
やったーっ! そう言って真っ先に係留所に駆けつけたのは峰竜太だった。いや、師匠の上野真之介じゃないんかい(笑)。峰はレース直前、まったく落ち着かない様子で、「緊張してきた」と胸を押さえている。まあ、上野の師匠が峰だから、ヒーローは孫弟子。グループの一員ではある。それにしても師匠を差し置いて、まったくもう……。そして、やっぱりか、の涙を見せている。

大師匠がそんな様子だったというのに、末永和也は堂々たるものだった。峰らが待ち構える係留所に戻って来た末永は、もちろんガッツポーズを見せながらも、静かな笑みを浮かべている。昨年のオールスター、峰が泣いているのを見た定松勇樹はその瞬間に号泣している。しかし末永は、峰が泣いているのを見ても笑顔のままだった。では、上野師匠に対しては? 上野もまた静かに笑っていたからかもしれないが、末永は笑顔を交わすのみだった。僕はそんな末永の姿に、ただただ大物感を見ていたのだった。

多くの先輩に頑張れと声をかけられて、緊張に襲われていた。末永はそう振り返っている。でも、実はレース直前の末永にはそんな様子も見えなかったのだ。展示から戻ってきても、浮足立っているような様子は少しもない。そのとき緊張やプレッシャーと戦っていたのだろうけれども、そうしたものに搦めとられて我を見失ったりはまったくしていなかったと言い切っていいと思う。つまり、レース前もレース後も、末永は実に逞しい若者としか見えなかった。

これは通過点に過ぎない。僕の感想はそういうことになる。末永がそう捉えているかどうかはわからない。今はただただ、夢だったSG制覇の感慨を味わっているのかもしれない。だが、真に目指す到達点はまだまだ先にある。今日の勝利は、そこへ向かっていく過程のひとつのエピソード。末永のしっかりした振る舞いからは、そうとしか思えないのだ。ようするに、この若者、とてつもない!

で、ウィニングランから帰ってくる末永を出迎えたのは、やっぱり峰竜太なのだった。そこに遅れて上野師匠があらわれる。「あ、竜太さんがいる」と上野は、控室に戻ろうとした。いや、そこは師匠が行かなきゃダメでしょ! 思わずそう口走ってしまって、上野も意を決したように係留所へと下りていく。そして、末永は上野師匠とガッチリ握手! 激しく抱き合ったりはしなかったけれども、そこには二人にしかわからないであろう世界が確実にあった。静かに微笑み合う末永と上野は、なんとも幸せそうな師弟だったのだ。というか、峰竜太、嬉しいのはわかるけど出しゃばりすぎだって(笑)。



そんな微笑ましいシーンもありつつ、SG初優勝だからもちろん水神祭! 佐賀支部の全員=峰、上野、宮地元輝、山田康二が末永と一緒に飛び込む、賑やかなものだった。宮地は定松勇樹のときは、自身が優勝戦で敗れていたのでそっと末席に参列しただけだった。今回は心置きなく! もちろん幸せなシーンだったわけだが、僕は上野師匠、山田康二が次にこの瞬間を迎えることを期待します!

最後に、決して噴いていない相棒を必死に整備して、そして優出した新田雄史に拍手を送りたい。レース後、完全に表情をなくして、呆然自失の態だった新田。彼がいかに思いを込めて、このダービーを戦ったのかが、その様子にあらわれていたと思う。地元として孤軍奮闘の一節間、本当にお疲れ様でした! 必死にもがき、そして優勝戦まで駒を進めた新田はカッコ良かったぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)