BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――名人位に王手!

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 9R終了後に、12R出走組のスタート練習が行なわれている。イン水域には鈴木幸夫。やはり前付け必至か。2コースには今村豊、以下、日高逸子、北川幸典と入っていく。そう、このスタート練習には全艇が参加したわけではない。鈴木がインからレバーを起こしたとき、山室展弘はボートを係留所につけて、控室へととことこ戻っていくところだった。水面にはまるで興味を示さず、我が道を行くとばかりに、控室に消えていったのだ。

 きっとイン主張だろうな。そう思った。鈴木の出方がどうあれ、自分は自分の進入をするのみ。レース後の共同会見では「コース? こだわりはないです」と語っているのだが、それは「誰が来てもコースを譲らない」とか「誰かが来て、深くなるようなら入れます」とか、そういう言葉上のこだわりがないと考えるべきではないかと思った。

 12Rは山室がインから逃げ快勝! レース後の会見は楽しかったぞ。

「(今後、何の作業をする?)着替えですね」

 爆笑しそうになりました(笑)。そりゃあ、会見終わったら、まずは着替えなきゃね。居心地が悪いのか、用意されたおしぼりをたたんだり丸めたりしている仕草も、なんだか微笑ましく。名人に王手をかけた匠に対して“微笑ましく”なんて失礼だが、やはり山室展弘の個性は人を楽しませるものだと確信した次第である。

 山室の次に会見をした今村豊は、最後に「山室がよくしゃべりましたね~」とおどけていた。ご存知の方も多いでしょうが、非常に寡黙な山室展弘。しかし、優勝戦1号艇となれば、その責任感もちゃんとある。ちなみに足は「特徴はない。悪いところがないのが、いいところですね」だそうだ。

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 で、今村豊。レース直後は表情がカタくなっており、非常に悔しそうに見えたものだった。会見でも、いきなり「節イチで~す」とおどけて見せたが、本当に快調なときのミスター節はあまり聞かれなかったように思う。足も本音は「優勝戦の6人のなかでは、正直見劣りする」とのこと。敗れた悔しさと機力への不満は、なかなか消えないようであった。

 ただ、北川幸典を捌いた1周2マークのターンは「今節一番のターンでしたね」。もう一度口を開くと、「近年にないターンでした」とさらに格上げ。2艇を行かして差して突き抜けた旋回はピットで思わず声をあげてしまったほどで、今村自身も胸を張れるものだったようだ。 あ、ちなみに「明日は1マークを右に回りますよ」とも言っていて、何のことだろうとずっと考えていたのだが、さっきふと「6号艇だから、レースが右回りになれば自分がインコース」という意味ではないかと察した次第。難解なギャグだな……。

 

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 10R、このレースは亀本勇樹がある意味で主役であった。スタ展では動いて内4艇が抵抗、枠なりだったが、亀本までがスローで深めになっていた。本番も動く素振りは見せたが、5コースでカドに。1マークは展開を突いて2番手に浮上している。水面際のベンチで観戦していた篠原俊夫が「よし! カメちゃん!」と熱い声援を送っていた。 しかし、2マークで内から伸びてきた吉本正昭に捌かれてしまう。篠原は声を失い、ため息をひとつついていた。当の亀本はというと、これがもう、どえらい不貞腐れ方(笑)。いや、悔しがっていたということなのだろうが、仕草がどうにも不貞腐れているように見えてしまったのだ。異常に遅い歩様。うなだれたまま前を向こうともしない落胆ぶり。ヘルメットを脱ぐと、疲れ切った表情。まるで悔しさを隠そうともせずに、ただただ落ち込んでいたのだ。

 そんな亀本に、多くの選手が歩み寄って声をかける。どの顔も亀本とは対照的に笑っていた。「惜しかったな~」という笑いだと思うが、その様子が亀本の人柄や選手間での人気ぶりを物語っている。昨日、今村が「カメに負けたのが相当ショック」と言っていたことを記したが、そんなふうにいじられるのが亀本らしさで、つまりそれは誰からも愛される人柄ということだ。明日は勝利の笑顔を見せてください、カメさん!

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 勝者はともに充実感あふれる様子。会見にあらわれた吉本正昭は、終始ニコニコしていて、こちらもお人柄がうかがえる表情。「出足と回り足がよくて、回り足とかかりは誰にも負けない」とのことで、H記者の見立てとちょっと違う? で、優出までこぎつけた成績を「神がかってますね(笑)。明日はもう1回、何かが降臨してくれればいいですね、フフフ」とのこと。このリラックスぶりが、ちょっと怖いな、と思った。

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 井川正人に関しては、まずは多くの選手が「井川さんがいちばん出てる」と証言していることをお伝えしておこう。昨日までは直線が鬼足で、ただ起こしが満足できなかったとのことだが、調整が当たって、直線は昨日までほどではないが、スローの起こしから行き足が来た、とのこと。つまり、スローからもスリットから出ていく足になっているということだ。また伸びも負けることはないというから、総合的な仕上がりは最高ということ。進入のカギを握るのは西島義則だろうが、展開のカギを握るのは井川になるのではないだろうか。

 その井川、会見が終わって立ち去る際、「ありがとうございました!」と声を張り上げ、頭を下げた。やっぱりお人柄がうかがえたのでありました。

 

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 11Rは瀬尾達也の一撃に尽きる。瀬尾らしいというか、さすがの一言。まさにおあつらえ向きの隊形であり、まくられた西島義則も「ああなったら仕方ない。でも、これ、ないよな~」と苦笑いしていた。

 これで瀬尾は3号艇となったわけだが「カド受けよりはカド」と言っていて、西島の前付けを想定する物言いをしている。問題は、そう語ったあとに12Rの結果が出て、コースを主張するならオールスローになってしまいそうなこと。瀬尾の判断はおおいに注目されるところだ。瀬尾が今村を入れれば、吉本もマーク策に出るかもしれず、4対2の隊形がありうるのだが果たして。ちなみに、瀬尾は非常にリラックスしているとのこと。たしかに今節を通して、肩の力が抜けた様子で、やわらかな表情でいることが多かった。

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 まくられながら残した西島は、先述したとおり、残したことよりまくられたことがとにかく悔しい様子だった。長嶺豊さんが「よく残したな~。えらいわ~」と讃えているのに、口を突くのは「この隊形、ないわ~」。実は瀬尾に舳先はかかっており、抵抗して先回りしようと思えばできたそうだが、ここで競り合えば大敗の可能性があり、準優ということを考えて2着に残すほうを選んだとのこと。そう判断せざるをえなかったこと自体、イン屋としては屈辱であろう。道中は瀬尾との差をつめるシーンもあり、本気で抜こうとしていたとか。とことん悔しかったのだ。

 なお、明日の直前情報には注目してほしい。今日のペラは、大嶋一也が2号艇にいたことでピット離れ仕様のものをチョイスしたそうで、もう1枚、足がさらにいいペラがあるのだそうだ。もし交換してきたら、伸びも含めたパワー重視で、交換がなければピット離れ仕様でコースを狙いにいくもののようである。

  このレース、敗れた倉谷和信の表情も印象に残っている。ひたすらカタく、黙って悔恨を噛み締める姿が、圧倒的に「男」であった。今節は、柔らかい表情も目立っていたが、勝負と向き合った時にはその迫力ある勝負師の顔をのぞかせる。そこに倉谷の信条や哲学があらわれていると思った。

 なお、10Rで転覆してしまった岡本慎治は、体は無事の様子。明日はこのウップンを晴らす走りを見せてほしいぞ。(PHOTO/中尾茂幸=今村、吉本 池上一摩=それ以外 TEXT/黒須田)

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