BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――強者・毒島!

 盤石の逃げだった。コンマ04のトップスタート。1マークを先に回って、もう他を寄せ付けない。甲子園決勝でパーフェクトゲームを達成したようなものだ。
 初戦ドリーム5号艇2着。2戦目は6号艇2着。それ以降はオール1着! 甲子園でいえば、1回戦2回戦は完封勝利で、あとはノーヒットノーランの連続で優勝、のようなものか。とにかく強かった!
 今日は「調整を変えないよう」心がけて過ごしたのだという。やはり、毒島の新たなオプションが発動していたのだ。不安があればとことん調整する。仕上がりに手応えがあればそれを信じる。その両面で臨むようになった毒島が、さらに強力化するのは、当然である。

 それでも、今日は一日、緊張していたとも毒島は語っている。というのも、ビッグレースの優勝戦1号艇が久しぶりだったから。そういえば、3月クラシックの優勝は2号艇でのものだった。記念での優勝戦1号艇(そして優勝)は昨年もあったけれども、SGなら一昨年のグランプリシリーズにさかのぼる。しかも敗れている。あのシリーズはグランプリトライアル1st敗退で失意のシリーズ回りだったとするなら、20年のチャレンジカップまでさかのぼることになる。すでに経験のあるSG優勝戦1号艇でも、ブランクがあれば緊張感が襲う。毒島ほどの男でも、そうなのだと改めて知る。

 と言いつつ、レースではそうした緊張感を少しも感じさせなかったのだからさすがだ。先述したようにトップスタート。しかも、3カドの豊田健士郎がスタート展示で伸びてきたと察知し、それも勘案しつつ、絶対に切らないタイミングのコンマ04だったというから実に冷静である。もちろん、一発で決めた先マイのターンもそう。ようするに我々は今日、毒島誠の強さを改めて見せつけられた。あるいは、ここ数年、毒島らしい結果を残せなかった苦しい時期を乗り越え、我々がよく知る強者・毒島を思い出させられた。これぞ毒島誠なのだと、強烈なインパクトともに感じさせられたのだ。

 戦前の段階で賞金ランクトップだったのだから、これで少し後続を引き離すことにもなった。ここからさらにどれだけの上積みを見せてくれるのであろう。それはお金の話ではない。悲願のグランプリ制覇に向けて、少しでも有利な立場で臨むための戦いだ。なにしろここ2年、トライアル1stで敗退という屈辱を味わっているのだ。本人はそうは語らないけれども(なんだかんだであと5カ月あるし)、見据えているのはトライアル2nd初戦1号艇であるのは間違いない。1週間後にはもう、次のSGが待っている。この勢いを携えて大村に乗り込む毒島の、激烈な戦いを楽しみにしていよう。

 無念が強く見て取れたのは、そりゃあどうしたって豊田健士郎である。3カドを繰り出し、地元Vへの執念をあらわにした。まず、その時点で称えられていい。しかし、その分だけ敗れた痛手は大きい。そのリスクを背負って戦ったのもお見事。そして、その痛さをとことん味わう姿は、どこか神々しくも見えていた。
 決して顔を歪めたりはしなかった。お世話になってきた地元の関係者の方々からの労いには、笑顔を作ったりもしている。好青年トヨケンらしい、振る舞いだ。だからこそ、時折遠くに目をやって、呆然とする姿が痛々しくもある。この痛みは必ず、上の舞台で屈辱を晴らすための通過儀礼としたい。その決意が彼のなかで膨らんだと、信じる。

 あと、池永太がかなり悔しそうに渋い顔を見せていたのが印象的。層の厚い福岡支部にあって、池永は決して多くのチャンスに恵まれてきたとは言えない。このメンバーのなかでも、白井英治と上條暢嵩は来週のオーシャンに出場するし、重成一人もメモリアルに出場が決まっている。豊田はSGこそ決まっていないが、夏以降は記念斡旋が多数入っている。しかし池永はといえば、そこまで記念も多くないし、SGも決まっていない。この甲子園はチャンスだったのだ。そう考えれば、敗戦の悔恨はやはり大きかろう。池永は現在、ダービーの勝負駆け中だ。昨日の時点でボーダーの真上、51位。次は唐津の一般戦、そこで勝率を一気に引き上げ、ダービーで今日の借りを返してもらいたい。太よ、戸田で会おう!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)