BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

賞金王トライアル私的回顧 第3戦

6着争いまで……

 

11R 進入順

①井口佳典(三重)06

④平尾崇典(岡山)08

⑤馬袋義則(兵庫)10

③坪井康晴(静岡)09

⑥峰 竜太(佐賀)11

②山崎智也(群馬)07

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124807j:plain

これだから、賞金王トライアルってヤツは

何があるかわからない。

ピット離れで、山崎智也と坪井康晴が後手を踏んだ。

完全なドカ遅れではない。

普通のレースなら、

外の選手が直進している間にそそくさと

定位置に戻れるくらいの遅れに見えた。

が、このレースは違う。

平尾、馬袋、峰が申し合わせたように、

レバーを握って猛然と加速した。

こうなると、初速の違いが何倍にも膨らむ。

f:id:boatrace-g-report:20171206124823j:plain

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124840j:plain

智也と坪井がズルッと滑り抜けた。

進入は上記のとおり。

坪井はなんとか4コースまで潜り込んだが、

智也は潔く艇を引いた。

最終隊形1453/62。こんな進入予想、

世界中の誰が予想できる?? 

スタンド騒然の中、12秒針が回る。

外の“いざこざ”なんか関係ない、

という風情でインの井口佳典がバチッと逃げた。

コンマ06トップS。さすがの集中力で、

決定戦ファイナル進出を決めた。

 

問題は2~6着争いだ。

ボーダー21点想定で、

石に噛り付いても②着が欲しい平尾崇典が差し粘る。

これに、ほぼ絶望的な立場の馬袋が追随する。

その真後ろに、③着条件の坪井。

すこし離れて、1着でも苦しい峰竜太。

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124902j:plain

最後方は、なんとなんと⑤着条件の智也! 

つまり、すべての着順争いに

ファイナル勝負駆けの機微が潜んでいた。 

2マーク、②着を死守したい平尾に

突進気味の切り返しを仕掛けたのは、

ほぼ勝負付けが終わっている馬袋だった。

おそらく、同期の智也の援護射撃、

などという思考はなかっただろう。

まだ諦めてはいないし、

最高峰の12人に選ばれたからには全力を尽くす。

そんな切り返しに見えた。その横から坪井も同じような航跡を描き、

平尾の進路を阻もうとした。

欲しいのは3着、

平尾よりも先着すれば俄然ファイナルが近づく。  

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124914j:plain

窮地に立たされた平尾は、怯まなかった。

馬袋と坪井の間の狭い狭いところに、

全速で舳先を突っ込んだ。

あまりに狭い間隙に、目を瞑って突っ込んだんじゃないか、

と思えるほどの強襲だった。

馬袋も、坪井も、平尾も死に物狂いで攻めた結果、

軍配は平尾に上がった。この1周2マークのまくり差しは、

岡山のファンの間で語り草になることだろう。

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124928j:plain

次の焦点は、3着争い。

2マークの攻攻(攻防ではない)で、

坪井が優位な立場になったかに見えた。

が、馬袋が食い下がる食い下がる。

あの手この手の追撃で、2周目、

ついに坪井を4番手に引きずりおろした。

あまりのしつこさに、

私は「まさか、やっぱり智也のために?」なんて思ったりもした。  

馬袋優位の3周1マーク。坪井が決死の行動に出た。

外から内へ、切り返しで馬袋の前を横切った。

決まればファイナル、不発なら順位決定戦……

「この1年、賞金王だけを目指してきた。

3年前、ファイナル1号艇で惨敗した

ぐっちゃぐちゃの思いを晴らすことだけを考えてきた」と

語ってくれた坪井の、渾身のギャンブル。

ほぼ真横に流れる坪井の艇が、

平尾が作った真っ直ぐな引き波とクロスした。

硬いことで有名な住之江の水が、その衝撃を倍増させた。

ボートが1mほども浮かび上がり、

そのまま、くるりと反転して水面に叩きつけられた。

この瞬間、坪井の1年間の努力も水の泡と化した。  

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124937j:plain

一方、この災難によって救われたのが、

最後方に甘んじていた智也だった。

転覆艇の真後ろにいた峰がもろに影響を受けて失速し、

あれよあれよと4番手に浮上したのだ。

坪井が完走していればファイナル出場も危うかったのに、

結果的に明日の4号艇が転がり込んできた。

智也の足はファイナル組では苦しいが、

この強運は怖い。そうでなくても、

「一度死んだ身」と己に暗示をかけて、

タッチスタートをやらかしそうな男だし。

強運+度胸=黄金のヘルメット。

こんな等式を作ってしまう可能性もある。

 

世にも不思議な……

 

'12R

①太田和美(奈良12

⑥松井 繁(大阪)13

②白井英治(山口)12

③丸岡正典(奈良)18

④瓜生正義(福岡)24

⑤今垣光太郎(石川)14'

 

 

 

華々しく、激しく、切なく、

そして不思議なレースだった。

奇妙なファンタジー映画のようでもあった。

その多くを演出したのが、

艇界の魔術師・今垣光太郎。

まずはピット離れで、今垣は他を1艇身出し抜いた。

あのスーパーピット離れは、いったい何なのだろうか。

まあいい。今垣は一気に内の艇を絞って、

太田和美まで超えてしまった。

このままの勢いで進めば、インまで奪えるかに見えた。

が、そこで今垣は何か忘れ物でもしたかのように、ふと立ち止まる。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124950j:plain

 

一度は出し抜かれた2~4号艇の3人が、

コースを取り返すべく今垣の外に殺到した。

なぜか、今垣本人は動かない。

白井英治が、丸岡正典が、瓜生正義が

ホーム水面で舳先を向けた。

それでも今垣は動かず、

代わりに太田と松井繁がそろそろと

静かにイン水域に入り込んだ。

脱兎の如く飛び出し、

インまで奪えたはず今垣の最終的なコースは……

最アウトの6コースだった。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206125005j:plain

 

昨日も同じようなピット離れから4カドを奪い、

私はそれをユニークだと讃えた。

が、今日は6コースまで出てしまったのである。

スーパーピット離れで前付けした選手が、

回り直すこともなく6コースへ。

こんな出鱈目な進入を、

私は今まで一度も見たことがない。

これからもないだろう。

今垣が同じことをやらない限りは。

 

 

レースに戻ろう。

6コース単騎がましをあえて?

選択した今垣は、スリットから勢いよく飛び出した。

そして、シャカリキに内の艇を絞りはじめた。

私は、興奮しつつも、ちょっと呆れてしまった。

ピット離れで内4艇を絞りきった男が、

6コースにはみ出して、

今度はスリットからまたまた内5艇を絞りきろうとしているのである。

これは、何だ?? この一連の光景が、

不思議でならなかった。

そして、今垣光太郎は、正真正銘の天才なんだ、と思った。

真の天才のやるコトは、

いつだって常人にはまったく理解できないのだ。  

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206125022j:plain

今垣の天才絞りまくりは、

太田まで届かなかった。

届かないどころか、松井にも白井にも抜き返された。

今垣、このレースの1マークまでに何人を叩き、

何人に抜き返されたことか……。 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206125034j:plain

バック直線、太田が完全に抜け出してファイナル当確。

 

その後方では②着条件の白井と

すでに当確の松井が舳先を並べていた。

今垣は、このままでは赤信号の4番手。

これは、非常にまずい。

来期、B級落ちが確定している今垣にとって、

決定戦に乗るか否かは天国と地獄の違いがある。

B級でも来年のSGに参戦できるか、

一般戦だけを走り続けるか……

このレースの③着が、分水嶺なのだ。

もちろん、今垣はそれを知っていたと思う。

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206125048j:plain

2周1マーク、今垣は捨て身の突進を仕掛けた。

11Rの坪井のように。

今垣の攻撃は、よりわかりやすいものだった。

2番手の松井には目もくれず、

その松井を差しきろうとしている

3番手の白井にダンプしたのだ。

坪井がやった切り返しではなく、

露骨に3番手をターゲットにしたダンプ。

闘争心剥き出しのダンプ。今垣の平常心は、

100%潜在的な闘争心でできている。

それが私の持論なのだが、

この大一番でも平常心が炸裂した。

そして、白井に接触した今垣の艇は、

大きくバランスを崩した。

舳先が空に突き刺さりそうになった。

何度かバウンドして立て直したときには、

松井と白井は彼方の先にいた。

今垣のレーサー人生にも関わるような賞金王決定戦が、

事実上、ここで終わった。  

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206125059j:plain

そして、白井英治。

今垣のダンプをなんとかこらえた白井だったが、

ここでの接触の影響は小さくなかった、と思う。

松井との差が開いた白井もまた、

王者に切り返しや突進で逆転を狙った。

どれも、わずかに届かなかった。

次点の7位……機は熟していたが、

ほんの少しだけ機力が足りなかった。そんな気がする。

 

 

(photos/チャーリー池上、text/H)