BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――強者たちの勝負駆け

 9Rを終えてあがってきた赤岩善生が、すぐに検査員さんに声をかけ、モーターの確認を願い出た。どこか異変を感じたのか、プラグの防水カバーを開けて、検査員さんとともに覗き込む。さすが、モーターに対して造詣の深い赤岩だけに、違和感を察知するのに長けているし、またその動きも素早い。
 赤岩は通常、レース後に控室に戻ると、次にピットに姿をあらわすまでには時間がかかる。以前、レース後はまずしっかり疲れをとって次の行動に出たほうが効率がいいのだと言っていたことがあった。しかしこのレース後は、すぐさまピットに出てきて、整備室に飛び込んだ。よく見ると、下半身はレース用のスパッツのまま。乗艇着とケブラーを脱いだだけの状態で、とるものもとりあえず、すぐにモーターの点検をしなければいられなかったのだろう。赤岩は準優当確、異常がなければいいのだが……。

 10Rは濱野谷憲吾が5コースまくり差し一閃! 出た、これが憲吾スペシャルだ! 大舞台では久しぶりに見たような気がするぞ。若き日の憲吾はこれで水面を沸かせてきたのだが、マスターズで見られるとはまさに眼福!
 しかし、2マークで内から迫る瓜生正義を叩きに行った分、流れてしまい林美憲に差されてしまう。ピットに戻った濱野谷は、まあ悔しそうな顔。気持ちのいい勝利のはずが一転、最大の悔しさに変ったのだから、表情が崩れて当然。須藤博倫もともに悔しがり、同期の吉川昭男は肩をゆすって励ましている。

 ただ、瓜生を叩いたのは予選道中という意味では正解。9R終了時点で得点率首位だった瓜生に先着したことで、順位が逆転。この時点で濱野谷がトップに立ったのである。まあ、濱野谷にしても瓜生にしても、どこまでそれを把握していたかはわからないが。瓜生は特別悔しそうな振る舞いはしていなかったし。

 ただし、結局のところ、濱野谷は2位に終わっている。11Rで井口佳典が逃げて、濱野谷と瓜生をまとめて抜き去ったのだ。そう、井口が予選トップ! ドリーム快勝の井口が戻るべきところに戻ったという感じか。井口はおそらく、状況を把握していた。ヘルメットをとったときの充実し切った表情といったら! 実に清々しく、また漢っぽい顔つき。優勝へ向けて大きく視界が開けた、そんな様子であった。井口は戦った5名のもとに向かい、直立不動で立ち止まったあと、丁寧に一礼。これは井口のいつも通りの振る舞いだが、そこには心なしか力強さが加わっているように見えたのだった。

 実は10Rを勝った林美憲も同じような表情であった。井口の漢っぽさよりはむしろ、爽快な表情ではあったが。なにしろ1着条件の勝負駆けだったのだ。見事に実らせる勝利に、テンションが上がって当然である。もともと陽気な振る舞いをよく見せている林だが、1着、そして準優出をつかんだのだから格別! いい気分で準優に向かえそうである。

 それにしても素晴らしい勝負駆けを成功させた原田幸哉はお見事! ボーダー6・00に届くには、1着2着が必要だったわけだが、5号艇と3号艇という枠番でそれを達成させたのだから、あざやかな勝負駆けであった。原田は井口のもとにそっと歩み寄って、控えめにグータッチ。井口の「逃げれば1位」も把握していたのだろうし、自身の「2着勝負」もわかっていたのだろう。勝負としては1着と2着に分かれたが、お互いのクリアすべき条件を超えた者同士の祝福合戦であった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)