勝負師VS漢気
'10R 進入順
①赤岩善生(愛知) 03
⑤濱野谷憲吾(東京)09
⑥森高一真(香川) 18
②田村隆信(徳島) 06
③瓜生正義(東京) 15
④茅原悠紀(岡山) 18'
9Rまでにインコース8勝、2コース1勝……内水域の独壇場だった常滑水面に、森高と濱野谷がドカドカ侵入した。地元の赤岩は、もちろん枠番死守。同じく2コース主張もありえた田村は、迷うことなく4カドに引いた。
「一真クン、どーぞどーぞ、お入んなさい。タダじゃ済まさんけどね」
そんな思いだったか。ピットにぶつかりそうなくらい奥の奥まで艇を引っ張った田村は、フルッ被りでスリットを通過した。コンマ06! 瞬く間に森高と濱野谷を叩き潰す。そのままインの赤岩まで呑み込む勢いだったが、スッと減速して赤岩を行かせ、冷静沈着に差し抜けた。
迷わず4カドを選択した決断力、練習(すべてスローの2コース)とはまったく違うコースからコンマ06まで踏み込むクソ度胸、そしてヒートアップしすぎず最善の戦法を選んだクレバーさ。銀河系をデビュー期から引っ張ってきた、これが田村隆信の強さだ。
漢・赤岩も死力を尽くした。スリットは、田村よりさらに早いコンマ03!!!! ここ一番のスタートで後手を踏むこともある赤岩だが、地元ファンの声援が背中を押したことだろう。この決死のスタートが、2着を生んだ。もしもコンマ08くらいに甘んじていたら(それでも十分に早いのだが)、田村は赤岩まで攻め立てたことだろう。一撃の強ツケマイを食らったら、2着どころではなかったはずだ。
さらに赤岩は、ゴールまで瓜生の猛追を浴び続けた。ツケマイ、差し、ツケマイ……的確に放たれる追撃の矢を、ギリギリの間合いで交わし続けた。スリットからゴールまで、身体を張って2着を守り抜いた。
この2着は、あまりにもでかい。赤岩は今日の負けを、深刻に受け止める必要はないだろう。結果論で言うと、赤岩は1着でも明日は3号艇だった。ならば、前付けから4カド攻勢まで多彩な攻め筋がある4号艇も、魅力的ではないか。
1着・田村、2着・赤岩。
クレバーな勝負師と、ひたむきな漢気と。ふたりの持ち味が120%反映されたレースだった。
実戦心理
'11R
①篠崎元志(福岡)12
②井口佳典(三重)14
③池田浩二(愛知)12
④深川真二(佐賀)17
⑤中島孝平(福井)11
⑥山崎智也(群馬)12'
スタート展示は智也が動いて162/345。これで記者席は、俄然盛り上がった。
「本番はどうなっちゃうの、これ?」
「深川が黙って智也を入れるわけがないだろう。146/235か。10Rみたいだな」
「いや、智也はかき回すだけかき回して回り直すって。内が深~い142/356だろ」
やいのやいのと様々な進入隊形が飛び出したが、いざフタを開けてみたら……全員が牽制し合っての、穏やかな枠なりだった。こうなれば、今日の常滑水面は内水域に味方する。スリットもほぼ横一線。篠崎が逃げて、井口が差して、外から届く艇はない。2マーク、最後のお願いで深川が内に切り込んだが、「読み筋」とばかりに井口が激辛の差しを突き刺して、大勢が決した。1-2の準優決着。
智也が本番でも動いてくれたらなあ……。
どんどん縦長になってゆく隊列を見ながら、私はぼんやり考える。もちろん、智也は本番でも動く素振りを見せたのだが、池田、深川、中島の視線はすべて智也に注がれていた(特に深川、ガン見していた)。実戦心理として、あれでは動きにくい。
スタート展示がなくて、一発勝負だったらなぁ……。
心の中で、私は言葉を変えた。
1着・篠崎、2着・井口。
ここで特筆すべきは、篠崎のパワーだろう。「井口の差しが、あるいは入るかも」と見ていたのだが、ターンの出口で一気に突き放した。50号機、20号機に次いで評判が高かった54号機の、底力を完全に引き出した。昨日まで1着のなかった元志だが、今日の仕上がりは昨日までと一味違う。時計も優秀だった。昨日の太田が弾き出した今節のトップ時計に、コンマ1秒まで肉迫する1分47秒2。しかも、回り足からターンの出口が強力なのだから、2コース向きのパワーでもある。この機力と元志ならではの美しい光速モンキーが120%シンクロすれば……コンマ01秒の逆転もありえる。
師弟決着
'12R
①太田和美(奈良) 15
②丸岡正典(奈良) 21
③田中信一郎(大阪)18
④辻 栄蔵(広島) 20
⑤中辻崇人(福岡) 18
⑥湯川浩司(大阪) 17'
こちらは誰もが想定した通りの枠なり3対3。これで太田がトップスタート、やや遅れて他の5選手はほとんどスリット横一線。太田に負けるべき要素はなかった。くるりと回って、優勝戦1号艇が約束された。2番手は接戦。バック中間で丸岡の外から中辻が舳先を並べ、最内から差した湯川と辻がするすると伸びている。
勝負の2マーク。もっとも態勢の有利だった丸岡が、有無を言わせぬ全速マイで後続を千切り捨てた。先頭をひた走る師、その背を見つめながら走る弟子。1号艇&6号艇に分かれる明日は、今日よりもさらに師匠が有利な立場になる。弟子の勝機はかなり薄そうなのだが、大穴党は劇的すぎる“恩返し”の光景を夢見るだろう。
1着・太田、2着・丸岡。
明日の師弟の着順や、いかに。そして、3人が生き残った銀河系は、どんなやんちゃをやらかしてくれるだろう。(photos/シギー中尾、text/畠山)