
ボートリフトの近くに堀之内紀代子のボートが、モーターを装着したままポツンと置かれていた。レースを終えた選手のボートは、試運転を続けている選手のものは係留所にあるが、それ以外はすでに装着場の奥のほうに運ばれている。ということは、堀之内はこの後も試運転に出るつもりだ。もしやと思って、そっとチルトアジャスターを覗き込んだら「0」とある。うーむ……。
姿を探すと、やはりペラ調整所に姿があった。叩き変えているのだと思うのだけれど……と見ていたら、調整を切り上げてボートへと向かった。ペラをいったん操縦席に置いて整備室へと向かい、戻って来たときには手に何かが握られている。これは間違いなくチルトアジャスター。3度用のアジャスターは、マイナス0・5度から1・5度までの5段階のものとはまた別にあるのだ。

静かにアジャスターをつけて、取り付けを変える。やはり、チルト3度にした! 装着作業を終えると、ボートを水面に下ろす。いったん係留所にボートを移したのだが、その隣で待ち構えていたのは寺田千恵。これは、スパーリングパートナーを買って出ようということだろう。

というわけで、ふたりの足合わせが始まった。1周目、2マークのあたりでスローダウンした堀之内は、両手を掲げて丸印を作って、寺田に向けた。マル! 2周目、やはり2マークのあたりで堀之内は、今度は両手を突き上げた。バンザイ!? ということは、伸びてるってこと!? 堀之内は予選ラストに6号艇が残っており、そこでチルトを跳ねることを決断した。そして試運転を今日、この2周だけだが行なって、それなりの手応えを得たようだ。

ただ、堀之内が先に陸に上がり、その後に2周ほどして遅れて陸に戻ってきた寺田は、堀之内に「あまり変わらんなあ」と声を掛けている。そうなの!? 寺田は堀之内を待つ間、係留所でずっとモーターを回しており、これは大きな整備をした選手がよくやる「交換した部品を馴染ませる」作業のようにも思えていた。寺田はその後、ペラ調整所にこもってしまったので話を聞くことはできなかったが、寺田自身が底上げした可能性もありそうだ。いや、交換しても「あまり変わらん」のか……? 明日の直前情報は堀之内ともども、チェックしてほしい。

試運転といえば、細川裕子がかなり遅くまで試運転を続けている。もちろん、合間にペラ調整を行ない、切り上げると水面に出て、また戻って調整して、また水面に出て、の繰り返し。細川は6R1回乗りで、2コースから差して勝利。これで都合3連勝である。快調なのである。しかし、細川は気を緩めることはない。地元での戴冠に向けて、さらに上積みをはかって万全を期す。

細川をベテランと言うには早いかもしれないが(といってもデビューから24年ですね)、ベテラン勢が魅せてくれるとなんか嬉しい、50代半ば過ぎのオッサンであります。だから、10Rは3番手争いだけどなかなか興奮した。山川美由紀と岩崎芳美が真っ向勝負! 四国地区の二人であるから、もちろん普段は仲が良い。しかし水面に出れば関係ない! いや、仲が良く、お互いを信頼し合っているから、むしろガチンコでぶつかり合えるのか。3周目バックの艇を合わせての競り合いといったら! あの柔らかい人柄の岩崎が、水面に出れば外からガツンと押し込みにいくのだ。素敵すぎる!

陸の上ではもちろんノーサイドである。海野ゆかりも交えて、笑顔で言葉を交わし合う山川と岩崎。山川は岩崎がガツンと競りかけてきたことをむしろ愉快そうに振り返っており、長年しのぎを削ってきた戦友同士の心地いいレース後と見えた。で、ちょっと聞こえてしまったんで書いちゃいますね。「もう、罰として晩御飯抜きね!」「謝るけん、1杯だけ食べさせて!」。ナハハハ! しっかりジョークも飛ばし合う彼女たちが本当にカッコ良く見えました。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)