BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

新マニフェスト

12R優勝戦
①土屋智則(群馬)13
②宮地元輝(佐賀)16
③西村拓也(大阪)15
④池田浩二(愛知)17
⑤上條暢嵩(大阪)19
⑥平本真之(愛知)22

 昨日の準優でポールポジションを勝ち取った土屋が、2コース宮地の激差しetcを完璧に封じて逃げきった。去年の平和島クラシックに続き、短期間で2度目のSGタイトル奪取。「SGは1個まではフロック、2個獲って真のSGレーサー」などと言いきる重鎮レーサーもいるのだが、胸を張って『チャンピオン』の称号を受けてもらいたい。おめでとう!

 主な勝因に関しては、まずは上記のスタートタイミングが雄弁に物語っている。トップスタートのコンマ13。最近、何かとビック賞典のスタート事故が物議を醸すなか、理想的な踏み込みと言っていい。
「ハナを切るって宣言したのに、スタート展示で遅れて(コンマ24)ちょっと緊張しました」
 表彰式で笑いを誘ったが、強めの向かい風が吹くなかでのアジャスト能力も天晴れ。結果、スリットラインは隣からちょっとずつ凹んでいく理想的な傾斜を描いた。

「スタートしてから、ちょっと余裕がありました」
 このスリット隊形が生み出した余裕であり、同時にイン戦向きの機力がその余裕を生み出したのだろう。
「4日目(のレース後)のセット交換でかなり良くなって……」
 今節の実に重要なキーワードも口にしたが、予選の全5走を“純正モーター”(こちらは今節の隠れ流行語?)で予選2位まで上り詰めたのも素晴らしい。

「で、1マークを回って……あ、完璧! 言うことなしです!」
 あとはリプレイを観ながら自画自賛。確かにターンマークを1ミリも漏らさぬ絶品インモンキーで、2コース宮地らを一気に5艇身ほど千切り捨てた。当欄ではスリット隊形や1マークの攻防などで、「いちばん惜しかったのは」などの言葉で敗者を拾うこともあるのだが、このレースに限っては惜しいシーンが見当たらない。競馬用語で言うところの「テンよしナカよしシマイよし」の三拍子そろったレースっぷりで完璧に逃げきった。

「クラシックを勝ってから守りに入って調子を落としたんですけど、これからはガンガン攻めていきます。で、去年は惨敗したグランプリでもひと回り成長した自分の姿をお見せします!!」
 土屋内閣誕生~1年で解散という大きな経験を積んだ39歳の壮年レーサーは、新たなマニフェストとともにグイッと胸を張ってみせた。
  ★    ★    ★

 さて、先にもちょっと触れたが、今節はあまりに特殊なシリーズでもあった。
 セット交換、24人。
 20年以上も欠かさず見てきたSGシリーズの中で、圧倒的な違和感を抱き続けた6日間だった。たとえば、西山貴浩60号機。私が前検でトップ足に推し、初戦も非凡な行き足を魅せて2着の好発進……と思っていたらば、そこから一気にパワーダウンして666=オーメン終戦。なんでなんでなんで???と首を傾げている間に、西山は4走でV戦線から消え去った。
 とりわけ強烈な違和感があったのは3本目の6着だ。2コースからしっかりゼロ台発進したのに、内外の両サイドにじわじわ煽られた。私が惚れ込んだ行き足はどこさもない。内の田中信一郎も外の馬場貴也も、前日にセット交換していた。劣勢な行き足で2コース差しを目指した西山は、初動を入れる間もなく馬場に叩き斬られた。
 で、私以上に違和感と険しい境遇を実感したであろう西山は、翌日になって自身もセット交換。しっかり逃げきっての第一声は「昨日までとはぜんっぜんベツモノ!」だった。前検、初日の60号機は、いったいナニモノだったのか。

『セット交換WARS』が勃発してまだ6日。圧倒的パワー差の真相は未だ不明だが、多くの記者さんが推測している噂はこんな感じだ。
★新年度のモーターは何らかの理由(人身保護など?)で出力が低下している⇒当然、前年度の心臓部(セット)を移植すると新品より出力が上がってパワー優勢になりやすい⇒目ざとく気づいた選手から続々とセット交換開始⇒あれよあれよと5日間で24人がセット交換に踏みきった⇒実際にパワー差は明らかで、優勝戦もほぼセット交換組で占められた。
 この推測が正しいかどうかはともかく、今節はいつものSGとはまったく別物のオプションが組み込まれたわけだ。私の感覚としては「早い者勝ちのお宝を奪い合って勝利に近づくRPG」はたまた「人々がある契機を境にどんどん別人に変わっていくSFホラー映画」みたいな違和感とともに最終日を終えた。傍観者に近い私でさえこうなのだから、水面でSGを戦った選手たちは何百倍もの“違和感”を抱いたことだろう。踏み切った選手とそうでなかった選手と、さまざまな思いが水面下で渦巻いたことは想像に難くない。

 ただ、舟券で勝ちたいファンはあらゆる情報を拾い集めて正解=的中を目指すのだから、この不思議な現状をも重要な素材として受け入れるべきなのだろう。そんな意味も含めて、今日までにセット交換したモーターを私なりに評価の高い順に列挙しておきたい。

『尼崎・セット交換WARS』
44峰,50西村,4土屋,33郡,40稲田,28辻,25宮地,62池田,35山口,36長田,49田中,47元志,54深谷,60西山,32羽野,41島村,42吉川,10平本(前節),3瓜生,58関(前々節),12宮之原,22毒島,63馬場,57坪井,34赤岩,46片岡/今節不在=51(前々々節),39と61(前節)

 この情報が次節以降の尼崎の舟券推理に役立つかどうかは、あなた次第です!(笑) でもって、こうしたセット交換WARSは尼崎以外のレース場でも起こりうることをお忘れなく。オーシャンカップの舞台となる大村でも同じような違和感が発生するのか、今後の動向に注目したい。(photos/シギ―中尾、text/畠山)