ケタチのパワー決着
10R
①井川正人(長崎)21
②吉本正昭(山口)20
③岡本慎治(山口)18
④松野京吾(山口)21
⑤亀本勇樹(広島)19
⑥中村裕将(東京)19
スリットは、遅めなりにきれいな横一線。こうなれば、今節の井川をパワーで攻め潰せる選手はいない。インからぐんぐん伸びた井川は、半艇身の余裕をもって1マークを制圧した。これでもう1着は確定。もつれたのは2着争いだ。2コース吉本の1マークは、半端な握りマイになった。差そうか、握るか。少し迷ってから、握った感じ。回り足への不安が、迷いを生んだか。2着もおぼつかないターンになってしまった。
1マークの出口。そんな吉本の内外で、ほぼ同時に“事件”が発生する。まずは外、3コースから握りマイで攻めた岡本が、振り込んで転覆。そして、内では亀本の決め撃ちのまくり差しが、吉本を完全に捕えきった。このふたつの出来事は、亀本の優出を約束したかに思えた。転覆艇が出た以上、2マークが実質的な最終関門になる。亀本は3番手の吉本を、一瞬にして2艇身突き放している。あとは、この優位を保って2マークを先取りすれば、優勝戦のキップが手に入る。
だが……バック直線、吉本がぐんぐんぐんぐん亀本ににじり寄って行った。2艇身差が1艇身になり、舳先が入った。伸びが、違いすぎる。亀本には悪いが、両者のスピードは文字通り兎と亀のようだった。
雌雄を分かつ2マーク、優位に立った吉本は全速でぶん回した。セオリーとしては、落として回るべきところ。このレースの着順は、150m先のゴール地点でほぼ決する。最内で舳先さえ掛かっていれば、外の艇より優先される。握って回れば、絶対有利な内コースを手渡すことになる。これを熟知している亀本は、迷うことなく差しハンドルを入れた。届けば、2着。
が、吉本のスピードは、そんな亀本を失望させたに違いない。あっという間に、2艇身ほど千切り捨てていた。吉本の選択は正しかったのだ。回り足より、伸び。16号機の持ち味を、今度は120%引き出した。
1着・井川、2着・吉本。
疑うべきもない、パワー決着。優勝戦では人気の盲点になりそうなA2コンビだが、このパワーを生かしきれば……番狂わせは、十分にありえる。
人機一体まくり
11R 進入順
①西島義則(福岡)08
②大嶋一也(愛知)13
③倉谷和信(大阪)12
⑥池上正浩(岡山)24
④瀬尾達也(徳島)08
⑤新良一規(山口)14
上記のスタートタイミングをご覧あれ。池上と瀬尾の数字だ。その差、コンマ16。丸々1艇身差。しかも、瀬尾は5カド。しかも、前シリーズで「節イチ」の名をほしいままにした36号機……スリットからさらに池上を置き去りにしつつ、瀬尾はゆっくりと舳先を内に向けた。絞る必要もないほどの、アドバンテージまくり。スリットで同体だった西島も、この余裕のハコまくりを防ぐことはできなかった。「いつものように抵抗したら、流れすぎて絶対に2着もなくなる」そんな態勢だったのだ。もちろん、これが優勝戦なら話は別だがw
バックは瀬尾の一人旅。屈辱の一撃まくりを浴びながら、小回りで残した西島が2番手を取りきる。惜しかったのは、瀬尾をマークした新良だ。しっかりと瀬尾まくりに乗って、1マークでは突き抜けるか?というスピードのまくり差しだった。が、肝心のターンの出口で艇がズルリと流れる。この日の新良のパワーは、恐ろしいほどの伸び型だった。展示タイムの6秒52は、今節のトップ時計。チルト3度の田上晋六より速い猛時計だ。6コースと呼んでいた新良は、おそらく伸び足だけを特化したのだろう。だからこそ瀬尾を完全マークできたのだが……仕上げの回り足に費やすだけの釣り銭がなかった。
1着・瀬尾、2着・西島
スタート一撃だけに、これをもって瀬尾=超抜とするのは早計だ。が、これまでの素性を加味すれば、否定するのも早計に過ぎるのだ。最近は「優勝請け負いモーター」とまで呼ばれる36号機に、元祖・ミクロスターターの破壊力。明日は西島を入れての4コースか。はたまた、今村まで入れての単騎ガマシか。レースを作るのは、この人機かもしれない。
完璧なリハーサル
12R
①山室展弘(岡山)06
②今村 豊(山口)11
⑤鈴木幸夫(愛知)13
③日高逸子(福岡)13
④北川幸典(広島)11
⑥富山弘幸(大阪)15
スタート展示で一目散にインを奪った鈴木が、本番では3コースですんなり折り合った。どんな心理、思惑、作戦だったのか、私にはわからない。小回り防止ブイのあたりで、山室が睨みを利かせたようにも見えたが(笑)。とにかく、この待機行動で山室の勝機と、1-2の確率は一気に倍増したはずだ。110mほどのたっぷりの助走から、山室は落ち着いた素振りで艇を発進させた。コンマ06。すべてコンマ10台だった他艇は、何もできなかった。優勝戦の1号艇へと続く完勝劇。今日も山室節は軽快だった。
「やっぱり、インを取られると、今村さんに悪いですからねぇ」
「僕の役目はもう終わり。あとは今村さんに任せます。今村さーーん、頑張れーーー!」
圧勝だったから、パワーに自信があるから、などという理由で饒舌になるような選手ではない。いつでも、やんちゃ。独走する山室の背中を見ながら、私はこんな雑念を抱いていた。
あとひとつ勝てば、山室オンステージか……いったい、どんなんなってまうんだろ、表彰式。
もう、考えるだけで楽しくって仕方がないのだ。もちろん、我々中年に夢と希望を与える今村節や、気骨と闘魂に満ちた西島節に聞き惚れたい、という思いもある。が、何をやらかすか想像だにできない山室オンステージ、これはもう私にとって“別次元の宝物”なのだ。マジ、見たくて見たくて、たまらない。オンステージが見たいからレースで応援?って本末転倒のようだが、選手が個性を発揮し披露するのは、水面だけである必要はない。同い年の私は確信している。山室展弘という人間は、タレントやお笑い芸人をひっくるめても、国内十指に入る天才エンターテイナーだ、と。
つい熱くなってしまったが、とにかく私は明日のあれやこれやを考えてほくそ笑んでいたわけだ。
「山室のどこがおもろいか、さっぱりわから~ん」 という読者は、明日、この下関までいらっしゃい。口や文ではうまく説明できない。どう伝えても、等身大の山室にはほど遠い。実際に至近距離で、その顔を、話を、態度を、身体の動きを見てほしい。間違いなくあなたも、山室のトリコになる。山室のことを、周囲の人間に話したくてウズウズしてくる。山室を抱きしめたくなる。きっとなる。必ずなる。そのために、明日、山室は絶対に勝たなくてはいけないのだ。うん、やっぱり本末転倒かな。(Photos/中尾茂幸、text/H)