9R、西橋奈未の3コースまくりをイン寺島美里が受け止めて先頭争い。2マークでは内から伸びてきた江藤敦宏を寺島が牽制にいき、その間隙を西橋が突いて先頭に立った。
レース後、寺島と江藤が笑顔で会話を交わす。「気づかないでーって思ったんですけど」と江藤がニッコリ笑う。そう、寺島が西橋との競り合いに気を取られていたのなら、その間に2マーク先マイを仕掛けるつもりだったのだろう。しかし、寺島は気づいちゃった(笑)。内に寄せて江藤を叩くような格好で、両者の競りになったのだ。これが結果、西橋に勝ち筋を与えたのだから、揃って苦笑いというのもよくわかる。
寺島には、エンジン吊りの際に倉持莉々が言葉を掛けていた。右手をボートに見立てて弧を描くように……って、これ、前半の記事では寺島が飯塚響にやって見せていたアクションである。今度は、寺島が受ける形で倉持がアドバイス。おそらく2マークでの航法について、であろう。ここでは、寺島が後輩、倉持が先輩。こうして後輩にはさまざまな知識や技術が受け継がれていく。いずれまた、寺島が後輩に同様の言葉を掛けることもあるだろう。
勝った西橋は、昨日まではやや不完全燃焼のレースが続いた。なんとか追い上げて中間着を手にするレースもあった。今日はその鬱憤を取り払う連勝! レース後はようやく柔らかい表情を見せていたし、安堵している様子も見受けられた。昨年の尼崎大会では、優勝戦でチルト3度を繰り出す気迫を見せた。しかし不発で、しかも道中でルーキーズに抜かれてシンガリ負け。これが結果的にレディースの敗戦を決定づけるものにもなってしまい、レース後に顔をしかめて悔しがり、取材していたこちらにまですみませんと口にしたことをよく覚えている。そのリベンジのためにも、まずは明日の勝負駆けをクリアしたいところ。
10Rが9Rと似たような展開。3コースからまくった安河内健をイン中島秀治が受け止めた格好だ。こちらは中島が最後まで抜かせずに押し切ったが、しかし安河内が執拗に逆転を狙って絡んできている。足的には厳しいと見える中島だけに、道中は安河内の鋭いハンドルが中島を捉えるかにも見えたものだ。というわけで、レース後の中島はまず苦笑い。勝利に胸を撫で下ろす部分はあったとしても、楽ではない勝ち方に複雑な心中となっても不思議ではない。
控室に戻る道中では安河内と肩を並べ、おたがいにおおいに笑い合った。「あぶなかった~」「惜しかった~」といったやり取りであろう。まさに健闘を称え合うといったシーンで、このワンツーがルーキーズのポイントを確定させたわけだから、爽快な笑顔もなるほどと納得。ただ、中島が他の選手に声をかけるために離れると、安河内の顔は一転して険しいものになった。やはり負けたほうとしては、お互い頑張ったね、では済まないのだ。その勝負師然とした雰囲気が、かえって爽快に見えたのだった。
その10R後、控室へと向かう途上、6着に終わってしまった石丸小槙が西村美智子の言葉に熱心に耳を傾けていた。西村は柔らかい表情でありながら、しかし真摯な目つきで石丸に言葉をかけている。並んで歩きながら、競技棟への出入口に達したふたりは、そこで立ち止まってさらに会話を続けた。会話というよりは、西村のアドバイスか。これがかなり長いもので、ほかの10R組はとうにカポックを脱いで控室へと戻ったり装着場へ向かったりと次の動きをしていたというのに、石丸は青の勝負服を着たまま、先輩の言葉をまっすぐな瞳で受け止めていたのである。
西村は昨日から追加参戦。レディースにとって、一昨年のクイーンズクライマックスにも出場したトップレディースの一人がやって来たのは、実に頼もしい援軍を迎えたのだと言えるだろう。同時に、石丸にとっては頼りになる同支部の先輩がやって来たわけだから、彼女のレーサーとしてのスキルアップにおける巨大な援軍でもある。もともと香川支部からは単身参戦だったわけで、西村の追加は最高に心強いはず。西村先輩とほぼマンツーマンで絡めるというのは必ず今後につながるはず。残り3日、西村を笑顔にさせる走りをぜひ見せたいですね。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)