9Rで川野芽唯が1着。2コースから差して、逃げた喜井つかさのふところに舳先をねじ込むと、一歩も引くことなく2マークを先マイ。ややターンマークに寄っていたことから流れ気味になり、喜井に差し返されそうになったが、今度は舳先をねじ込ませることなく押し切り。まさに地元の意地がビンビンに伝わる走りであった。地元レディチャン、しかしここまではやや消化不良の成績だった。このレースも大敗していたら予選敗退が決まりかねないところだった。まさに崖っぷちから明日に望みをつないだ勝利。ピットに戻るや爽快な顔を見せたのも当然なのである。
3番手争いもアツかった。6コースから4番手あたりを争っていた平山智加がぐいぐいと追い上げ、3周1マークで先行する岩崎芳美に舳先を掛けたのだ。平山と岩崎は同じ四国地区ということもあって、ピットではよく会話を交わしているのを目にする。平山にとっては頼れる先輩、岩崎にとってはかわいい後輩。そういう間柄だ。しかし水面ではバッチバチ! お互い一歩も引くことなく競り合い、3周2マークでは平山が先マイ。見事に逆転してみせた。平山もここまではやや苦戦気味だったわけだが、こちらも明日にひと勝負できるところまで持ち込んだ。ドリーム組の意地として、むざむざと敗れ去ることはできないのである。
そうそう、ピットに戻ると、刑部亜里紗が思い切り恐縮した表情を見せながら平山に駆け寄っている。頭を下げる刑部。すると、平山は強く首を横に振り、逆に何度も頭を下げた。いやいや、こちらが迷惑をかけちゃって、そんな雰囲気だ。おそらく4番手争いのあたりで何かが起こったのだろうが、モニターには映っていなかったので事態は不明(リプレイを見ても映ってませんでした)。刑部は後輩として先輩に礼を尽くし、平山ははるかにキャリアの浅い後輩に対して尊大になることなく素直に詫びていた。素敵です。レースはガチンコだから時に接触なども起こりうる。しかしこうしたやり取りで禍根は残ることはない。そしてまた、次もガチンコでぶつかり合えるわけである。
10Rは魚谷香織が逃げ切り。今節選手班長の激務もありながら奮闘する魚谷だが、この勝利はやはり明日の勝負駆けにつながるものとなった。地元勢がきっちり、予選突破へ態勢を整える勝利を果たす9~10Rだったのである。魚谷を出迎えたのは、9Rで勝った川野。何か声を掛けると、魚谷は両手で胸のあたりを押さえ、首をすくめた。まさにホッと胸を撫で下ろすというやつ。この1号艇は大きな勝負どころだったのだ。
エンジン吊りを終え、藤原菜希が対戦相手に挨拶回り。すると、声を掛けられた山川美由紀の顔がぱーっとほころんだ。そして身振り手振りで言葉を返すと、藤原もまた微笑みながら返す。実に和やかなレース後の感想戦が行なわれていたのだ。あの身振り手振りはどのシーンだったんだろうとリプレイを見直してみましたが、1マーク、山川の外を藤原が握っていったシーンかな、と。というか両者が道中で絡んだのはそこくらいだったので、藤原の攻めに動じず差しに行った山川、握ったけど流れ気味になってしまった藤原、といったような会話だったと推測されます。ともかく、山川の表情が非常に穏やかになっていたのが印象的でした。選手からの人望厚い藤原ナッキー、大先輩の心も癒やすということでしょうか。
さてさて、整備室では堀之内紀代子が本体整備をしていた。昨日は4カドから伸びてまくり一撃を決めたものの、今日はスリットから出ていく気配なし。スロー発進だったからかなあ、などと思っていたのだが、堀之内は本質的に機力アップをはかろうとしていたのだった。気象がそれほど変わったわけではないけれども、何か違和感があったということだろう。
また、清埜翔子も本体整備。前評判の高いモーター31号機ではあったが、大きい着を並べてしまった3日間。違和感を拭えないまま、ここまで来てしまったという感じか。予選突破は絶望的だが、このままでは終われない。そんな意地が垣間見える整備の模様なのであった。
一方、足色軽快と見える廣中智紗衣はといえば、ゲージ擦りである。どうやらここまでノーハンマー。このプロペラの形状を残すのは是非モノであろう。今日は朝にもこの作業をしている様子を目撃しており、着を落としてしまった7R後にも引き続きゲージ擦りを行なっている。これが今後の、また次に福岡に来た時の、廣中の大きな武器になることだろう。
足色軽快といえば、土屋千明もその一人。今日は一息だったけれども、ハマれば行き足は確実に上位級である。その土屋なのだが、10Rを本番待機室のモニターで観戦していた。福岡の本番待機室は装着場側が大きな窓ガラスになっていて、外からガラス越しにモニターを見る、というのが定番の観戦ポイント。僕以外の報道陣もここにいたりするし、時には選手も我々と並んで外からモニターを見ていたりする。本番レース中はもちろん出走選手は水面に出た後なので、選手は待機室内で観戦できるんですけどね。で、土屋は待機室内にあらわれて、ソファに腰かけてモニターを眺めていたのです。
そこで気づいたのだが、土屋の手の指にはショッキングピンクのマニキュアが塗られていたのあります。実に綺麗で、目を引くピンク。レース中はグローブをはめるのでもちろんファンの目には触れることはないし、こちらもピット内で作業しているときには今まで気づかなかった。言うまでもなくマニキュアをすれば好ハンドルが切れるわけではないし、モーターが急に噴くわけでもない。でも、たとえばペラを装着するときや整備調整をするとき、土屋本人の目にそのキュートな爪が目に入ればテンションが上がったりするのではなかろうか、と。いや、ワタシは塗ったことないから想像でしかないけど(笑)。レースは真剣勝負、ピットは真剣な仕事の場、そんななかでちょっとした女性らしいオシャレ心、あるいは遊び心があるって、僕はとってもいいことだと思うのです。素敵です。あとメンタルには絶対効果があるだろうし。水面を疾走する土屋の、グローブの下には彼女らしいオシャレが施されている。そんな想像をしながら声援を飛ばすのも楽しいんじゃないですかね。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)