BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

優勝戦回顧

①馬袋義則(兵庫)

②白井英治(山口)

③吉田拡郎(岡山)

④今垣光太郎(石川)

⑤坪井康晴(静岡)

⑥中島孝平(福井)

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1番人気が③-④というSG優勝戦は最近あっただろうか?

2連単は1号艇から3ケタのオッズが並ぶのが見慣れたSG優勝戦。昨年のグラチャンで2号艇の瓜生正義が1番人気となっていたが、1号艇の平本真之もほぼ同等に売れていたものだ。しかし、馬袋義則の2連単オッズはすべて10倍以上で、吉田拡郎がまくって今垣光太郎が差し続く展開に支持が集まるという珍しい事態。個人的には大好き!

どこからでも狙えるこんなレースこそ血が騒ぐのだが、それはさておき。ファンの注目をもっとも集めていたのは、吉田拡郎のスーパーストレートだったわけである。……それにしても、スタート展示でピット離れで遅れた吉田を見た瞬間、3号艇勝負を決めていた人たちはどんな思いになり、どんな声をあげたのだろうか。本番は枠なりになっているが、あのスタ展6コースは、さらにファンを考えさせ、悩ませる要素になったはずだ。ちなみに僕は、本番でも吉田6コースになった場合を考え、坪井アタマの舟券をちょっぴり買い足した。

 

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吉田の伸びが昨日ほどではなかったのか、それとも白井英治が巧みに受け止めたことが吉田を減速させたのか、リプレイを何度か見たが、結論は出しにくい。事実を記せば、吉田は内を叩けなかった。スタートタイミングはコンマ15、2コースの白井はコンマ11で、吉田はスリット後にじわじわと白井を追い抜いて行くスピードを見せたが、これを白井ががっちりとブロックした。白井はスリット後に吉田に艇を寄せて行っており、ハナから吉田のまくりを警戒していたのは明らか。舳先をややのぞかせた吉田にぴったりと艇を合わせ、相手のスピードを殺している。吉田は白井が差しに入った瞬間にツケマイを放とうとするが、もともと回り足では分が悪かったこともあって、とうてい届く気配を見せられなかった。

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白井にとっては、おそらく作戦通りであろう。吉田を止めての差し。吉田のまくりを殺し、吉田がまくって生まれる差し場を狙っていた外枠勢の思惑をも封じる戦略。だが、これは奏功しなかった。吉田の面倒を見なければならなかった分、差しハンドルを入れるのが遅れた。というより、レバーを落とすのが遅れたが正解か。白井が差しに入ろうとした時、真横にインの馬袋がいた。つまり、白井に差し場がなかった。こうなると、どれだけ足が仕上がっていたとしても、勝ち筋はない。結果的には、吉田の伸びはまた、白井の差しを殺してもいたことになる。

 

 

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吉田と白井のやり取りは、馬袋にとっては、いわゆる「絶好のカベ」である。白井は吉田に対して、吉田はその外に対して、勝ち筋を消す役割にもなっていたのだ。こうなれば、出足と回り足を中心にバランスとれたパワーを誇る馬袋は、しっかりと先に回るのみ。

かといって、それは簡単な逃げだったということではない。おそらく白井も吉田ものぞいて見えていたはずだが、馬袋はまったく揺らぐことはなかった。ターンマークを漏らすことなく、それでいて握っている吉田の行く手も塞ぎ、馬袋は鮮やかに逃げた。SG初優出でやってのけた、この芸当。周囲の気遣いも大きかったようだが、重圧に押しつぶされることもなく、確固たるイン逃げを見せた馬袋は堂々たるSGウイナーである。たとえ、1号艇なのに1番人気にならなかったとしても。いや、彼を1番人気に推せなかった我々は、馬袋を過小評価していたということになる。

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「(重い印がついていないスポーツ紙などを見て)先輩が『ウチの馬袋をナメとんか!』って怒ってましたけど(笑)、もし本命がズラリと並んでたら、プレッシャーに負けてたと思いますので、かえってよかったです。(記者さんが『すみませんでした』と謝ると)いえいえ、こちらこそありがとうございました、です(笑)」 怒った先輩は芝田浩治のようだ。芝田も、そして2連単1310円という美味しすぎる①-②を的中した人も、そしてもちろん馬袋もお見事!

 

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ひとつだけ惜しいのは、今垣光太郎である。吉田のまくりが不発に終わったことで、今垣には絶好の差し場が生まれている。しかし、引き波を超えている間に、馬袋に逃げられてしまった。もし昨日までのスーパー出足があったなら……。吉田の伸びについていけるように仕様を変えたことが裏目に出てしまったかたちだ。勝利のためにベストの選択をしたはずなのに、それが奏功しないという皮肉。かくも勝負の世界は複雑で苛烈で厳しくて、今垣には申し訳ないが、だからこそ面白い。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)