BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

毒島が着水してない!?最終日朝のピットから

 1R発売中のピット。優勝戦出場6名のボートはすべて、装着場にあった。そう、いつもなら早々に着水しているはずの毒島誠のボートも、装着場に置かれていたのである。毒島の姿を探すと、整備室。装着場から見ていちばん左側のテーブルで、プロペラゲージを擦っていた。よく書くことだが、これは今節使っているプロペラの形状をアクリルのゲージに写し取る作業なので、機力アップとは関係はない。つまり、毒島はいわゆる調整作業を行なってはいない。これは、オールスターで取り入れた“我慢”のオプションが発動されているということか。ということは、準優勝戦で毒島はモーターの動きに確信を持った。レース間のスタート特訓などで異変を感じ取れば、改めて調整は始めるのだろうが、現時点では「何もしない」という“調整”を毒島はしている。ゲージ擦りはまさに、そのための作業なのだろう。

 2号艇の白井英治は2R発売中にモーターを装着した。1R発売中に見たときは、まだモーターが乗っていなかったわけだ。これは6艇のなかでは白井だけだった。白井もまた、手応えを感じているときはゆったりとした動き出しとなるのが常。たしか18年の地元徳山グラチャンを優勝したときはもっと遅いタイミングで装着をしたはずだ。今日は大きな調整をすることなく、メンタルを整える一日になるのだろう。

 3号艇の豊田健士郎については、地元ビッグの優勝戦ということで、早くも気合が入っている様子を見せるのではないか、と想像してピットに入った。だが、そうした前のめりの雰囲気は見られなかった。緊張感はあるのだろうが、自然体なのだ。自身の調整よりも選手班長としての仕事のほうが忙しそうだ。肩に力が入る過ぎるよりは絶対にいいと思う。

 4号艇の上條暢嵩は、整備室から太めの針金のようなものを持ち出して、自艇のもとに向かっている。何をするかと思ったら、キャリアボデーの上部にある小さな穴にそれを突っ込んで幾度かこすり、そしてウエスでコシコシと汚れをとっていた。キャリアボデーはようするに排気に関わる部分だから、ススなど溜まりやすいのだろう。それをこすり取っている、と思われた。上條に尋ねると、「僕、汚れてるのが嫌なんですよね」とのこと。モーターのパワーに影響するかどうかはともかくとして、綺麗な状態で乗りたいというわけだ。モーターを磨いている選手は他にもいて、代表選手は白井英治。白井は「(モーターを磨いているということは)焦って整備しなくてもいいわけでしょ。いいことじゃない?」と言っていた。なるほど、上條も機力自体には満足しているということか。あと、自分とともに戦う相棒を綺麗に保ちたいという心構えはいいことだと思う。モーターは自分のものではなく、いわば借りているものなのだからなおさらに。

 5号艇の池永太は、2R発売中に自艇のもとでの作業を始め、調整や試運転の準備を始めていた。あくまで第一感だが、6人のなかでもっとも昨日までとの雰囲気が変わったのが池永だと思う。ピリピリした空気をまとっているように感じたのだ。こうしたビッグレースで池永の優勝戦に立ち会うのは、記憶が定かなら12年新鋭王座決定戦以来か。当時のことはもうよく覚えていないのだが、これが優勝戦の日の池永太だ、ということであれば、頼もしいことだと僕は思う。

 6号艇の重成一人は、早くもプロペラ調整室。点検程度なのか、すでに叩いているのかについては判然としなかったが、エンジン吊りにはやや遅れ気味にダッシュで駆けつけているので、いずれにしても入念な作業を始めているようだ。2Rのエンジン吊りでは、先に田村隆信を出迎えるためにリフト最前列に陣取っていた竹田和哉とじゃれ合ったりして。リラックスはしているように見受けられた。時にトリッキーな作戦を見せる重成だけに、その柔らかい雰囲気の奥でどんな策を練っているのか、実に楽しみである。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)