BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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尼崎オールスター優勝戦 私的回顧


“自力”の戴冠

12R優勝戦
①中島孝平(福井)17
②前田将太(福岡)18
③白井英治(山口)19
④吉川元浩(兵庫)11
⑤新田雄史(三重)10
⑥平本真之(愛知)12

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 混戦になった1マーク、インの中島孝平が節イチのパワーを駆使して華麗に逃げきった。おめでとう!
 スリットから1マークまでを過激に演出したのは、4カドの吉川だった。地元の意地とプライドが、余すところなくスリットに投下された。タイミングは↑御覧の通り。カド受けの白井をきっちり半艇身出し抜き、ダッシュの勢いも利して一気に絞め込んだ。スロー勢にとって、もっとも恐れていた展開。
「ヤバイ!」(by優勝インタビュー)

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 中島の右の視野に飛び込んだ青いカポックは、瞬く間に白井、前田を叩き潰す。傍目には、インの中島まで呑み込む勢いに見えたが、ここでモノを言ったのが中島17号機の節イチパワーだ。
「スタートの前にかなり放ってしまった」
 と言うのにスリットからしっかり伸び返し、1マークの手前では隣の前田より1艇身近く抜け出していた。この差が明暗を分けた、と言ってもいいだろう。「まくりきるのは難しい」と判断した吉川は、前田を叩きつつ減速してまくり差しに構えた。もしも落とさずに中島目がけて襲い掛かっていたら(その選択の余地が十分にある隊形でもあった)、おそらく勝者は5コースから吉川をマークしていた新田だったと思う。

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 吉川の落としマイを瞬時に察知した中島は、自らも落として冷静に1マークを先取りした。最善の戦法だ。元よりマイシロのなかった吉川の舳先は中島の内で跳ね上がり、減速を余儀なくされた。ここでも惜しかったのは新田で、ハナから吉川がまくり差しだと見越していれば、より鋭角なマーク差しを選択していたはずだ。そうなれば、バック直線で中島と一騎打ちという展開になっていた可能性は高い。そんなこんな、ライバルたちの攻撃を鈍らせたのが17号機のパワーであり、それを全面的に信頼していた中島の的確なハンドルワークだった。

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 2010年グランプリから、7年半ぶり2度目のSG戴冠。1冠目は、イン濱野谷憲吾がスタートで凹んだところを2コースからナチュラルにまくって快勝した。スリット隊形に恵まれた優勝でもあった。が、今回は堂々の予選トップから逃げ×逃げでの横綱相撲。中島自身にとっても、「SGを自力で獲った」と心から納得できる勝利だったことだろう。
 シリーズ全体を振り返ろう。今節は、V候補と目された面々が次々と脱落した。前年度覇者の石野貴之、「エース機」と呼ばれた4号機を引き当てた原田幸哉が2日目にフライング。桐生順平と井口佳典は序盤から重い着を並べ、ファン投票1位の峰竜太も2度の反則を犯して14点という致命的な減点を頂戴した。
 代わって、小野生奈や松本晶恵ら女子レーサー、羽野直也&仲谷颯仁のルーキーコンビ、さらに14点のビハインドを負った峰がゾンビのようにV戦線に浮上したりと、なんとはなしに華やかなレーサーたちが話題を集めた。私もまたそうした面々を毎日のように「蝶よ花よ」と取り上げたわけだが、ふと気づけば地味に地道に上位着を積み重ねた中島がシリーズリーダーの座を射止めていた。そして、あれよあれよの優勝。中島らしい、と言ったら失礼だろうか。

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 見た目もパフォーマンスも派手さはなく、水面ではベテラン職人のような精緻かつ的確な捌き巧者。そのすべてから誠実な人柄が醸し出される中島孝平という男は、だからこそ舟券の信頼度も絶大で、多くのファンに支持され続けている。今回の優勝でさらにファン層が広がるだろうが、その人柄もレーススタイルもまったく変わることはないだろう。常にSGの舞台にいてほしい、いなくてはならないイブシ銀の性格俳優。私は勝手にそう思っている。(text/畠山、photos/シギー中尾)