ! 大晦日は、女子ビッグ年間三冠王とレコードがかかる、歴史的一戦となる!

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 グランプリ戦線はやはり10Rから語らねばならないだろう。1着で6位以内が確定する白井英治だ。1着条件といっても6号艇。簡単ではないのは明らかだ。白井が選択したのは前付け策。そしてメイチのスタート!
 トップスタートを決めた白井はまくり一閃。盟友・寺田祥を見事に呑み込んで、1着となった。ベスト6勝負駆け成功!
「これは気合のスタートだったんちゃうの!」
「フライングか!?」
 白井はそう言っておどけたが、フライングならとっくに欠場コールが出てますって。白井が決めたスタートはコンマ04。菊地孝平に言われるまでもなく、気合のスタートだったのだ。あ、そうです。関西弁で話しかけてましたが、最初の言葉は菊地のものです(笑)。
 モーター返納を終えた白井は、「これで6着以内でしょ?」と報道陣に問いかけている。状況をしっかり把握したうえでの、前付け、渾身S、劇的まくり、だったのだ。とにかくお見事! チャレンジカップの醍醐味を見せてくれた一撃だった。

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 で、その直後、新田雄史がやはり報道陣に「これで白井さん6位以内決まり? 俺は優勝しても7位?」と確認しに来ている。白井の結果次第で、新田は優勝で6位以内への浮上の可能性があったのだ。しかし、桐生順平が優勝戦完走で6位以内確定だったので、新田のベスト6入りは白井が先頭ゴールした瞬間に消えた。新田も状況を把握していたのだ。これが新田のモチベーションにどんな変化を与えたのか……。

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 さあ、優勝戦。まずアツかったのは3番手争いだ。3着でベスト18入りの中島孝平がこれに加わっていたのだ。しかし、結果は5着。レース後の中島はいつも通りに淡々としてはいたが、胸に去来する思いは悔恨の色に染められていたと思う。
 中島は、ペナルティでSGを走れない時期があった。2019年のグラチャンを最後にSG戦線離脱。今年のオーシャンからSGに復帰している。ちなみにそのグラチャンは多摩川開催だった。約2年半後、同じ多摩川で中島はグランプリ出場への勝負駆けを戦った。結果は残念ではあったが、来年の本格巻き返しに向けてのいいきっかけにはなったことだろう。

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 辻栄蔵もまた、同じような時期を送った経験がある。2018年クラシックを最後に、SGから離れたのだ。昨年のクラシックでSGに戻ってきたが、走れるSGは限られ、それもあって今年はSGの権利をなかなかつかめず、先月のダービーで再びSGに帰ってきている。そのダービーで優出してチャレンジの出場権を掴み取り、チャレンジ優勝でグランプリ勝負駆け成功! 辻栄蔵が完全に、この最高峰の舞台にカムバックだ!
 一度はSGの舞台から滑り落ち、それは苦しい時期だったはずだ。今に見てろよ、そんな思いにもなったというが、心が折れたとしてもおかしくはなかった。本当ならあの場所にいるはずなのに、そこに行くことができない自分。向き合えば向き合うほど、辛苦ばかりが浮かんできたのではないか。

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 しかし辻は決して下を向かず、自分を信じて走り続けた。SGに戻ったとき、常連として走り続ける強豪たちから「久しぶりだな」と言われ、自分がここにいるべき存在なのだと改めて認識できたことが嬉しかったという。そして、ダービー、チャレンジカップでの猛浮上! 辻はさらに、この場所こそが自分が輝ける場所だとハッキリ自認したはずだ。

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 おめでとう、15年11カ月ぶりのSG優勝! ずいぶんと長いブランクになってしまったけれども、表彰台のど真ん中に立つべき実力者であることも、辻はこのチャレンジカップで自覚しただろうし、満天下に証明もしてみせた。この優勝の重みは、チャレンジカップの優勝盃よりも重い。表彰式で辻は優勝盃を抱えながら重い重いと愚痴っていたけれども(笑)、それよりもあなたが成し遂げたことのほうがずっと重いのです!
 それにしても、今年はベテラン選手の久々の戴冠が続きましたね。もっと頑張れ、若者たち! と尻を叩きつつ、しかし自分と同世代(いや、僕のほうがもう少し上です)の“復活”は嬉しい限りだ。グランプリでも彼らの活躍を楽しみにしています!

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 グランプリ勝負駆けという点では、完走した瓜生正義と新田雄史がベスト18入りを決め、同じく完走の桐生順平がベスト6入りを決めた。完走条件だから、勝負駆けという点では無事にゴールしただけでよかった、ということになるだろうが、この勝負師たちはそれだけで済まないのもたしかだ。特に、1マークでは差しを届かせて、優勝が見えていた瓜生は、露骨に顔を歪ませて、悔しさをあらわにしていた。また、バック最内伸びて逆転を狙った桐生も、対岸のビジョンでリプレイを確認すると、眉間にしわを寄せながら天を仰いだ。そりゃあやっぱり優勝したかったのだ(トライアル初戦の枠番を考えても)。勝負駆けも大事だが、優勝争いももっと大事。この悔しさは住之江の水面に叩きつけてもらいたい。

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 最後に、17位で入りながら逆転を許してしまった佐藤翼と、少しだけ言葉を交わすことができた。「これが今のコレってことです」と佐藤は自らの腕をぽんぽんと叩いた。勝負駆け失敗を、誰のせいにするのでもなく、自らに帰して向き合う佐藤。グランプリに手が届きそうだった、しかし届かなかった、その経験を来年に絶対に活かしてほしい。グランプリの舞台に立つ、佐藤翼を来年見せてほしい! と言ったら、「まだ今年も頑張らなきゃ」と佐藤は笑った。そりゃそうだ。グランプリシリーズで大暴れだ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)